2章 心の変化
第1話 不思議な感覚
「んん……」
心地の良いまどろみから意識が浮上していく。
目を開けると真っ白な天井が見えた。
カビのないキレイな天井、私の体を柔らかく包み込むベッド、解放的な窓からふりそそぐ暖かな陽の光。
どれも私には縁遠いものだった。
既に公爵邸に来てから1ヶ月程たっているのに、未だに朝起きるたびここがどこなのか分からなくなってしまう。
体を起こすと同時に侍女が入って来た。
「お目覚めですか? 本日は天気がいいですからお庭の散歩などいかがでしょう?」
そう言って
この子はイニス。いつも私の世話をしてくれる変わった子だ。
イニスは私と同じくらいの年なのに公爵邸の中ではベテランに入るくらい長いこと務めている侍女で、代々公爵邸にお仕えしている家柄らしい。
「……今日も来たのね」
「はい! もちろん!」
呆れたように
そもそも侍女なんていらないと言ったはずなのに、気が付くとお世話をされている。
毒があるから、危ないから近づくなといっても「わたしを心配してくださるなんて……!」と変なところで感動されてしまうだけだった。
特に朝なんて露出が多いのだから本当に危ないのに……。
極力肌の露出を減らしてお世話するので大丈夫です、と言われてしまってはもう何も言えない。
イニスはこちらの気も知らないでテキパキと
「奥様! 本日も旦那様が朝食を共にと待っていらっしゃいますよ!」
「えぇ……またなの?」
「ふふ。旦那様、結婚されてから本当に変わりましたよね~! 奥様にべたぼれって感じです!」
「ははは、まさか」
乾いた笑いが出てしまった。
「またまた~! 照れなくてもいいんですよ? だって奥様のお部屋をご自分のお部屋のとなりに持ってくるなんて昔の旦那様からしたら考えられないですもん!」
「本当の夫婦なら部屋が別ってことはないと思うけど」
「旦那様は誰も傷つけたくないという奥様のお気持ちを
イニスはきゃーっと興奮しながら騒いでいる。
……朝から元気そうで何よりだ。
私は死んだ目で鏡に映る自分を
ヴェールを被らなくなった私の素顔がそのまま映っているというのに、イニスは気持ち悪がったり怖がったりという様子はない。
彼女が特殊なのかとも思ったが、屋敷の中を歩き回っていても意外と敵意を向けられることはなかった。
一部
シェフは食事のたびに私の好みを聞いてくるし、部屋もいつの間にか清掃されるし、使用人たちからは暖かい目線を送られることが多い。
……たぶん、みんなイニスと同じように公爵さまと私の仲を勘違いしているのだろう。
だからいつもどぎまぎしてしまう。
(……まあでも、ちょっとは嬉しい……のかな?)
今まで受けてきたどの視線とも違うから。
好意的な視線というものを自分が受けることになる日が来るとは思わなかった。
だけど、同時にとても怖い。
それが崩れる日が来るのが。
(初めから知らなければ何とも思わなかったのに……)
私は早くも本日2度目となる溜息を吐いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます