第42話 文化祭に混浴

 リックワードでは文化祭の後夜祭で、大衆浴場で体の疲れを癒やす。ヒノキの露天風呂を作り、キャンプファイアの炎を用いて湯を沸かすのだ。


 魔法を使って移動を想定しているため、リックワード女子の土地面積は広い。そのため「回復の泉」の簡易版として、「足湯」が各所に設置されているのだ。その足湯のお湯を、グラウンドまで引っ張ってくるのである。


……のだが、まさか内風呂まで作り出すとは。


 グラウンドから離れた中庭の方まで、みんなでスライムを誘導した。


「向こうは檜風呂だから、こっちは岩風呂にしよう。ペル氏、手伝ってくれ」


「おうさ、キャロリネ」


 キャロリネとペルが二人して、土魔法を使う。二体のクレイゴーレムが、その辺の岩を持ち上げた。スライムの周りを、ゴーレムが岩で囲む。


 スライムが岩場にお湯を足していった。


 その間に、ミュンとパァイが協力して、洗い場を設置する。


「お役御免でやんす」


 岩にお湯を出し切ったスライムが、縮んだ。


「おー。フロだフロだ」


 さっそくエドラが、一番風呂に名乗りを上げた。

 魔法で制服がパッと光る。


「エドラ! イクタ師匠もいるのよ?」


 唐突に、イルマがバスタオルを出現させて、エドラの裸体を隠す。


「おー。そうだった」


 半裸のエドラが、一瞬で水着姿になった。最新現代風の、露出を抑えたタイプではない。食い込みがセクシーな競泳水着スタイルだ。


「あと、身体も洗いなさい」


「ちぇー」


 石けん型のポーションで、二人は全身をくまなく流す。


「では、あっしはこれで」


「あんたも入りなよ」


 スライムを抱きかかえて、ペルが水着に着替えた。


 キャロリネと一緒に、身体を流しだす。


 パァイとミュンも、全身を泡立てて体を洗う。 


「あまりにも場違いだ。フロなら、自分の家を使うよ」


 オレは退散しようとした。


「個別風呂なら、イクタおじも入れるじゃん」


「イクタと一緒に、入りたいんですわ」


 プリティカとデボラも、スクール水着に一瞬で着替える。


「従業員が入っていいのかよ?」


「いいんですよー。教師である私が、許可しますのでー」


 なんと、シスター・ダグマまで水着でスライムに飛び込む。


「どうぞどうぞ、イクタさん。今日はおつかれさまでしたー」


 ダグマに手を繋がれた。


 その瞬間、オレの服もなくなる。海パンとタオルだけに。


「いやどうも」


 寒さに耐えられず、オレはスライム風呂に潜り込んだ。ちゃんとかけ湯をして、簡単に石けんで体を洗ってから。


「くおおお。生き返るなぁ」


 おっさんのような声を発しながら、エドラが湯を堪能する。


「お年寄りみたいよ、エドラ」


「でも気持ちいい。これが文化祭の醍醐味ってやつよ」


「月見酒とかやりそうな、雰囲気ね」


 エドラは、楽しげだ。 


 ミュンとパァイも、湯の中でフニャフニャに。


「はあ……」


「お嬢とフロなんて、子供の頃以来でやんすね?」


 スライムを抱えながら、ペルが湯船に浸かる。


「お前さんは、女子に囲まれて興奮とか、しないのか?」


「スライムから見たら、人間の身体なんて犬やネコと変わりやせん」


 そういう神経が、ほしいね。


「イクタ。お願いがございますわ」


 デボラが、オレの背中まですり寄ってきた。


「なんだ?」


「お背中をお流ししたいですわ」


「さっき自分で、洗ったばかりだ」


「もう一回、わたくしに洗わせてくださいまし」


 タオルを弄びながら、デボラが懇願する。


「ウチもおじを、洗いたーい」


 プリティカも、立候補してきた。


 女子高生二人に、両脇をロックされる。強引に、持ち上げられた。


「わかったわかった」


 されるがままになり、オレは洗い場へ。


 湯に浸かっていたおかげか、体が温かい。


 背中がこそばゆい。


 弱い力で、デボラとプリティカの手がオレの腕を這う。


「デボラちゃんはさー、おじのハダカって見たことあるのー?」


「ご、ございませんわっ」


 プリティカからの質問に、デボラが赤面した。


「そうだぜ。オレだってちゃんと、警戒している」


「そっかー。じゃあ、クリスマスかバレンタインのお楽しみだねー」


 どういう意味だ?


 温まったのか恥じらいなのか、顔がずっと熱い。


 女子高生と混浴なんて、どんな因果でそんな権利を得られるのか。

 


 風呂上がりは、学食でアイスクリームを出してやる。


「うまい! 風呂の後にアイスとか、背徳的だね!」


 ミュンが、何杯もおかわりを要求してきた。


「ほらよ。腹を壊すなよ」


 アイスは好評で、すぐになくなってしまう。


「ミュン先輩もパァイ先輩も、卒業の準備などはなさっておいでですか?」


「うん。あたしはプロボクサーとしてのライセンスは取ったから」


 要人警護や騎士団のトップなどにも、なれるそうだ。


「パァイは、どうするんだ?」


「知識を活かして、学者かのう」


 まあ、間違ってはいない。彼女は図書館の賢者として、顔を変えて度々リックワードに通い直している。


「イクタ、雪ですわ!」


 デボラが、壁窓を指さした。


「まだ十一月だぜ。早いだろ?」


「でも、雪が降っていますわ」


 なおも、デボラは壁の窓側を指している。


「ホントだぞー」


 エドラも、壁窓から外に抜け出した。雪を頭いっぱいに浴びている。

 

 もう冬が近い。


 鍋がうまくなる季節だ。


(文化祭編 おしまい)

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