第5話

「これはど~いうことなのでありますかぁ! ニュウはガッツリピッチリ説明を要求するでありますぅっ!」

「わ、分かったから落ち着けって、ニュウ!」

「ニュウは怒れる火山のごとく落ち着いているであります!」

「それって噴火寸前ってことだよな! いや、もしくはすでに噴火している最中だぁ!」


 【アルトーゴの森】にて、ひょんなことから二人の少女と出会ったリント。

 少し説教じみたことをしたら泣いてしまい、さすがにそのまま放置はできないと判断して、診療所まで連れてきた。


 ちなみに森を抜けたら、すぐに診療所がある丘陵地帯に出るのだ。

 案内している間は、終始彼女たちが無言を貫くので居心地が悪い悪い。

 そうして二人を診療所まで連れてきたのはいいが、待合室まで彼女たちを通すと、泣き腫らした少女たちの顔を見て、何を勘違いしたのかニュウが怒り心頭の表情で詰め寄ってきているというわけだ。


「と、とにかくこの子たちは……」


 森で何があったのか、ニュウに説明をすると、彼女もようやく落ち着きを取り戻してくれたのか、盛大な溜め息を肺から絞り出した。


「……先生はもう少し女の子を優しく扱うべきなのであります」

「ちゃんと扱ってるぞ!」

「それはモンスター限定でありますよね?」

「…………」

「はぁ……えと、とりあえずお二人は怪我などはないでありますか?」


 ニュウの問いに、少女二人はコクンと頷きを返す。


「……ここって、何?」


 すると蒼髪の少女が不安気に周りを見回して尋ねてきた。


「ここは【ミツキ診療所】でありますよ」

「ミツキ……診療所? お医者さん?」

「ニュウは見習いでありますが、こちらにいらっしゃる……っていないでありますぅ!? 先生! リント先生ぇぇぇっ!」


 ニュウが診察室の方に向かって若干怒気を混ぜた声音を響かせる。


「――ああ、悪い悪い」

「どこ行ってたのでありますかぁ!」

「いやぁ、だって獲ってきた魚を保存しとかないと、さ」

「むむぅ……確かにそうでありますが、この状況でいなくなれる先生の人格がおかしいであります」

「フフフ、オレは常識には縛られない」

「カッコ良く決めてもダメダメであります!」


 そんなことを言っても、ここに魚を放置していたら臭くなるし……。


「……もしかして、そこの変態ってお医者さんなの? そういえば白衣着てるし」

「いや、ここに帰って来る時も着てたんだけど……」

「……気づかなかった」


 まあ、ずっと顔を俯かせて心ここにあらずといった感じではあったので、リントがどんな服装をしていたのか気を向けられなかったのだろう。


「ずっと赤パンツ一丁だと思ってた……」

「そんな趣味ねえから! さすがにパンツ一丁で外歩かねえから!」


 実は湖に潜る時、パンツも脱ごうかなと考えていて、結局穿いたままで漁に入った。今思えばそれで良かったと心底思う。

 もし脱いでいたら…………きっと後世に語り継がれるほどの変態と認識されていただろう。


「ていうか、パンツ一丁だって思っている男によくついてこれたな……」


 その精神が理解できない。


「あ……何ていうか、流れで?」


 この子は流れと押しに滅法弱いタイプだ。きっと将来、男に苦労するだろう。


「もうランテったらそんなこと言って。二人で森を抜けるのは怖いからついて行こうって二人で決めたよ?」

「ちょ、余計なことは言わなくていいのよリリノ!」


 どうやらついて来たのは、単に利用されただけのようだ。


「そ、そんなことよりも、こんなところに病院があったなんて……。リリノは知ってた?」

「ううん。私も初めて来たし」

「だよね……。しかも何故か幼女がいるし……」

「い、いいいい今ニュウのことを幼女と言ったのでありますか! て、訂正を要求するであります! こう見えてもニュウはれっきとした大人のレディなのでありますからぁ!」


 とは言うが、どう見ても十歳くらいの見た目にしか見えないので仕方ない。

 それに……。


「いやいや、ニュウはまだ十四歳だろうが。ガキじゃねえか」

「先生とはたった四つしか離れてないでありますぅ!」

「嘘っ、そいつってばまだ十代なの!?」

「え? オレそんなに老けて見える!? ショ、ショックだぁ……」


 ガクンと床に四つん這いになるリント。

 確かに普通の人間と比べても数奇な人生を送っているせいで、かなり達観している部分はあるのは否めないけど……。まだ自分では十分に若いつもりだ。


「はぁ……まあいいや。怪我もなく落ち着いたんだったらさっさと帰りな。帰り道はニュウにでも聞いてくれ」


 そう言うと、リントは再び診察室の方へ向かうために足を動かす。


「あ、ちょっと待って!」

「……まだ何かあんのか?」


 やれやれと足を止めて振り向くと、彼女がバッと頭を下げてきた。


「助けてくれて、その……ありがとう!」

「あ、私も。ありがとうございました!」


 二人して感謝の意を示してきた。


「……別にいいって。んじゃ、気を付けな」


 はらはらと手を軽く振ると、今度こそその場から去った。



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