星海は無法地帯

 星々輝く宇宙空間で六角柱型の大きなコンテナを宇宙船がけん引している。


 その宇宙船は機首の無い飛行機のような形をしていて、主翼の全長でようやくコンテナと同じ程度という大きさだ。その差が宇宙船を健気な存在として演出している。


 外から中が見える透明なキャノピーに包まれたコクピットには鎧騎士、アルが乗っており補助AIであるクーリアから宇宙船について簡単な話を聞いているようだ。


「この計器に書いてあるエーユーだとかの記号はどういう意味なんだ?」

 □乗員を喜ばせるためのお飾りよ! 自動調整されるから無意味な表示ね□


 目を輝かせたアルがメーター類の単位を指差し聞けばクーリアから身も蓋もないことを言われ、肩を落としている。宇宙船は一部以外はすべてが自動なのだ。人間が操作する事は限られている為、乗るための免許すらないほど自動化されている。


 なんでアル達が宇宙船を操縦しているのかといえば、百年前のしかも試供品で活躍している彼らの事がアルサント社の重役の目に留まったからだ。


 アルサント工業は複合企業アルサント社として生き残っていた!


 目に留まったといっても悪い事ではない。


 物珍しいので新商材の宣伝に良いのではないかと、アル達は宣伝役に大抜擢されたのだ。その宣伝の一環で個人用宇宙船に乗ってコンテナのけん引をしている。


 □そんな事よりも予定の宙域に到着したわ。心の準備は良い?□

「もちろんだ。いつでもいけるぞ」


 クーリアの確認にコックピットに二本あるレバー型操縦桿を握ったアルの耳に、危機感を煽る高音の電子音が鳴り響く。


 ロックオンアラートだ。


 アラートと共に操縦桿の間にある立体投影型ディスプレイに宇宙服姿の首の出る部分からワニそっくりな頭が出ている存在が現れて、けたたましい笑い声と共に脅しつけてくる。


 =ギャハハハ! 死にたくなければ積み荷を置いて、とっとと失せな!


 コクピット内のレーダー画面にはコンテナを引いている宇宙船、アル機からみて上後方にロックオンをしてきた相手の宇宙船が表示されている。同時にその宇宙船についてデータベースと照合が行われ、賞金の掛けられている危険な宇宙海賊であると表示された。


 □わー、凶悪な賞金首ね。相手が悪かったわー。諦めましょうー□

「つ、積み荷を~置いて行くので、命ばかりは! ご勘弁を~」


 アルとクーリアがと共にコンテナを開放すると、大爆笑の宇宙海賊から慈悲なき宣告がされる。


 =ハハハハハハハ! 命を助けるなんて、一言も言ってないぜ!


 宣告と共に賊宇宙船の下部が光り輝いた……その瞬間!


 六角柱型のコンテナが花開くように解放されて、周辺に金色に光り輝く粒子を開放した。

 賊が連続で撃ち放った光は爆発的に周辺へ広がった金色の粒子に散らされ、アル機の青い船体保護シールドに弾かれる。


 通信を繋げたままの賊が動揺した声を出す。


 =何が起こった!? 何で爆発しない!


 相手が動揺している隙をついて宇宙船をフットペダルで加速させたアルは両手に握るレバーを引く事で船体を引き上げさせ、自動照準によって調整されたカーソルが賊船に合わさっていることを確認すると、レバーの先端についた赤いボタンを押し込んだ。


「お返しだ!」□こっちが諦めるなんて一言も言ってないわ!□


 その操作により一気に上昇したアル機はとんぼ返りして、逆様の賊宇宙船へ翼の両端にある砲を浴びせていく。


 反動軽減の為に撃つたびに砲身がノックバックする砲から、赤光しゃっこうほとばしる!


 金色の粒子によってある程度減衰した赤光しゃっこうは、賊船の青い船体保護シールドに連続で直撃していく。船体を覆っていた青い光は、その命運を示すようにが直撃する度に緑色、黄色、赤色と変色しついには消えてしまった。

 =カット! 良いよぉ~!


 そこで緊迫はしているが内容のズレた第三者からの通信が船内で鳴り響く!


 汗水を垂らしてそれっぽく操作していたアルは船内に置いてある使い捨てウェットティッシュのボタンを押して出すと、顔を拭いて吸入式のゴミ箱へ吸い込ませる。


 ワニ顔がディスプレイへの画像付きで通信を入れてきた。


 =いい感じでしたよ~! 一部のセリフはそのまま採用されるかもしれません!

「もう本当の賞金首みたいな気迫でビックリしました。凄いですね」

 =これで食ってますからね~! 現役の探索者にそう言ってもらえると嬉しいです


 先ほどまで殺し合いをしていた二人が何故、朗らかに持ち上げ合っているのか?


 その理由は宇宙船での戦闘が全部CM撮影のスタントだったからだ!


 全部をCGで済ませても良いのだが、実際に撮影したというポイントをありがたがる層が一定数存在する為に賊役ワニとアルはこんな茶番を繰り広げていた。

 賞金首というのもスタント専用に改造された宇宙船のみのダミーデータであり、賊役ワニはちょっと人相の悪い普通の宇宙船乗りである。


 アルとしては命の危険も無く宇宙船を動かせるという時点で大歓迎な依頼だったので、茶番でも何でもやる気満々だったのだが。


 □まぁ、安全に稼げるのならそれが一番なのよね□

 「宇宙船に触れたし、いい仕事だったな」


 運よく依頼者の目に留まれば、漂流船探索以外の仕事も宇宙探索者にはある。


 危険な漂流船を探索する彼らにとっては、宇宙船でのスタントも命の危険が少ない上に面白い依頼になってしまうのだ。

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