第30話
目的地である【アルトーゴの森】へと到着したリント。
まずはマリネに教えてもらった、エレファントライナーの卵があった場所へと向かうことに。
一応地図を彼女に書いてもらったが、もしかしたら他のモンスターたちに卵の残骸を食われている可能性だってある。
まだ無事なら何かしら情報が掴めるかもしれない。
そう思って歩を進めていくと、大きな樹木が天に昇る竜のごとくうねるようにして大地から生えている場所へと出た。
「確かここらへんのはずだけど……」
地図を見ながら木々の間を探していく。
すると一本の樹木の根元に大きな穴を発見した。自然にできたものではない。何者かが掘って作ったものなのは一見して分かった。
(この爪と歯の跡……間違いねえな)
木ごと地面を掘った大きな穴。その木に刻みつけられている痕跡を見て、エレファントライナーのソレだと推察。
ここを素として利用していた可能性が非常に高い。ただ……。
「……人の足跡もあるな」
恐らくは調査部隊として派遣された人のもの。もしくは討伐屋としてここへやってきている者たちが、情報収集のために訪れた可能性がある。
人がいるのか警戒して穴の奥へと突き進んでいく。
幾つか足跡は発見したものの、人の気配はない。
「――――ふぅ、何とか卵の殻も無事みたいだな」
最奥に辿り着いてみると、洞窟のような大きな空洞があり、その下には草や葉などが敷き詰められてあり、その上には卵の殻が置かれている。
卵の大きさは正面から見て、高さが五十センチメートルくらいで、幅が三十五センチメートルくらいだろうか。明らかに地球ではお目にかかれないサイズの卵だろう。
エレファントライナーの卵は、美食家の間でも人気で、高級食材として扱われている。
リントは周りを確認し、何かエレファントライナーの行く先を示すような痕跡がないか調べた。
「…………やっぱり何もない、か」
あったとしても、先に討伐屋たちがすでに見つけている可能性が高かった。ここに来たのは万が一を期待して来たのだが、そう上手くはいかなかったようだ。
だがそれは普通の人だった場合である。
ここに立つのは、極めて特異な能力を持つモンスター医――リントだ。
リントは、下に落ちている空を拾い上げると、そのまま鼻へと近づけた。
「――――よし、憶えた」
殻には、エレファントライナーの子供のニオイがこびりついている。
当然普通の人間にも嗅ぎ取れる獣臭ではあろう。しかしリントにとって、嗅ぐという行為は、そのニオイを辿り源を探し出す効果を発揮できるのだ。
それはまさに――追跡犬。
これが、リントの秘められた能力――名付けて〝超感覚(オーバーセンス)〟。
仙気を鼻に集中させることで、自身の感覚を鋭敏化させることが可能なのである。
通常、犬の嗅覚は人間の一万倍とされているが、リントが本気を出せば、犬の嗅覚を越すほどの能力を発揮することも容易だ。
リントは一応手に取った殻を診察鞄の中に入れて、外へと出る。そして静かに瞼を閉じて、鼻をひくつかせた。
エレファントライナーの子供が残したニオイを探し出すために。
「――――こっちだな」
右手の方に鋭い視線を向ける。そこから間違いなく殻に残されたニオイと同じニオイが漂っていた。
リントには、ニオイの道がハッキリと見えている。その先に必ずターゲットがいるはず。
ただ気になるのは……。
(同じ方向に獣じゃない複数のニオイもする……)
恐らくは人間。つまりはエレファントライナーの子供を討伐しようとする者たちだろう。
彼らに子供が見つかる前に保護しなければ手遅れになる。
――急がなければ。
そう判断し、強く大地を蹴った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます