前のエピソード――203．忘れられるが世の定め

〈登場人物〉

日魅在（かみざ）歩（あゆむ）・妙（たえ）夫妻：進の祖父母。進が漏魔症罹患者になった後も、絶縁せずに居続けた。進に手紙を書くも全て居住区の職員に握り潰され、更に“カミザススム”のブレイクによって近隣住民に身内の発症を隠していた事が知れ渡り、村八分に。孤立し滅多に人が寄り付かなくなった事によって、逃亡犯の潜伏先として目を付けられ………

若美重（わかみえ）閆里（えんり）：異変が起こった川村田町にて、進の前に現れた少女。二又の三つ編みを小さく垂らした、幼げに見える黄金色（こがねいろ）の髪を持ち、肌の色素が薄めな少女。進と即座に打ち解け、短い間に絆を育んだ、ように思われたが………

靏玉（エンプレス）：illモンスターの一体。何かしら人心や精神に作用する能力を持つとされ、ダンジョンの内装を好き勝手組み替えるといった所業までやってみせた。普段は年端もいかない童女のような姿をしているが、それ以外の年齢に化ける事も可能なようだ。今回進を襲った一連の攻撃の主犯だったが、身内の不幸に関しては本当にノータッチ。

〈用語〉

城社（ぎしゃ）県芝（し）葉（ば）群川村田（せんむらた）町：丹本東北にある一地域。城社県は稲作で有名な為、この町のお米も結構美味しい。しかし現在、新型ウイルスの影響もあって、地域住民はピリついている。

精螻蛄（トゥイッチン・ウォッチン）：中級ダンジョン。狛犬や獅子舞のような頭を持つモンスター、“パラス”が出現する。「幸も不幸も見る者次第」、このダンジョン内では常に何者かからの視線を感じ、奥に行く程気配が濃くなっていく。下町のアーケード商店街みたいに見える通りの先に、架空の家電量販店が待っているといった内装。

辺獄融合現界（アマゾニン・ダンジョン・ユーニオン）：illモンスターはダンジョンを喚（よ）び出す事ができるが、それらを複数繋ぎ合わせる事も可能らしい。そもそもダンジョンのローカルを消さずに、別の性質やローカルを付与するモンスターへの「憑依」は既に行われていたわけであり、実は目新しい発見ではないのかもしれない。

羅刹（デッター）：ill（イリーガル）モンスターの一種。「鈍する貧者ぞ、世に憚（はばか）らん」、何か所有物を捨てた者は、自分にとってそれが価値の高い物であればある程、それに見合った対価を得る。憑依対象をヘドロのような半液状汚染物質に変えてしまう事でも知られる。

怪塵塚（ダーティー・リバティー）：“羅刹（デッター）”が出現させたダンジョン。ヘドロのような汚染物質を元にしたモンスターが確認されており、進はそれを“スライム”と仮称した。「鈍する貧者ぞ、世に憚（はばか）らん」。靏玉（エンプレス）によって川村田町そっくりに作り変えられた為に、元の内装がどのようなものだったのか不明。

忘恩放蕩とは報復絶倒（カー・エセー・タイ・ヨ・ゥヲー）：“羅刹（デッター）”が使用する魔法。10区切りを持つ異常な詠唱で成立。急速且つ莫大な新陳代謝を実現し、周囲にゴミや汚染物質をばら撒き垂れ流す。時には弾丸めいた遠距離攻撃にもなり、更にはそれらを手足のように操る事も出来る。ローカルと合わせる事で、質量は減らないどころか増大していく。

プランβ（ブラボー）：“プロジェクトAS（アルファ・シエラ）”と呼ばれる何かしらの準備フェーズの一つ。漏魔症を利用する為に、何かしらの脅威を排除するといったもの。詳細不明だが、穏当な内容では無さそうである。