第2話 新入生代表


 俺は、彼女を知っていた。


 俺に抱きつき涙を流す、白い髪の可愛らしい少女。

 教室の隣の席になった事から縁が生まれる、笑顔の似合う優しく臆病な少女。

 その背中に回された華奢な腕も、震える肩も、消え入りそうな息遣いも全部俺の知っている通りのもの。


 だからこそ、目の前の歪な現実に俺は開いた口が塞がらなかった。



「ノノア……まさか、覚えてるのか……?」

「──! うん゛っ! ……うん、うん!! 覚えでる゛! わだじ、ユーロの事全部覚えでるよ゛っ!!」



 俺はその言葉に目の前が真っ暗になる感覚を覚える。

 往来のど真ん中で痛い視線に晒されながら、それでも一歩も動けずただ頭を抱えることしか出来なかった。


 この世界の彼女は、まだ俺を知らない筈で。

 それはやり直し故の当然の回帰であり、今まで一度も覆ったことの無い絶対的なルールだったから。



 ──ノノア・エレノイト。

 俺が数多の周回の中で、何度か共に生きることを選んだ少女。

 料理が好きで、回復魔法が得意で、無茶をする俺を叱りながらそれでもずっと隣で笑ってくれていた彼女。

 優しくて臆病で恥ずかしがり屋で、下手すれば敵である悪魔にすら同情したこと何かもあったと記憶していた。


 そして、何時だって俺たちは絶望的な死別を迎えた。

 聖夜に訪れる、悪魔のルフレ学園第二次侵攻。

 何度、繰り返したかはもう覚えていなかった。

 何度繰り返しても彼女と過ごした世界では、どう足掻いても今年のクリスマスを二人で生きて越えられた事は無かった。


 だから、俺はいつしか彼女と生きる事を諦めたんだった。

 そんな、の彼女が今俺の目の前であの時のままに泣き腫らしていた。


「なんで……最後の、最後に……」


 奇跡だって、時と場合を選ばなければ絶望に変わる事を俺は今日初めて知った。

 もしこれが、周回の最中だったなら俺はどれ程喜んだ事だろうか。

 積み重ねたものが全て白紙に消える絶望を、分かち合う存在が出来たことにどれ程安堵した事だろうか。

 けれど、今は事情が違った。

 最後の最後で今までのノウハウが通じなくなるイレギュラーなんて、とてもではないがそんな事望んでは居ないのだ。

 

 だから、俺は震える手で彼女の頭に優しく触れた。

 何度も、そうした事を覚えているから。


 ことある事に彼女がそれをせがんで、抱き合いながらその髪を梳いて彼女はそれに嬉しそうに目を細める。


 だから、俺は確かめるように彼女の髪に触れた。

 ──彼女は泣きながら、それでも嬉しそうに目を細めてしまった。





「──ユーロ……私っ、もう会えないと思って……っ!」





「──もう、居なくならないで……!」





 その言葉に、涙に、ああそうだろうなと思った。


 ──もし目の前で好きな人が死んで。

 来世こそは一緒に幸せになろうと約束して、本当に奇跡が起きてその来世が訪れたとしたのなら、そんな中で冷静さを保てる者が一体この世界にどれほど居るというのだろうか。

 その答えが、目の前の存在のような気がして。


 俺はこの感動的な再開に、殺してやりたいくらいに神様に対して腹が立った。



「ノノア、俺は…………」

「ユーロ……?」



 もしこれが神様の厚意だとしたら、それは何と無知で残酷な事だろうか。

 それともこうなる事を知っていて、神様はこれ以上の周回に限界を感じたのだろうか。

 そんな事は分からない。ただ、今の俺は少し冷静では無いことは確かだった。


 ──ああ、ノノアの手を取ることが出来たのなら、それはどれだけ幸せな事だろうかと思う。

 この不安を分かちあって、話したかった事を全部話して、この最後の世界を二人で過ごせたならどれだけ笑って死ねるだろうかと夢想する。


 けれど、その先の未来には残酷な結末しか無いことを、俺は苦しいくらいに知っていたから。


 俺がいくつも重ねた周回の果てに出した結論は、「本気で魔王を倒したいのなら、ノノアと関わっている時間は無い」というものだったから。


「──え?」


 だから、俺は彼女の肩に手を置いて──そして、引き剥がした。

 その事実に彼女の目は震えて、冷たい視線を携えた俺に何かを察した聡い彼女は不安でその身体を小刻みに揺らした。


 彼女と過ごした気持ちが嘘な訳はない。

 それでも。俺は本気で彼女を救いたいからこそ、今彼女を傷つけてでも離れ無ければならなかった。


 俺は、ここで彼女の手を取ってしまう訳にはいかないから。

 だから俺は、揺れ濡れる彼女の目をまっすぐ見て、




「──俺は、を知らない」

「………………………え?」



 決別の言葉を、告げた。

 唯一触れていた彼女の肩からも手を離して、俺は彼女から一歩、距離を取った。

 正直泣きたい気持ちでいっぱいだったが、それでも無理やり堪えた。

 そんなものを見せていては、きっと彼女も揺らぐだろうから。



「お前の夢の話を、急に持ち込まれても困る」

「…………え? ……え…?」

「……さっきのは言葉の綾だ。…俺たちは、初対面。約束何てしてない……そういう訳だから」



 言って、俺は足早に背を向けた。

 今の言葉に無理が有る事くらい、聡い彼女になら分かるだろうとは思った。

 けれど、だからこそ明確な拒絶の意志も同時に伝わったとも思う。


 俺は振り返らず、この噴水広場を後にした。

 これ以上彼女の泣き顔を見るのは、どうしたって辛かったから。

 これ以上ここに居ては、どうしたって後悔が生まれてしまうから。


 だから、俺は零れて止まらない涙を彼女から隠しながら逃げる様に彼女から離れた。

 これでいいのだ。むしろ、これしかない。

 そう自分に言い聞かせながら、俺は血が滲むほどに拳を握りしめた。


 今度こそ魔王を退けなければいよいよ世界が滅ぶのだ。

 俺は勇者であるからこそ、その責任を理解しているからこそ彼女を本気で救いたいのならこうするしか無かった。



 俺は、世界に一人しかいない勇者だから。



 だから俺は、このやり直しの効かない最後の世界で自由を捨てる決意をした。



 俺の未練が血となって、噴水広場に消えない跡を残している事にも気が付かないまま。





















「うあああああああん゛!! まっでぇ゛ぇぇえ──!!」

「うおァ──ッ!?」


 ──しかし、この残酷な世界の様に現実はそう上手くは動いてくれなかった。


 俺の腰に再度、今度は容赦無しのダイブタックルをかましてノノアは俺の背中にしがみついた。

 俺はその勢いのままに地べたに押し倒されて、噴水広場前の人混みの中で冷たい視線に晒されながら地を這った。


 俺の決心は僅か数秒で物理的に崩れ去り、先程よりも号泣しながらしがみつく彼女は最早身動ぎすら許してはくれず。

 それはお前の事情など知らないと、もう勝手に離れる事など許さないと言わんばかりにその抱きしめる力は魔法なしの人一人の出せる代物では無い様に思えた。


 こんな筈では無かった。彼女はもっと聞き分けのいい大人しい子だった筈なのに。



「──ちょ、違っ、そんな場合じゃないんだって!!」

「うあああああああん゛!! ユーロ゛ぉぉ!! 捨でないでぇぇえ゛っっ!!!」

「な、泣くなァ──ッ!? 誰か助けてェ──!!」



 ──俺はつい先程シーラと死別を遂げて、更に神様に絶望的な状況を突きつけられて絶望のどん底まで突き落とされていたのに。

 そして、ようやく得たかもしれない絶望を分かち合える存在を自ら切り捨てる決断をしたと言うのに。


 それが今や、何だこれはと思った。

 俺はあまりのギャップに別の意味で溢れる涙をいよいよ止める術を持って居なかった。




 結果。俺たちは入学初日に正門前で別れ話をする超バカップルとして広く知られる事になった。


 それは下手すれば今後の計画にすら響く失態であり。

 俺は入学初日に最後の周回を諦めかけるという前代未聞の境地に立たされていた。

















───────────────

────────────




「……という訳で、この子連れてスピーチして良いですか」

「──いい訳ないだろ…馬鹿か……?」


 講堂、舞台裏の待合室。

 俺は生徒会副会長のミュタ三年生に時間もないので事情をできる限り端折りながら説明し、結果痛い子を見る目と共に馬鹿者の烙印を頂いてしまった。


 しかし当然真面目に懇願している訳では無かった。

 あの後どうしたって離れないノノアを無理やり引き摺ってここまで来た俺は、もう俺の手には負えない事を確信して第三者の、それも公的な立場から離れるよう促して貰う為に彼女へと言葉を投げかけたのだ。


 そして、


「ほら……もういい加減離れてくれ……」

「いやっ!」

「子供かよ……」


 しかし、彼女はそれでも往生際悪く俺にしがみつく事を辞めようとはしなかった。その様子を見て、俺とミュタ副会長は合わせたようにため息をつく。


 講堂では既に入学式は始まっていて、新入生代表スピーチは刻刻と目前まで迫っていた。

 そしてこの場にいるミュタ副会長以外の生徒達からの視線も痛く、俺に理解と同情を示してくれる優しく聡い心の持ち主はただの一人としてここに居なかった。


 孤立無援とは、こういう事を言うのだろうか。

 或いは四面楚歌。

 俺は何を呪えば良いのかすらだんだん分からなくなってきて、それでも最後故に投げやりになる訳にはいかない矛盾とやり場の無い怒りに再び拳を握りしめた。


「正門前の騒ぎの報告は聞いてる……様は痴話喧嘩の最中なのだろう?」

「全然違いますって……。はぁ………なぁ、どうしたら離してくれる…?」

「一生離れないで居てくれたら……」

「パラドックスかよ……」


 強情な態度を崩さない彼女に、俺は心から失敗したと思った。

 心に傷を負った彼女に追い打ちをかけるように拒絶して、結果なりふり構わず暴走する盲目な少女へと変えてしまった。


 目前に迫った入学式の新入生代表スピーチ。このままボイコットして彼女に事情を説明する時間が作れたなら幾らか楽だったが、実の所そういう訳にもいかなかった。

 俺は周回の果て見出したとある理由により、この学校の生徒会長を目指さ無ければならないのだ。

 つまりこう言った大勢の前のアピールの場は数少ない重要な場で、それこそ正門前で悪印象を稼いでしまった以上今回は特に避ける事態は憚られた。


「ノノア、ごめん……後で説明するから」

「な、何……!?」


 故に俺は心を鬼にして、ミュタ副会長に無理やりにでも引き剥がしてもらうようお願いした。

 その言葉に絶望の顔を浮かべるノノア。そして不承不承とノノアの足を掴んだミュタ副会長。けれどノノアの意志と覚悟は俺が思っていた以上に果てしなく硬かった。


「離してぇぇっ!!」

「コラ暴れるなッ!」

「………………」


 俺とミュタ副会長の間で必死な表情で橋のようになっている彼女を見て考える。

 今のノノアの執着は非常に厄介と言えたが、果たしてこの記憶の継承は彼女一人だという保証があるのだろうか。

 もう何度繰り返したかも分からない全ての世界線の中で言えば、彼女と関わった時間や回数はまだ少ない方だと言っていいと記憶していた。


 彼女の持つ記憶が前回のものだとしたらまだ幾らか分かり易かった。けれど、残念ながらそういう訳では無い様なのだ。

 ミュタ副会長の様子を見て、俺と関わった全員が記憶を持っている訳では無いとは分かったがそれでも不安要素は拭えない。

 もし記憶を継承しているとなると、それはもう面倒になりそうな顔がいくつも思い浮かんだ。


 前回のシーラともそんな感じの約束をした筈だった。

 俺は決して、自分が軽い男だとは思いたくはない。

 それでも、結果から見れば数多の人生が今収束して俺を追い詰めている様な気がした。


「──やぁあああだあああああっ!!!」

「──おい! いい加減離れろ! 会長にまで迷惑かけたらお前ら本気で許さないからな!?」

「俺もですか……!?」

「……ユーロっ!何で、そんなに離れたがるの……っ! 私の事嫌いになっだのっ!?」

「いやだから、今は時間が……!」



「──何の騒ぎだ」


 ノノアの全力の抵抗に怯んでいると、とうとうその人が現れてしまった。

 威厳の籠った声と共に騒がしい控え室の扉が開かれ、中に入って来た金髪の男に俺は当然の如く見覚えがあった。


 ネイル生徒会長。

 ここルフレ魔術学園を統べる、今の所歴代最高支持率を誇る三年生最強の文武両道の男。


 その視線の鋭さに、俺は思わず背筋が伸びて少なくない冷や汗を走らせた。

 仲間になる条件が分からず魔王討伐こそ共にした事は無かったが、それもいつか試さ無ければならないと思っていた程には強く、そして頼りになる男。


 少なくとも、やり直し直前の今の俺にやり合える相手でも無ければ、こういう機会でもなければ話を聞いて貰える様な身分でも無いのだ。


 そんな重要な相手との初対面を、こんな巫山戯た状態で迎える事に今日何度目かも分からない焦燥と悔しさを感じた。

 ネイル生徒会長は、真面目で堅物で融通が効かないことで有名なのだ。


「……直に新入生代表が呼ばれる。遊ぶのはここまでにしろ首席、新入生」

「いやあの、俺は……」

「私とユーロはもう一生離れませんっ!!」

「──大きく出たな」


 ノノアの言葉に会長は目を細め、俺ですら緊張してしまう様な威圧感を纏った会長にしかしノノアは一歩も引かなかった。


 ノノアは本来、びっくりするくらいに普通の女の子だ。

 それこそ、生徒会長なんて大物を前にすればそれだけで緊張で身体を固くし、仮に目の前に危険が迫れば震えて動けなくなってしまう様なそんな平凡な少女だった。


 そんな彼女を悪魔の攻撃から庇って俺は何度も死んだのだから、それこそ彼女の弱さ・優しさは世界一知っているつもりだった。

 だからこそ、最早別人と言ってもいい程の変わり様に俺は少し違和感すら覚え始めていた。


 考えられるとすれば、彼女の抱える絶望の記憶と俺の拒絶こそがここまで盲目にさせているとしか思えなかったが。

 それにしたって周りが見えていないにも程があると思った。記憶があるのなら尚のこと、この学園で会長に楯突いて良いことなんて一つたりとも有りはしないと、聡い彼女なら分かる筈なのに。


『──続いて新入生代表、ユーロ・リフレインさんお願いします』


「……潮時だ、一年」

「嫌ですッ!」


 俺は記憶と後悔のせいで彼女に強く出ることが出来ずにいた。

 しかし当然会長がそんな事情を知る筈も無く、聞き分けのないノノアへと一歩、強かに近づいた。

 彼からすればノノアは、由緒ある学園の入学式を滞らせる生徒として相応しくないただのノイズ。


 退学にまではならないとは思うが、それでも確実に俺との距離は今後強制的に絶たれるだろうと思った。

 それは、勇者としての俺にとっては正直願ったりな状況ではある。


「………………っ」


 けれど、やっぱりそれでは駄目だと思った。

 一度は拒絶して、しかしそれを受け入れられなかった彼女を見て、そんな事をすれば彼女の心が壊れてしまうだろう事を俺は失敗してようやく確信した。


 その先にあるのは自死か、狂乱か。そんな世界を救った所で、俺はそこに価値を見いだせなかった。


 だから、


「──会長、ちょっと待って貰えませんか?」

「何?」

「すいません、本当に少しで大丈夫です」


 会長が怪訝な顔を俺に向ける。

 あのまま黙っておけば、少なくとも会長の俺への印象はこの場においてはただの被害者で済んだだろう。

 けれど、俺はちゃんと向き合う事を今更ながらに心に決めた。


 多分、結局最後は彼女の気持ちには答えられないとは思う。それでもちゃんと話し合い、理解を求め合う事は今は確かに重要な事だと思えた。

 だから、俺は胸の中に収まる彼女の目を正面から捉えた。

 今更ちゃんと見たその目は酷く脅えていて、今にも壊れてしまいそうな程に脆く儚かった。



「……ごめんノノア、さっきは嘘ついた。本当はノノアの事、ちゃんと全部覚えてる」

「ユーロ……」



 最初からこうしておけば良かったと思う。

 彼女との問題はきっと逃げて解決するものでも無く、目を背けたところで知らないところで悪化するだけ。

 仮に距離をとったとしても、それで彼女の抱えるものは無かった事になる筈もなくそれはただの現実逃避だった。



「勝手にノノアの事考えた気になって……ちゃんと話し合う前に、ノノアを拒絶して傷付けた」


「──ホントにごめん」


「けど、それじゃダメだって今更だけど気が付いたんだ」


「多分ノノアの知りたい事、俺なら説明できると思うから」


「だから、これが終わったら二人で話そう」



 優しくて、気弱で、下手すれば悪魔にだって同情してしまう笑顔の似合う同級生。

 そんな彼女がなりふり構わず縋る程、彼女は俺を求めてくれた。

 それに答えないまま仮に世界を救ったところで、それではノノアは救われない。


 それこそ、何度も恋人になったのだから俺は彼女の事をよく知っている。

 だから俺は彼女の目を真っ直ぐと見て、きっと分かってくれるだろうとその頭を優しく撫でながら今の心の内を素直に話した。



「大丈夫。俺はもう死なないし、勝手に居なくならない。もう一度“約束”するから」

「ユーロ……」


「…………」


『? ……新入生代表、ユーロ・リフレインさんお願いします』


 講堂は今頃、未だに姿を現さない俺に対してざわめきが起こっている事だろう。

 それでも、俺は今だけは彼女を優先した。


 副会長や会長にはさっぱりな会話だったろうけど、真剣な空気からか二人は黙って見守ってくれた。

 融通の効かない会長にしては実に気の利いた事だと失礼ながら心の中で笑った。


 だから、俺はそんな二人への感謝も込めて、せめてこの場だけはちゃんと収めようと今出せる精一杯の笑顔をノノアへと向けた。

 ノノアが好きだと言ってくれた、俺の笑った顔だ。

 自分で自分の顔の善し悪しなんて分からないが、それで彼女が安心してくれるのならこの歪んだ世界でもいくらだってそれを表に出そうと思えた。



「な?……今は少しだけ待っててくれ、ノノア」

「ユーロ……」



 そして。

 彼女の少し綻んだ顔を見て、俺の思いはちゃんと届いたと感じた。

 少しだけ、でも確かに心の内の闇が晴れたような、しこりがひとつ取れたような顔を浮かべるノノア。

 正直これから先のことを考えると頭痛しか起こらないが、それでもこのスピーチさえ乗り切ればしばらく時間の余裕は出来るはずだった。


 その間に彼女と俺を取り巻くものをちゃんと整理して、最後のループを共に生き残る方法を見つけ出すのだ。

 簡単なことでは無いだろう。きっとノノアが望むような結果にはならないのかもしれない。

 けれど、今出せる結論としてはこれが最適解な気がした。


 俺たちはちゃんと心で通じ合い、言葉を交わすことができる人間だ。

 例え一緒に居ることが叶わなくとも、それでも俺たちはこの世界で生きている。


 だからこそ、俺たちはまず信じる事から始めようと思う。

 その第一歩目は、まずは俺から手本を見せるのだ。



 ノノアは優しい子だと知っているからこそ、俺は彼女を信じられた。

 彼女の中にある勇気を信じて、その頭を最後に優しく撫でた。














「──嫌です!」















『──新入生代表のユーロ・リフレインです。……隣の子は気にしないでください』

『えへへへ……!』















 俺はこの日、伝説となった。





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