楽園は適者生存

 草原を浮き走るホバートラックの荷台に宇宙探索者達が腰かけている。


 ここは漂流船の中でも特に大きな移民船の中。人口の太陽にホログラムの空、森の木々は青々した葉を茂らせており鳥まで飛んでいる。


 そんな長閑な場所に何故、宇宙探索者がいるのかと言えば単純に食料調達だ。


 一攫千金も良いが食べるものは食べないと餓死してしまうので、こういった元移民船に生み出された元食料用生物たちの楽園を狩場にするのも宇宙探索者の仕事の一つである。


 大きな湖の付近で動物の群れを見つけたトラックが停車すれば、乗っていた宇宙探索者達がゾロゾロと降りてきておもむろに武器を構える。


 その中には鎧騎士、アルの姿もあって真新しい装甲を煌めかせた姿は大変に目立つ。相棒を買ったことで金欠な彼もまた腰から棒を取り出し、ツッコミを入れられながらも気合を入れた。


「地道に稼ぐか!」

 □無駄遣いするから!□


 動物の姿は太い角が鼻面からせり出した牛であり、大きな群れを作っているためか宇宙探索者達の事を気にもしないで進んでくる。


「良いカモだな」□そういう場所が選ばれるからね□


 丸々とした巨体は良い食料になりそうだ。


 #####


 クーリアの言っていた事は正しいが例外もある。


 一方的な狩りは終わり。浮かれた狩人たちがトラックの荷台へ協力して獲物を放り込む中、湖の中心に二本の潜望鏡が伸びてきて狩人たち……ではなくその獲物を見つめている。


 縦一列に伸びる潜望鏡は真っすぐに狩人たちの方へ移動していくと、水深が浅くなったのか水しぶきを上げてその姿を現した。


 その全身は真っ赤な装甲に包まれており、所々が鋭く尖り鋭角な印象がある。


 複数の足は一定のリズムを刻み全高五メートル近い体を左右に移動させる。


 前足の二本は特に巨大でその先端にトラックすら切り刻みそうなハサミを持つ。


 狩人たちの前に巨大なハサミを開け閉めしながら姿を現したのは……カニだ。


 超巨大なカニが彼らの獲物を横取りしようと、湖から飛び出してきた!


 狩人たちも追い払おうと果敢に銃やボウガンで攻撃するが、宇宙船を破損させないために軽装備の宇宙探索者達はカニの真っ赤な装甲を貫くことが出来ない。


「早速、新装備の出番が来たな」

 □本当にやるの? せっかく終わりだと思ったのに□


 そんな中で前に出たのは鎧騎士姿のアルだ。クーリアは何故かぐずっている。


 アルは腰から銃らしきものを取り出すと、カニ目掛けて引き金を引いた。


 銃から勢いよく飛び出したアンカーはカニの装甲の間に突き刺さる。


 銃とアンカーはワイヤーらしきものが繋がっており、もう一度引き金を引いたアルは巻き取られるワイヤーの勢いでカニ目掛けて飛んで行く。


 空中にて、いつものやつが始まった。


 □このアンカーショットはアルサント社の提供でございます。明るい未来を解析するアルサント社をよろしくお願いします□


 製品版になったはずのクーリアがCMを流してしまっているのには理由がある。


 アルは通常は使えない試供品専用の装備を安値で買いまくっていた。

 試供品からアップグレードしたのはクーリアだけであり、試供品専用装備はアップグレードされていない為にCMを流してしまうのだ!


 それは兎も角としてカニの足に飛びついたアルは、アンカーショットの引き金を再び引く事によってワイヤーを外すと腰に戻し、なんとカニの頭へ駆け出し始めた。


 これはアルの超人的な身体能力……! と言う訳では無く理由がある。


 製品版になって処理能力が強化されたクーリアのおかげだ。鎧内に配置されたバランサーを制御する事によって、アルの行動を文字通りにサポートしているのだ。


 カニもアルがへばり付いているのを不快に思ったのか、ハサミを振り回す事で叩き落そうとしている。


 それに気が付いたアルは、別の足目掛けて飛んで逃げていく!


 アルの居た場所に叩きつけられたハサミは勢い余り、カニ自身の足を凹ませてしまった。強烈な自爆にバランスを崩して地面に叩きつけられたカニの頭。


 そこに向かって飛び降りたアルが、腰から棒を引き抜いて振り上げる。


「クーリア強めに頼む!」□出力20%といった所ね!□


 振り下ろした棒から光がほとばしり、巨大なカニの頭を両断した!


 頭という生物の急所をやられたことで、巨大カニの真っ赤な体から力が抜けて崩れ落ちていく。


 他の宇宙探索者が集まってきてアルの事を称賛しながら胴上げしてくる。


 この巨大カニから培養された肉が人気となり、金一封を貰ったりしたので、この事に味を占めたアルがまた試供品専用装備を買ってきて、クーリアに怒られるのは別のお話。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る