魔法科女子高の夏休みは、キッチンカーで

第20話 魔法科女子高生 夏休み突入

「イクタおじってさー、ウチらが夏休みの間はどうしてるのー?」


 いつものカレーライスを食いながら、プリティカが尋ねてきた。


 今日は、終業式が終わった後である。なので、店も一ヶ月ほど閉めることに。


 授業も昼まで。ほとんどが帰省組。今日の学食は、閑散としていた。


 学生たちの中には、夏休み中もクラブ活動に励む生徒がいる。


 とはいえ部活だけのために、店は開けない。


 パピヨン・ミュンも、夏は合宿だっていっていたし。


「海で、キッチンカーの経営だ。期間限定で、かき氷を売っている」


 知り合いが、海の家をやっている。


 彼から誘われて、キッチンカーを入れさせてもらうのだ。


「へー。おいしそー」


「といっても、流行りの『フワフワかき氷』とかはできないぞ。極めて、オーソドックスなタイプだ」


 レパートリーは、多いに越したことはない。とはいえ結局、オレは普通のかき氷に落ち着いた。慣れないことは、すべきではない。


「夏の間は、パァイも来るからな。『たまには日に当たらないと』ってな」


「賢……パァイ様も」


 デボラが、思わず口を滑らせそうになる。


 海の家の主が、「あいつも連れてこい」ってうるさいんだよな。


「パァイ様? デボラちゃーん。図書室の賢者様って、そんなにエラいのー」


 プリティカが、デボラに質問をした。


 あくまでも、賢者様は「あだ名」となっている。本物の賢者だとバレると、パァイは学園にはいられない。先生たちから質問攻めに遭うためだ。


「なんでもありませんわ。リスペクトしていますの」


「ふーん。デボラちゃんって、マジメだもんねー」


 納得したのか、またカレーを食べる作業に戻る。


「デボラちゃんは帰省するのー?」


「しませんわ。実家とは、ほぼ絶縁状態ですので」


「うちと同じだねー。そうだー。おじー、夏の間、キッチンカー手伝うよー」


 マジか?


「気持ちはありがたいが、夏の間に使える宿はねえぞ」


「その宿代を、バイトで稼ぐのー」


 なるほどね。


「それだと、使うカネがなくなっちまわねえか?」


 バイト代は、そんなに高くない。


「大丈夫ー。別にお金には困ってないからー」


「つーか、宿題があるだろ? ミッションの」


「あー。そっちもOKOK。あの海って、ギルドがあるしー」


 プリティカが、指を輪っか状にした。


 冒険者のミッションも、こなすという。


「たしか、この間にお前さんたちが連れてきた、キャロリネだっけか。あの女子生徒も、そこのギルドを活用するってさ」


「じゃあ、ちょうどいいじゃーん」


 プリティカが、キャロリネに連絡を入れた。異世界でスマホを操作するって、違和感があるが。


 しかし、便利な時代になった。スマホのおかげで、依頼受注と達成がその場で行われる。いちいち、ギルドに帰らなくてもいい。達成報酬も、カネの場合は伝送される。


「遠足のお礼にー、一ヶ月泊めてくれるってー」


 もちろんタダではない。仕事を手伝うという条件付きだ。


「仕事って?」


「山小屋の経営だってー」


 夏の間、若手冒険者の宿屋として解放しているという。


「キャロリネの家って、リッチなのか?」


「一応、騎士の家系だってー。キャロリネちゃんってー、身分でいったらー、実はばんちょーパイセンより上なんだよねー」


 あのサムライ女子高生エドラより、上とは。すごい身分なんだな。


「だけどキャロリネちゃん、ばんちょーパイセンには全っ然、敵わないんだってー。腕っぷしだけでいったらー、もっと上の階級を目指せるんじゃないかなー、ってさ」


「そういえば、生徒会長も番長先輩も、いらっしゃるそうですね」


 ミュンの合宿先も、そこらしい。


「にぎやかになるねー」


 これでは、いつもの学食と変わらないな。


 でも、よかった。オレの部屋に泊まりたいとか、言い出さなくて。


「ウチは、おじの部屋に寝泊まりしたいなーって思っていたんだけどー」


「ですわね」


 デボラまで。


「ムリムリ。パァイの面倒だけで、大変だっつーの」


 なんだ、みんなして? 頭の上に、物理的に「!?」のマークが表示されたんだが? 魔法のエフェクトかよ?


「聞き捨てならないですわ! パァイ様とイクタは、どういうご関係ですの!?」


 皿洗いを中断し、デボラがオレの服を掴む。


「そーそー。デボラちゃんというフィアンセがいながらー」


 カウンターを乗り越えんばかりに、プリティカもにじり寄ってくる。


「だーかーらーっ! 海の家の経営者が、パァイのアニキなの!」


「へ? 賢者様に、お兄様が?」


「そうだよ! キッチンカーに使ってる車も、元々ソイツのだ」


 地球観光に来た際に、パァイの兄はワゴン車を買った。しかし、秒で馬小屋に突っ込んだのである。


「この世界は地球と違って、道が舗装されてねえからな」


 こちらでは、馬車のほうが移動しやすいだろう。


「説明を聞いてもよくわかんないけどー、異世界って、大変だねー」


 プリティカからすれば、地球の方が異世界だよな。

 とはいえ、ややこしい。


「でな、自分にはふさわしくないと、彼はオレにワゴン車を譲ったんだよ。それを改造して、キッチンカーにした」


 オレは夏の間、パァイの兄貴の屋敷に住まわせてもらうのだ。


「そういうことでしたの」


 デボラの腰が抜ける。


「でもさ、パァイパイセンの部屋に寝かせてもらってるって、ワンチャンあるかもよー?」


「そこのところ詳しくイクタ!」


 ありません!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る