178.明日から休みだあ!ってなってたんだけど part2

「う、ぅう~~ん……!疲れたぁー!休みだー!」

「うれしみー……」

「安心してる所すまねえが、ヨミっちゃぁん?我々にはまだ、積み上がった宿題という難敵が残っておりますぞ~?」

「うぇー…、コモリさあ…、思い出させるなしー…」

「かなしみー…、しんどー…」

「でもあれが無いと、夏休みって結構時間余りがちじゃない?」

「え?」

「え?」

「は?」

「あっ……」

「ハイスピードチビ、それはお前の人間関係が壊滅的惨状だったからだ」

「グホォアッ!」

 

 今のは良い所に入ったぞ…!


「ススム君の為にも、今年はみんなで一杯遊ぼう!って言いたいんだけどねえ……」

「タイミングが痛すぎるッスね……。カミザさん、お祓いしてもらった方がいいッスよ?」

「そうかも……」


 何の話かと言えば、今話題の流行り病についてである。


 先週くらいから、全国各地で原因不明の発熱が頻発し始め、未知のウイルスの仕業だと噂されていた。で、それの感染源を追って行く内に、央華オウファからの観光客が怪しい、という話となり、今週になって、向こうではもう先月くらいから、新型感染症が確認されていた事が発覚。


 初めて見つかったウイルスだと、魔法で治すにしても、どういうイメージで行けばいいのか、分からない事が多い。魔力由来でない病気に関しては、完治出来るようになるまで、研究と時間を要するのだ。

 当然だけど、初動は早ければ早い方が良いわけで。


 今は、「ふざけんな!言えよ!」と追及する人、「とにかく原因を特定するぞ!調査団を入れさせろ!」と要求する人、「今すぐ全出入国を規制しろ!」と主張する人、「もう遅い!それよりワクチン・対策魔法開発に金を注ぎ込め!」と最悪を見据える人、等々入り乱れ、 国内外問わず、そこそこの騒ぎとなっているのだ。


 俺達の身近でも、クラスに一人でも陽性患者が出たら学級閉鎖、外出時はマスク必須、手洗いうがい徹底、あまり人に密着しないといった、無視できない影響が及んでいる。

 先週プールに行った時が、ワチャワチャ出来るギリギリのタイミングで、今週末だったら中止になっていただろう、という位の大事だ。


 特にダンジョンへの出入りを、どれだけ制限するかが議論となっており、各管理企業の頭を悩ませている。やり過ぎてディーパー側からの不興を買い、彼らが全く来なくなってしまったら、経営の危機であり、最悪エネルギー不足や、“逸失フラッグ”を起こしてしまう。

 一方、大人数で押し掛ける事を放置していると、感染爆発クラスターの着火点となるかもしれない。

 世論と実利と危険性、それらの折り合いをどうつけるか、難しい話なのだ。


「これを機にちょっと遠出してみようかなあ。普段行かないダンジョンなら、配信的にもプラスだし」

「あ、いいねえ私も一緒に行っていい?」

「どうだろう?二人組くらいなら、あんまり苦情も入らないかな?」

「お前等の場合、四六時中くっ付き合ってるが、大丈夫か?」

「いやそんなにくっ付いてないですよ!」

「そうかしら?」


 そうですよ!

 ………………

 そうですよ!


「そういうニークト先輩は、夏休みってどう過ごすんですか?」

「オレサマのようなセレブリティーは、優雅なバカンスと洒落込むだけだ!」

「そう言いながらこの男、きっと夏休み全て使って体鍛えてるわよ?」

「E?」

「おい!」

「ここの所ずっとそう。何を考えてるかは知らないけれど」

「ニークト先輩、ボディービルに嵌ったんですか!?」

 

 筋肉が増えるって事か!?


「やめろ!嬉しそうにするんじゃあない!見世物女がまた何か言ってくるだろうが!」

「なんでもいいですけどぉー」

「ほら面倒な事になる!余計な情報を明かすな脳筋!」

「あら、あなたにしては良い心掛けだと、評価してあげたのだけれど?」

「なんでまたー?ニクっち先輩には思う所が?」

「他意は無いぞ!」

「それッス!皆さん聞いて下さいッス!」

「おい八守ィ!何を言う気d」


「ニークト様、ダイエットしてるッス!」


 八守君の悲痛な叫びが、その場を制圧した。

 ニークト先輩は痛そうに額を指で押し、


「「「「「「「な、なにィっ!!?」」」」」」」

「マー……?」


 他は一斉に爆発した。

 シャン先生まで驚いてた。


「おニク先輩!痩せちゃうんですか!?」

「おいおいおい、どういった心境の変化だコイツはよ?」

「少しばかり、予想外の真実が明かされたわね……」

「ええい!五月蠅いぞどいつもこいつもぉ!って言うか、お前等にとってのオレサマの個性は、太ってる事だったのか!?」

「そうッス!恵体ッス!豊満ッス!ボンッボンッボンッ!ッス!」

「お前はどうしてこういう時だけ何も間違えないんだ八守ィ!?」


 顎が外れるかと思った~。

 ニークト先輩って、「減量」とか、そういう言葉が辞書に乗ってる人だったんだ…。

 てっきり、「オレサマは食いたい物を食うだけだ!」、って言って、バクバク行く人かと………。


「で、デブニクはデブのままでもいーんじゃね?ムリすんな…?」

「あれ?六本木さんは応援する側じゃないの?」

「は、はあ!?なんであーしが!?意味ワカンネ!」


 「そんな感じなんだ」、と俺が思っていたら、


「チッチッチ、カミっちは女心が分かっておりませんねぃ」

「訅和師匠!」


 訳知り顔の訅和さんが来て、噂好きの奥様のようなポーズで教えてくれる。


「これはねぃ。これ以上自分好みの外見になられると、胸がキュンキュンし過ぎて死んじゃう~……、という心理でございまして……」

「なるほど、勉強になります……」

「おいそこぉ!少女漫画フィルター解釈してね!?ウザッ!クソウザッ!」

「ほほ~ぅ、恋する乙女からの罵倒以上に、心地良い物はないねぃ~」

「うわキモッ!?」

「流石ですね師匠」


 そこはあんまり見習いたくないかもしれない。


「う~、ニークト様がモテちゃうッス~……。もう終わりッス~………」


 そして君は何視点なの?

 娘を嫁に出したくない父親?

 痩せたらモテるの確定なんだ?


 ま、まあいいや。

 それよりも、俺は決めたぞ!

 

「先生!シャン先生!」

「お、おう、どうしたカミザ?」


 ニークト先輩がここまでやると言ってるんだ!

 俺も何か成し遂げなきゃ!


「俺にも何か、課題を下さい!夏休み中に、一回り大きい男になります!」

「テメエのダイエットに看過されて、やる気になってる奴が居るぜ?喜べよ」

「知らん!」

「そ、そうだな……。最近教えてるロープファイティングの練習もそうだが………よし!」


 お?何か決まったかな?

 さあ!何でも言ってください!やって見せますよ!


「口笛にしよう!」

「………はい?」

(((あれ、もうそこに切り込みますか?確かに、良い頃合いかもしれませんね)))


 カンナ?

 え?これ、この課題、そんなに納得感ある?


「お前はこの休みで、口笛が吹けるようになって来い!」

「………???」


 どういう事?

 カンナから来る無茶振りとの落差で、減圧症になるかと思ったんだけど。


 それ、長期休業中の課題で、合ってますか?

 宴会芸としてもしょっぱい特技が、一つ増えるだけでは?

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