第33話

 リントが見えなくなった瞬間に、グロウザたちに突き刺さっていた鍼は消え失せ、グロウザの硬直も解かれた。

 すぐに気絶をしている仲間たちのもとへ駆けつけ様子を見る。


「……息はあるな。おい、起きろ! おい!」


 ペチペチとスキンヘッドの男――ドランの頬を叩きながら声を届けた。


「……っ、……ぁ」

「おお、目が醒めたか?」

「……! リーダー?」

「目が醒めたんならお前はトードーを頼む。俺はブラックスを起こす」

「あ、ああ……」


 寝起きで戸惑いがちのドランだが、言われたように地面に倒れているトードーを起こしに行った。


 そして眠っていた男たちが覚醒してから、当然三人の男たちがグロウザに何があったのか尋ねてくる。

 グロウザは奇妙な男に獲物を奪われてしまったことを告げた。


「なるほど。けどリーダーの言うように同業者じゃねえっぽいな」

「お前もそう思うか、ドラン?」

「ああ。だってよ、同業者なら討伐した証拠だけを持って帰ればいいだけだ。けどそいつはあの重てえ身体ごと持っていっちまったんだろ?」


 ドランの質問に「ああ」と短くグロウザは答えた。


「それに横取りするような稀少なモンスターでもねえしな」

「俺もそう思う。確かにAランクだが、同業者に喧嘩を売るデメリットを考えるとおかしな行動だ。この業界じゃ、裏切りとか横取りなんていうせこい真似は嫌われるからな。仕事ができにくくなる」


 自分たちが利用する〝ギルド〟からも良い顔はされないのだ。

 それなのにわざわざ横取りめいたことをするということは、恐らく同業者ではないという結論に至る。


「なら何者なんだ? 俺たちに音もなく近づいて、一瞬で動きを奪うなんてよぉ」


 ドランだけでなく、他の二人も難しい顔で考え込んでいる。


(それが問題だ。あんな優男風の奴、ここらにいたか?)


 自分たちはこれでも多くの戦闘経験を積んでいる。Aランクモンスターだって何度も相手にして倒してきた実績があるのだ。


 そんな四人を一瞬で戦闘不能においやった実力があれば、もっと有名になっていてもおかしくはない。


(あんな赤い髪で、あれだけの腕を持つ……そういや妙な武器を使ってたな)


 それは赤い針。それを使い、相手の意識や動きを奪う。

 そんな技、聞いたことも見たこともなかった。


(魔術の一種、か?)


 そう思い、魔術師であるトードーに針について何か知らないか尋ねてみた。


「赤い針……ですか? う~ん……」

「何もないところから生み出したりできるものなのか?」

「何もないところから? ……魔力……いや、実体化させてるし違うか。なら魔術? 火属性の呪文……かもしれませんね」

「だが熱くはなかったぜ?」


 グロウザの言葉に、トードーはさらに困惑気味に顔を歪めてしまう。


「とにかく、一応〝ギルド〟に戻って報告しようぜ。もしかしたらほら、元々エレファントライナーを捨てた連中が、子供を引き取りに来たってこともあるしよ」


 ドランの言うことも可能性としてはある。しかし調教できずに放置したモンスターを、わざわざまた探しに来るものだろうか?


(……考えてもしょうがねえか)


 今はただ、四人が無事だったということを喜ぶべきかもしれない。

 獲物を奪われてしまったのは悔しいが、それはいつかまた、あの赤髪の男に会った時にでも、真意を問い質してやればいい。


 そう判断し、四人で【リンドブルム王国】へと帰還した。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る