第13話 サムライ エドラ
「お前たち。ちょっと脅かして、カツアゲしようってか。だが、そこまでにしろや」
「んだと?」
「弱い女の子をいじめんなっ、つってんの。魔物退治とか、そっちでお金稼げ」
背中に背負った刀を、スッと持ち上げる。
白鞘の刀かと思ったが、木刀のようだ。何語が書かれているかわからないが、魔法文字が刀身にビッシリと描かれている。
エドラが、木刀の先端を野盗に向ける。
魔法文字が、赤く発光を始めた。
ゴゴゴ、とエアコンの室外機のような音が、周辺に鳴り響く。
「うるせえ小娘が! まずはテメエから、ぶっ飛ばしてやらあ!」
「……やめろ! そいつは!」
野盗の一人が、逆にぶっ飛ばされた。エドラが放った風魔法によって、野盗が路地裏から吐き出された。民家の壁を壊し、目を回す。
「あわわ。やっぱりだ! あいつ、リックワード女子の番長! エドラ・リュタだ!」
「すまねえ! おめえら、ズラかるぞ!」
野盗たちは、そそくさと逃げていった。エドラの正体を、知っているらしい。
「ケガはねーかー?」
エドラが、木刀を肩に担ぐ。
「はい。ありがとうございます」
「おめーら、近道しようってんで、この裏路地を使ったろー?」
少女たちは、コクリとうなずく。魔法を習っているから、多少の危険な道でも平気だと思い込んでしまったらしい。
「魔法使いっつってもー、別に無敵になったわけじゃねーからなー。裏路地は野盗がいるから、避けろっつったろー?」
腰に手を当てて、エドラは少女たちをたしなめる。
「はい。ごめんなさい」
「いいぞー。オイラも昔なー、おんなじことしてオカンにぶっ飛ばされたんだー。本当に強い魔法使いはなー、ケンカしねーんだぞっつってさー。だから、危険な道は避けるんだぞっ」
エドラは少女たちの肩を持って、そう言い聞かせた。
「これからは、気をつけます。では、失礼します」
少女たちが去った後、エドラが振り返った。オレの気配に、気づいたらしい。
「おめー、コックさんだったよなー? 名前はたしか、イクタだっけ?」
「ああ。夕飯の買い物にな。その前に、つまめるものを買おうと思ってよお」
「だったらここを曲がった先にある、からあげの屋台がいいぞ。でも、ちょっと道が入り組んでいるんだよなー。だから、案内するじぇ」
「いいのか?」
オレとしては、ありがたいが。
「オイラも腹減ったからなー。揚げ物なら、いくらでも入るぞー。あと、ここから離れたいぞー」
エドラが看板を指差す。
ああ、ここはラブホ街なんだな。そりゃあ、学生が通っていい道じゃない。
「案内を頼む」
「おうっ。いくぞイクタ」
「新しく店ができたんだな?」
「おう。冒険者を辞めた勇者が、パーティに出してた料理を売って繁盛したたらしいんだ。うまいぞー」
今経営しているのは、勇者の末裔だという。
そいつは、たしかにうまそうだ。
エドラの手引によって、屋台に到着した。さっそく、からあげを食う。
「たしかにうまいっ。胸肉ってからあげにしてもパサパサするのに、これは最高だな」
「別売りのタルタルを合わせても、うまいんだ」
「マジか。試す試す」
屋台に銅貨二枚を払い、タルタルをかけてもらった。
「こいつは、また別次元だな」
これはまさしく、チキン南蛮だ。異世界で、チキン南蛮を食べられるとは。
「うまい。こんなの食ったら、家で作るのがアホくさくなるな」
今日はもう、出来合いのものを買うことにした。
「だったら、ウチに来いよー。コロッケも買っていけー」
「そうさせてもらおう」
実家まで案内してもらった。
「ここが、オイラんちー」
エドラの実家は、肉屋さんである。
「『肉のリュタ』か」
ずっとこの地方に住んでいるが、この一帯を利用するのは初めてだな。いつもは、西側を利用する。こちら東側は、活気があっていい。
一部スペースが、コロッケの屋台になっていた。この店で作ったコロッケを、オバちゃんはパンに挟んで売っているんだな。
「オトーン。アニキー。今帰ったぞー」
「あら、エドラちゃん。おかえりなさい」
まったくエドラに似ていない女性が、屋台スペースでコロッケを揚げている。
「ただいまー。お義姉さーん」
「義理のお姉さんか」
「おう。アニキのお嫁さーん」
なるほど。エドラの義理のお姉さんなわけか。
「エドラちゃん、そちらの男性は?」
「学食のおっちゃん。イクタってんだ」
「あら、まあ」
事情を聞いたお義姉さんが、コロッケを包む。
あそこの路地裏は危ないため、エドラは定期的にパトロールしているらしい。
「ありがとうございました。エドラちゃんを無事におうちまで返してくださって」
「いえいえ! 私は、たまたま通りかかっただけでして!」
「こちら、お持ち帰りください」
包んだコロッケを二つ、お義姉さんが差し出す。
「いえ、そんな代金はお支払いします!」
財布を出そうとしたが、止められた。
「お近づきの印ですから。もし気に入られたら、ごひいきに」
「ありがとうございますっ。では遠慮なく」
包みからの香りに、オレはすっかり参ってしまう。今夜は、こいつでメシを食うか。さっき買ったからあげとも、相性バツグンだろう。
「いやあ、いい店を紹介してもらった。ありがとうな、エドラ」
「またうまい店を見つけたら、教えてやるからなー」
夕飯用のからあげを持って、エドラは去っていく。
問題は、翌朝にやってきた。
「イクタさん! この記事の内容は本当なんですか!?」
突然、イルマ嬢がオレの店に怒鳴り込んできたのである。学級新聞を持って。
「なんの話だ?」
「あなたが、エドラとデートなさったってお話です!」
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