探しています
@rona_615
第1話
A4サイズのそれは、電信柱にガムテープで貼られていた。ラミネート加工されてはいるが、幾度か雨に打たれたようで、全体的に撓んでいる。
真っ赤なゴシック体で書かれた「探しています」という言葉。集合写真を引き伸ばしでもしたのか解像度の低い男の顔が、真下に配置されている。
駅へと向かう足を止め、身体ごと向き合ったのは、不審なものを感じたからだった。
猫や犬ならよくある、迷い子の捜索だが、人間というだけで、違和感はある。ましてや、たった六文字と写真だけで構成されていれば、尚更だ。
連絡先も、男の情報も、いなくなった経緯も、書かれていない。
首を突き出すようにして、男の写真を注視する。画像は荒いが、たぶん20代から30代くらい。紺色のシャツの襟が辛うじて写っている。顔のすぐ近くに、他人の頭があるから、集合写真の一部なのは間違いないだろう。額の中ほどまでの前髪の下で、彼の目はしっかりと閉じていた。
その奇妙な貼り紙は、街のあちこちで見かけるようになった。違和感を持つ人も多いのか、SNSにもいくつもの写真がアップされていた。彼を見つけたという投稿もあったが、そちらの方は疑わしいものばかりだ。
インターネット上での話題など、長く続くものではない。電信柱に貼られたチラシも、いつの間にか撤去されていた。
そのくらいの時分からだろうか?SNSでの書き込みに「彼を夢で見た」というものが現れ始めたのは。
チラシを目にしていた人間の夢の中で、それが再現されるのは、おかしな話ではないだろう。じわりじわりと噂が広まったのは、それに返信する何者かがいたからだった。
数字とアルファベットがランダムに並ぶアカウント名。夢のシチュエーションを聞きたがり、その最後には「本物です。情報提供ありがとうございます。」だとか「それは私が探しているものではないようです。お時間をいただき、感謝します。」だとか、丁寧な挨拶を送る。
ヤラセだという指摘もあったし、迷惑行為だとの訴える人もいた。それでも、アカウントは凍結されることもなく、聞き取り調査のようなものを続けていた。
彼とも彼女とも知らない、その何者かが自分から書き込みを行ったのは、チラシを見かけてから、一年も経った頃だった。
たった一文だけ「見つけて殺しました」と。
探しています @rona_615
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