第15話 生徒会長は、おかゆ作りで悪戦苦闘する

 オレは生徒会長のイクタに請われて、滋養のあるものを作ることに。


 ただ、気になることが。


「エドラの母親は、購買のオバちゃんだろ? オバちゃんとかは、見てくれないのか?」


 今は試験期間中で、昼から授業がない。

 昼食時間は、余裕がある。


「はい。みんな忙しくしていらして」


「そっか。購買のオバちゃんは、ここだけで商売しているわけではないもんな」

 

 老人ホームや、こども園にも、オバちゃんはコロッケを売っている。


 家でエドラを看病してくれる人は、皆無らしい。


「義理のお姉さんも、出産したばかりで」


「そいつは、大変だな」


 教える前に、大事なことを聞く。


「食欲はあるんだな?」


「一応は」


 病気の時は食欲自体がないと、食べさせてはいけない。消化にパワーを使ってしまうからだ。


「ここ、魔法学校だよな。魔法でどうにかしないのか?」


「カゼなどで変に魔法を使ってしまうと、身体が『魔法がないとカゼも治癒できない』と覚えてしまうんですわ」


 デボラによると、そうらしい。


 弱めの魔法などでちょっとした擦り傷や軽いカゼを治すと、身体が慣れてしまう。


 実際、頭痛を常に魔法で治していた生徒は、頭痛解放魔法が手放せなくなったとか。


 魔法って案外、厄介なんだな。だから、薬局があるのか。


「イクタって、魔法の知識が案外乏しいのですわね? 賢者様と、お友だちですのに」


「薬学は専門外なんだ。オレは自分で、魔法使いだとも思っていないし」


 料理にしか魔法を使わないし、戦闘などもしないからだ。なので普通に、薬局を利用していたが。


 それにオレは、賢者パァイと親しく話すわけじゃない。オレが訪問するときは寝るときだから、会話も雑談にとどめている。魔法の詳しい話などは、聞かないのだ。


「試験前です。できるだけ、薬品や自己治癒力で治しておかないと、試験期間中にぶり返してしまうんです」


「わかった。食えるんなら、おかゆで十分だな」


 おかゆは『飲む点滴』と呼ばれる甘酒と、たいしてカロリーに差はない。ただクセが強く、オレは苦手なのだ。


「私、お料理が苦手なので、不安です」


「米を煮て塩を入れるだけの、シンプルなもんだ。そうそう失敗しないさ」


「ですよね。がんばります」


 

 で、おかゆを作り始めたのだが……。


「また失敗したわ」


 鍋からは、七色の煙が出始めた。


「あのな、イルマ。魔法でおたまをかき混ぜない方がいい。変な術式が組み込まれて、料理がマズくなるぞ」


 魔法による自動かき混ぜは危険だと、初歩中の初歩で習うはずなのだが。


「お母様は、このやりかたで調剤をなさっているのに」


「調剤用の魔法だからだ」


 そもそも料理において、横着は厳禁だ。


「ズボラメシは、たしかに忙しい主婦のためにある。とはいえ、病人に食べさせていいかというと、悩むな」


「はい。心得ました。イクタ師匠」


 師匠ってのはいいすぎだろ。おかゆを作っているだけなのに。


「できました、イクタ師匠!」


 どうにか、おかゆらしきものは完成した。


「どれどれ……んっ!?」


「甘いですわ! 甘すぎて逆に苦いですわ」


「これ、甘酒じゃねえか!」


 おかゆなのに、なんで麹が入ってるんだよ!?


「我がクジョー家における、秘伝のハイポーションの材料です。激甘で、子ども用シロップポーションに利用しています」


 使用法が、完全にノドアメか甘酒だな。


「イルマ。悪いが今から、ポリコレに引っ掛かりそうな質問をするぞ。親から料理とかは、習ってないのか?」


「お母様の段階で、お料理はメイドさんのお仕事でした」


「……さいですか」


 環境が、貴族すぎる。


 まあ、魔法学校なんかに通わせる家って、たいていバカでかい貴族か、能力のある孤児だろう。エドラがドの付く平民だから、感覚がマヒしていたが。


 といっても、今どきの親は、子どもに花嫁修業とかもさせないんだろうな。「家事は分担」って感性なら、それこそ。


「イルマ。わたくしはいつでも、イクタの花嫁になる覚悟がありますわ。修行もちゃんとしています」


「その修業は、他の誰かを幸せにするために役立ててくれ」


「嫁にならないと戦争をふっかけてくるような相手に、ですか?」


 お前さんたちの周りは、そんな男しかいねえのかよ?


「じゃあ、エドラみたいな平民が魔法学校に通っているってのは、かなりレアなんだな?」


「ですね。あの子は私がスカウトしましたから」


「ふむ」


 冒険者学校までは同じだったが、エドラには才能があったという。


「私は成績自体はいいのですが、実戦経験に乏しくて。その点エドラは、はじめからサムライとして完成していましたね」


 オレも、イルマの意見には同意する。あの戦い振りを見せられては。


「生徒たちからの信頼も厚くて。あの子、番長って言われてるでしょ? 周りがいい出したんですよ。それで彼女ったら、番長って単語を調べて、自分でそれっぽくしているんです」


 イルマが、楽しそうにエドラのことを話す。


「お前さんと、エドラとの関係は?」


「幼い頃、彼女の実家のコロッケを、食べたときからです。お祭りで屋台を出していて、そこにエドラが店番をして、私が親にコロッケをねだったのです」


 それからの、付き合いだという。


 いわゆる、幼なじみか。


「でも、私の親は『あんな不良と付き合うんじゃありません』と、いい顔をしなくて」


 それで、イルマはエドラを厳しくしつけちゃうんだろうな。

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