図書館登校生と、モーニング

第9話 魔法科学校のモーニング

 ここ「私立リックワード女学院・魔法科学校」の学食には……モーニングがある。

 部活で朝練をやっている生徒が、食べに来るのだ。

 彼女たちは朝の六時から登校し、七時半までみっちり部活をする。その後、学食でモーニングを取るのだ。


 もちろん、オレだけが担当を受け持つわけじゃない。一週間に一回だけ担当が回ってくる、当番制だ。


 今日は水曜日だから、オレの店がモーニング作っている。


「デボラ、味見も兼ねて、腹ごしらえをしよう。今のうちに食っておけ」


「いただきますわ」


 メニュはーホットドッグ、コーンスープ、ポテトサラダ、デザートはカットバナナだ。


 セルフのドリンクバーでは、オレはコーヒーを飲む。デボラが、オレンジジュースを選んだ。


 本格的なドリップコーヒーを、出す店もある。彼は、金曜日の担当だ。


 焼いたソーセージに、デボラがかじりつく。


「パキ」と、心地よい音がした。


「はふはふ。ほいふい……おいしいですわ」


 うっとりした顔で、デボラがホットドッグを味わう。


「カツサンドとは、違った感じがあるだろ?」


「そうですわね。こちらもなかなか。まさしく、シンプルイズベストですわ」


 ふやけるまでキャベツをソースに漬ける手間が、カツサンドにはある。


 オレのホットドッグは、具がソーセージしかないアメリカ式だ。あとはお好みでケチャップとマスタードを付けてもらう。


 凝ったものを出そうそ思えば、オレの時間操作能力があれば出せる。だが朝は購買以外、店がうちしか開いていない。とにかく、すぐできるものを提供するのだ。


「ポテトサラダも、適度なホクホク感ですわ」


「うちのは、ある程度の硬さを残しているタイプだからな」


 全部グチャっとなったポテサラも、それはうまい。ただオレは、ジャガイモの食感を楽しんでほしい。朝だしな、野菜を食っている実感が必要かなと。


「金曜日のドリップコーヒーな。あいつのコーヒー、めちゃウマなんだ。一週間分の疲れが、吹っ飛んじまう」


「ぜひ、味わいたいですわ。わたくしは、火曜日のドーナツデーが好きなんですが」


 エルフおばちゃんの日か。あの人は大雑把で、ドンバンガン! というガッツリメニューに定評がある。


「女の子は、甘いものが好きだよな」


「というか、モーニングで最も安価なんですわ」


 まあそれも、店を選ぶ決め手になるよな。


「よし、ごっそさん。さて、仕事するぞ仕事」


「はい」と、デボラがエプロンを装着した。


「イクタのおっちゃんっ、モーニングッ!」


 さっそくミュンが、食券をカウンターに。服装は、トレーニングウェアのままだ。これからさっとメシを食って、制服に着替えるのである。


「あいよ。もうできてるぞ」


 モーニングの他に、ドリンク用のカップを渡した。


 カップにオレンジジュースを注いで、ミュンは席につく。


 ミュンに続き、他の部活動生徒も続々とやってきた。


 焼けたソーセージの「パキッ」という音が、学食に響き渡る。


「デボラ、朝早くに平気か?」


「問題ありませんわ」


 楽しげに、デボラが皿洗いをしていた。


「早起きも、いいものですわね」


 朝は弱いと思っていたが、デボラはいつも調子がいい。


「お前さんは一日中、テンションが高いんだな?」


「それは、イクタの前だからですわ!」


「へへ。その調子で頼む」


「それにしても、制服の学生も来ますのね?」


 部活動をしていない生徒の姿も、ちらほらと。


「食育だ」


 モーニングを始める前は、朝食を取らない生徒も多かったらしい。そこで学校が、モーニングを提供することにした。


 まあ一番人気は、購買のコロッケパンとパックのいちご牛乳なのだが。


 モーニングの時間が、終わった。


「うちには、もうひと仕事あるからな」


「そうですの?」


「出前だ」


 その前にオレは、購買のドワーフおばちゃんにモーニングセットを渡した。


 ドワーフおばちゃんは、痩せ型のエルフおばちゃんとは違って、太っちょで愛嬌がある。


「おばちゃん、ここに置いておくから食ってくれ」


「あいよ。はい、コロッケパン。あんたと、あの娘にも」


 購買のドワーフおばちゃんとあいさつをかわし、コロッケパンを三コもらう。


「ありがとうございます。あの、『あの娘』って、どなたですの?」


「行けばわかる」


 この学院の、名物生徒だから。




 オレたちは魔法科学校の外れにある、図書館へ足を運ぶ。料理を持って。


「図書館に、向かいますの?」


 モーニングを乗せたお盆を持ちながら、デボラがオレに問いかけた。


「ああ。そこに常連がいる」


 お前さんを連れて行くのは、顔見せだ。オレの代わりに、料理を運んでもらうからな。


「たしかにこちらには、飲食スペースがございますわね」


 最近の図書館や本屋には、ハズレにちょっとしたイートイン型カフェが設置されている場合がある。本棚や自習スペースとは仕切られているから、会話も可能だ。



「違う。ここがパァイにとっての学校で、寮なんだ」


「パァイ……パァイヴィッキ様!? まさか、そんな! ではわたくしたちが今からお会いするのは、あのパァイ様!?」


「そのとおりだよ。オレたちが食事を持っていく先は、あの【賢者】様だ」

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