第27話 ※レオポルド視点

 リディと秘密を話しながらお茶会を楽しんでいたレオポルドは、リディが何かに視線を奪われているのに気づいた。


「リディ?」

「猫がいる!」

「……ああ、俺の猫なんだ。触ってみる?」


 庭園の芝生の上に、レオポルドの猫が二匹、日向ぼっこしていた。実はリディが気づいていなかっただけで、猫はこの庭園にずっといたのだ。


「いいの? 触りたい!」


 レオポルドとリディは席を立ち、芝生へ移動した。レオポルドとリディの近づく気配に気づいた二匹が、瞑っていた目を開けた。レオポルドは、猫の一匹を抱えてリディに渡す。


「すでに結構大きいけれど、まだ二匹とも一歳くらいなんだ。この猫はラン。雌だよ。こっちの猫はリン。雄なんだ」


 レオポルドはリンを抱えると、芝生に座った。するとリディも芝生に座る。

 ランは白色の猫で、リンは灰色の猫である。


「猫、可愛いねぇ……! 孤児院にも、生まれたばかりの猫がたくさんいたの。あれも可愛かったなぁ」

「孤児院にもいたんだね。この猫たちも、前にお忍びで街へ出かけた時に、拾ってきた猫たちなんだ」

「へぇ、そうなん……あ!」

「……? リディ?」

「こ、孤児院に、私、いたことないからね」


 どうやら、孤児院にいた、というのは、公爵に秘密にするように、と言われていたのかもしれない。初めてリディと会ったのが帝都の街で、その時点で、リディは孤児院に住んでいるのかな、というのは、服装や近くにいた子供たちを見て、レオポルドは察していた。


 レオポルドは苦笑しながら、リディの頭を撫でた。


「大丈夫、誰にも言うつもりはないよ」

「ほ、本当?」

「本当だよ。ここで話したことは、誰にも言わないよ」


 リディはほっとした顔をしたが、その後しゅんと肩を落とした。


「私って、うっかりしているの。すぐに騙されたりする。気を付けているはずなのに、言っちゃいけないこと、言ったりすることもあるの。どうしてできないのだろう」

「リディは、まだごさ……、十二歳、だから、できなくて落ち込む必要はないよ。これから練習すればいいんだから」


 レオポルドこそ、うっかり五歳と言いそうになったところを誤魔化した。祖父の皇帝とリディが謁見した時に、五歳と言っていたことを、後からレオポルドも聞いて知っているのだ。レオポルドはリディより二歳年上の七歳だった。


「みんな最初はたくさん失敗するし、失敗してもいいんだ。今から、練習すればいい。失敗したら、次に活かせばいい。大丈夫、リディなら、これから練習すればできるようになるよ」


 リディは、公爵の昔の恋人がこっそり生んだ、公爵も知らなかった隠し子だと噂されていた。真実はどうなのか分からないが、レオポルドは、少なくともリディが孤児院に住んでいたことがあり、光の魔法が使えることも知っている。そして、闇の魔法も使えることから、ラヴァルディ公爵家の血筋なのは間違いない。


 真実を、レオポルドは現時点で解き明かそうとは思わなかった。噂はどうであれ、公爵はリディを可愛がっている様子で、リディも公爵が好きなのだ。二人の関係が良好なのに、レオポルドが真実を探ることで、その関係を壊すことは避けたい。


「うん、ありがとう。私、練習するね」

「うん。俺もリディに秘密にして欲しいことを、さっき言ったよね。あれも本当は言ってはいけないことだったから。実は俺も、まだ練習中なんだ。一緒に頑張ろう」

「うん!」


 リディは笑って頷いた。それから、猫のランを撫でながら、何かを考える仕草をしている。


「リディ?」

「……あのね、レオ。もしかしてだけれど、叫び草をまだ探していたりする?」

「うん」

「今思い出したのだけど、帝都の街の南にある神殿の敷地の中に、叫び草が咲いているのを見たことある」

「……っ本当!?」

「うん。昔から咲いていた記憶があるから、今でもあるんじゃないかな」


 なぜ神殿の敷地のことをリディが知っているのだろうか、とか、『昔から』という言い回しに謎はあるが、そんなことはどうでもよかった。


「ありがとう! 確かめてみるよ」

「うん。間違えていたら、ごめんね」

「ううん。可能性が聞けただけでも、すごく助かる。叫び草は育てることができないんだ。なんどか試しているんだけれど、うまく育たない。だから、自生しているのを探すしかなくて」

「たくさんあるほうが助かるのね。じゃあ、もしどこかで叫び草を見つけたら、レオに知らせるね」

「ありがとう。すごく助かる」


 リディには、助けられてばかりだ。リディはきっと天使か女神かもしれない。

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