夏は、女子魔法使いたちを腹ペコにする

エルフ生徒会長と、ドワーフ番長と、おかゆ

第12話 エルフ生徒会長と、ドワーフ番長

 期末試験も間近になり、夏服の生徒もチラホラ出てきた。


「イクタ、見てくださいまし」


 魔法学校の夏服を着たデボラが、一回転をする。


「夏服なんて、見慣れてるんだよ」


「違いますって。スカートの丈を、やや短くしてみましたの」


 たしかに、若干短いような。しかし普段から注目していないので、実感は湧かない。


「これでも結構、冒険ですのよっ」


 デボラが乱暴に、エプロンをつける。




 

「もーエドラ! あんたは毎回、食べ方が汚い!」


 黒髪ロングのエルフが、テーブルをバンと叩いて立ち上がった。


「うるっせえなー。イルマは」


 舌っ足らずな口調で、エルフの対面にいるドワーフの少女が反論する。銀髪のショートヘアで、両端をピッグテールにまとめていた。


 エルフ少女とドワーフ少女が、学食の一番隅で口論をしている。


 もうかなり見慣れた光景で、他の生徒も「またやってるよ」と気にしていない。


 イルマなるエルフ少女が食べているのは、ホットコーヒーとナポリタンだ。金曜日のモーニング担当が作っている。


 うちのカツ丼定食を食っている方が、ドワーフのエドラだ。


 それにしても、エドラが着ている服である。ローブだと思っていたが、あれ、特攻服だよなあ。あんな長い学ラン、昭和のヤンキーでも着ねえぞ。足も学校指定の上履きではなく、地下足袋だし。

 ニーハイには、お経のような魔法文字がビッシリだ。


「エドラ。どうしてあなたは、いつも教えたとおりにお箸を使えないのよ!」


 いいながら、イルマはエドラの口をナプキンで拭く。


「うっせーってんだ。どうやって食おうが、オイラの勝手だろうが」


 ほっぺたに米粒が付くのも構わず、エドラはカツ丼にガッツイた。


 カツ丼だからな。ぶっちゃけ、スプーンでも食える。


 だがエドラのトレイには、漬物が雑に散らばっていた。


 イルマは、それが気に食わないらしい。


「ほら言葉遣いも! 女の子が自分を『オイラ』だなんて」


 それは、オレも同感かな? 


 エドラの顔立ちは、いわゆる「ゆるかわロリ系」である。背格好も小さくて、あまりがっしりしたタイプではない。


 対象的に、イルマというエルフの方が、スレンダーで強い印象を受ける。


「だから、オメーはいちいち、うっせーんだよぉ。オカンでもそんな言い方しねーよ」


 オカンという言葉に反応して、購買のオバちゃんが反応した。


 あのエドラというドワーフは、オバちゃんの娘なのである。


 オバちゃんも慣れているのか、二人のケンカに介入しようとしない。客に笑顔を振りまきながら、コロッケパンをさばく。


「おばさまは一生懸命なのに、あなたってば」


「余計なお世話だろー。バイクいじりなら、任せとけってんだ」


「バイクなんて科学力が、魔法学校だと校則違反よ!」


「視野が狭すぎるんだよー。おめーはよー」


 イルマとエドラの口論は、終わらない。


「相変わらずですわね。生徒会長さんと番長さん」


 皿洗いをしながら、デボラが二人の様子をうかがう。


「魔法学校に、番長ねえ」


「はい。ドワーフのエドラ先輩は、この学園の番長ですわ」


 ケンカとあれば、たいていエドラ先輩が名乗り出てくるとか。


「で、それを諫めるのが」


「生徒会長のイルマってわけか」


「ですわ」


 この学園に出資している、理事長の孫らしい。


「魔法使いの学校ってのは、不良なんていねえと思っていたが」


「あまり良くない方向に魔法を使いたがる輩は、多いのですわ。自己顕示欲が強い未熟者ですとか」


 そういうヤツがダンジョンを作って引きこもったり、野盗を裏から操って悪さをしたり、魔王を名乗って一旗揚げようとするという。


「めんどくせえ」


「どこの世界でも、落ちこぼれはいますわ。ただ、実力は本物ですわ。なんといってもエドラ先輩は、上位職の【サムライ】ですから」


 サムライが魔法使いの上位職だなんて、ゲームの世界だけだと思っていたぜ。


「まったくあなたって人は! 東洋魔法学文化の象徴ともいえるサムライの称号を得ているのに、本人はお箸も持てないなんて!」


「お箸は、サムライに関係ねーじゃん」


「東洋文化的には関係ありますよ! まったく、同じ東洋魔法学の【カンナギ】を学ぶ身として、恥ずかしいわ!」


「おめーが恥ずかしがることねーじゃん。そもそも、おめーがカンナギ学ぶからオイラもサムライやってたんだし。まあ、筋がいいってんで、すぐに上達したけど」


 エドラの発言に、周りのあちこちで「てぇてぇ」と呟く声が。


「と、とにかく、立派なサムライになるまで、少しは女性らしくすること。いいわね?」


「なんだよー。オメーも女らしくしろよなー。誰が料理を教えてやったってんだ」


「うるさいわね! 早く食べ終わるわよ! 次は体育なんだから!」


 こうして、いちスペースで始まった慌ただしい口ゲンカは幕を閉じた。 

 


 

 夕方。ひと仕事を終えて、夕メシの材料を買いに行く。


「ぐへへ。お嬢ちゃん、お金を出しなあ」


 路地裏から、下品な声がする。


 野盗が、魔法学校帰りの生徒たちを狙って、カツアゲに来たのか。


「ケガしたくなかったら、お財布を置いていくんだよ」


「でないと、もっとひどい目にあうぜえ」


 総勢三人か。こんな世界の野盗だから、結構シビアなんだろうな。


「酷い目に遭うってのは……具体的には、こう、なんだろ? 顔にラクガキとか?」


「おめえ、発想が貧困だなぁ」


 オツムの方は、小学生レベルのようだが。

 だから、野盗レベルの行為でしか稼げないのだろうけど。


 少女たちも、多少の魔法の心得はあるだろう。しかし学校で習っていることを、実際に使えるかはまた別の話になってくる。


 怖くなった一人が、デタラメに魔法を連発した。


「ぐへへ。当たらないねえ」


 少女の手から放たれた魔法の火球は、野盗の足元で霧散する。


 目をつぶって撃つから、当たらないんだ。


 相手は、練習台のカカシではない。生きていて、思考する。

 やはり、多少の実戦経験は必要なのだ。


 ここはひとつ、手助けを……。


「待ちぇ」


 舌っ足らずな声とともに、特攻服を来たドワーフが姿を表した。エドラである。

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