文化祭でおじさんは、カルメ焼きを出す

第40話 文化祭当日

 リックワード女学園の、文化祭が始まった。


 オレは調理に時間がかからないし、午後から店を開ける。なので、午前中はみんなの出し物を見て回ることにした。


 まずはミュンの演奏。三年のクラスによる、軽音楽のバンド活動だ。


 さすがはパピヨン・ミュンである。リズム感バッチリだ。スティックを振り回したりはしないオーソドックスな鉢さばきながら、貫禄さえある。難しいビートも、難なくこなしていた。


「今日は、チャンピオンのミュンちゃんに演奏してもらいました! 感想は?」


 唐突にマイクを振られ、ミュンが「あわわ」とどもり出す。こういう愛嬌も、ミュンが好かれる理由だ。学生チャンピオンといえど、完璧じゃない。だが、それがいいんだ。


 続いて、三年のパァイのクラスへ。絵日記が展示されているというが。


 これ……絵日記か? ゲームのイラストレーターが描いたのかと、思うほどである。とにかく、絵日記というより世界史なのだ。オレたちの活動が、歴史的資料として描かれている。かき氷を売っているだけなのに。


 二年生の演劇を見てみよう。


 なんと、エドラがお姫様になっていた。

 ロングヘアのカツラを付けて、紙でできた塔の上で応じを待つ。滑舌も、よくなっていた。


 イルマのほうが、王子役を演じているとは。

 ハリボテのドラゴンと戦い、エドラを救い出す。


 会場が、拍手で湧いた。


 オレもつられて、手を叩く。


 いやあ、魔法で演出しているとはいえ、すごい迫力だな。ちゃんと観客に魔法が当たらないように、障壁も強いものを採用している。この形成には、時間がかかったのではないか?


 だが、トラブルが発生した。

 紙でできた塔が、魔法で引火したのだ。

 いくら客席を守っていても、舞台上は保護しきれなかったか。


 他の生徒が鎮火させたものの、塔は崩れ落ちてしまう。


 そうはいっても、オレの時間停止魔法は料理でしか扱えない。


「きゃああ!」


 高いところから、イルマが足を踏み外す。


「イルマ! しょりゃっ」


 お姫様役のエドラが、王子役のイルマの腰を持って跳躍した。ドレス姿で、華麗に着地する。


「王子、無事かー?」


 エドラは、元の滑舌に戻っていた。


「ありがとうエド……姫よ!」


 二人が抱き合ったところで、幕が下りる。


 さっきの倍以上の拍手が、沸き起こった。


 オレも立ち上がって、拍手を送る。いやあ、お見事だ。


 さて、一年のクラスに行くか。


「おー、イクタのたいしょー。行くのか?」


 ドレスのまま、エドラがこちらに向かってきた。王子姿のイルマも、同様である。


「ちょうどいい。みんなで行こうかのう?」


「ラーメンあるかな?」


 パァイとミュンとも、合流した。全員で、一年のメイドカフェへ向かう。


 メイドカフェか。地球だと、調査で一回行っただけだったな。どうも、馴染めなかった。アレは、オレのような中年が行くような場所じゃない。気後れするだけだ。もっと普通にあの空間に溶け込める性格じゃないと。


「お待ちしておりましたわ、イクタ……じゃなかった、ご主人さま」


 いつもと違うデボラの態度に、オレはドキリとなる。別に好みというわけじゃないが、デボラの様子はいつもと違っていた。


 皿洗いを手伝ってもらっているから、給仕されるのは初めてなんだよな。学食だから、接客はしないし。


「ねえちゃんラーメン!」


 背もたれに体を預けて、ミュンがぶっきらぼうにリクエストした。ヤカラかよ。


「品切れですわ。インスタントでよろしければ、購買へどうぞ」


「冗談だよ。ケチャップパスタってのをお願い」


「かしこまりましたわ」


 料理は、キャロリネが担当するという。


「そちらのお嬢さん方、ご注文は?」


 執事姿のペルが、エドラとイルマにオーダーを要求する。


 ペル、女子に大人気だな。


「えー、どうしよっかなー? なにがいい?」


「そうね……はっ!?」


 夫婦めおとゼンザイなるメニューに、イルマの視線は釘付けになっていた。夫婦ってハレンチな呼び方に、過剰反応しているのか?


「……お腹が空いたわ。パンケーキセットを、ハムエッグでくださる?」


 冷静を保ちつつ、イルマはペルにオーダーする。


「夫婦ゼンザイセットでいいんじゃないのか?」


「ななな、なにをおっしゃいますか、師匠!?」


 オレとイルマの会話を、聞いていたのだろう。エドラが、ゼンザイの存在にようやく気づいたらしい。


「なんだイルマ。ゼンザイが、ほしかったのかー。ペルー。デザートでゼンザイつけてー」


「了解、エイドリアン先輩」


 去り際でも、ペルは女子の視線を集めていた。


「じゃ、オススメってあるか?」


「オススメは、オムライスですわ。ケチャップでメッセージを書いて差し上げますが、どんな言葉をご所望でしょうか?」


「いや、普通にケチャップをかけてくれ」


 オレは、要求をあっさり退けた。


「つれないですわ。イクタ」


 デボラは、残念そうにする。


「吾輩は、ホットケーキを頼むぞよ。チョコレートかハチミツで、字を書いてもらえるかの?」


 パァイが、オレのかわりにメッセージを希望した。


「もちろんですわ。どんなメッセージをご所望ですか?」


「『お主の塩対応で、世界がヤバい』と」


「かしこまりました」


 オレへの当てつけかよ!


「そういえば、プリティカは?」


「あちらで他のご主人さまと、チェキってますわ」


 プリティカは、魔界オルコートマから来たモンスターと、写真を撮っている。すごい行列だ。さながら、アイドルの撮影会だな。


 注文が来た。


 ほんとに、リクエスト通りに描いてきやがったな。デボラのやつ。

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