第6話 自覚とチャレンジ
馬車にのせられて屋敷へ帰る間、私はぼうっと考えていた。
精霊王の提案を蹴ってまで傍にいたかったこと、彼のことをもっと知りたいと願っていること。
心配してくれることがとても嬉しいこと。
そして……今日のこと。
彼の傍にいられると安心し、離れると不安になる。
それらが導く答えはとっくに決まっているような気がした。
(……やっぱり。ノルヴィス様のことが好き……なのかしら)
人を好きになるという感覚自体が初めてなのだから、これがそうなのかは自信がない。
けれどもイニスやラウ、使用人たちにこの感覚は持たない。
これはノルヴィス様にだけ向けられた感情なのだ。
そこではたと気が付く。
(私のこの感情が好意なのだとしたら、真実の愛を与えてあげられるのでは……?)
もしかしたら解けるかもしれない。
ノルヴィス様が同じ気持ちかは分からないけれど、試してみる価値はあるだろう。
一回で成功させなくてはいけないということもないのだろうし。
「……」
外の景色を眺める彼の顔を盗み見る。
輝いて見えるのは夕日のせいか、それとも……。
「……」
ごくりと唾を呑みこむと決意を固めた。
「ノルヴィス様……」
私はそっと彼の座っている隣へと行くと彼の袖を引いた。
振り返ったノルヴィス様はとても驚いた表情をしていた。
「ど、どうした?」
「……その。私……、えっと」
顔が熱い。
きっと今の私は真っ赤な顔をしているのだろう。
だって今から言わなきゃいけないことを意識すると仕方のないことだけど。
面と向かって彼の顔を見られなくてちらりと様子を伺うと、彼もなんだか赤くなっているような気がした。
「その……ノルヴィス様」
「あ、ああ」
「短命の呪いを解くには真実の愛が必要なんですよね?」
「……そう、だな」
「どういう判定なのでしょうか? お互い思い合っていれば何をしなくてもOKなのでしょうか?」
「いいや、ふれあいは必要らしい。……キスで分かるとは書いてあったが……」
やはりただ単に思い合っているだけではダメなようだ。
予想していたことだから驚きはしないけれど、そうなるとキス、してみないと分からないのだろう。
握った手がジワリと湿りだす。
これから言葉にすることが恥ずかしくて仕方がない。
でも、これで
「……では、私と……その、してみませんか?」
「え?」
「キス、です。何も一回しかチャレンジしちゃダメなんてこともないでしょうし……」
上目遣いで顔を上げればごくり、とノルヴィス様の喉がなったのが分かった。
恥ずかしすぎて死んでしまいそうだ。
「ダメ……ですか?」
「フ、フラリア……」
ずっと見ているのも恥ずかしくて彼の答えを聞かずにすいっと顔を寄せる。
「フラリアは意外と大胆だなぁ」
唇が付くかというちょうどその時、聞き覚えのある声が至近距離から聞こえて目を見開いた。
声のした方を見れば、向かいの席には精霊王の姿があるではないか。
「精霊王!?」
「やあフラリア。精霊王なんて呼ばないでおじい様と呼んでくれ」
半透明の体でニコニコとこちらを見ているおじい様。
というかこの状況を見られた……?
「っっっきゃーーーーー!!」
ぼわっと頭が
恥ずかしさで死にそうだ。
「なななななんで!」
「いやな、アコニが反応したから様子を見に来たのだが……いやはや。可愛らしいお誘いだったな」
「っ!」
ばっちり見られていたし聞かれていたようだ。
羞恥心で心が死んだ。
お守りとして持ってきていたヴェールを被り顔を覆う。
「……おい、何しに来た」
ちょうどその時ノルヴィス様の低い声が馬車に響いた。
「おお怖い怖い」
それにおちょくるかのようなおじい様の声がぶつかる。
馬車の中の温度が下がったような気さえした。
そのままぶつかるのかとも思ったが案外早くおじい様がひいたことで空気が直っていく。
「忠告をしに来たのさ。
「ぬかせ。どうせフラリアとのキスを阻止するために来たんだろう?」
「察しがよくて助かる」
「くそジジイが」
「おお怖い。フラリアよ、こんな奴とは距離を置いた方がいいぞ?」
そのままケンカをしだす二人だったが、私はそれどころではなかった。
(真実の愛のキスだけではダメ……?)
その忠告の意味が分からないのだ。
真実の愛があれば解けるのではないのだろうか。
「さて我は帰るとするかな。じゃあまたなフラリア」
そう言っておじい様は謎だけを残して消えていった。
結局それがどういう意味なのか
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