173.遂にこの時が来た!

「ふっふっふっふ……」

(((あれ、上機嫌ですね?)))

「そりゃあねえ?待ちに待った日が来ましたから」


 7月16日、火曜日。

 平日がこんなに待ち遠しい事なんて、今までに無かっただろう。

 なんてったって、


「とうとう俺が、クラスの人気者になる日が来たからな!」

(((と、言いますと?)))

「分かんない?しょうがないなあ!説明してあげよう!」

(((十点減点)))

「詳細も聞かずに!?採点が早過ぎる!」

(((失礼。あまりの鬱陶しさを前にして、つい)))


 こいつはほんとにもう……!

 まあ!まあまあ!まあまあまあ!

 良いでしょう!

 今日の俺は寛大です!

 聞いてください!


「俺は3日前!御三家に勝利しました!」

 

 結構な差をつけて!


「そして一昨日は、明胤最強まであと一歩、という所まで行っていました!」


 まさに勝利目前!あと1秒あればポイントをゼロに出来てた!


「更に、体内の魔学的経路で魔法陣を作るっていう、史上初を成し遂げました!」


 高ランクディーパーでも、何も無い所に魔法陣を作れる人って、意外といないんです!その中で俺は、他にないやり方を見せました!


「これはもう!有名人待ったなし!校内で行く所行く所、みんなが俺に振り向くのは確定的!」


 いやー困っちゃうなあ!

 今日から学校中が、新たな最強候補に夢中だもんなあ!

 教室に入ったら、ヒーローインタビューとかされちゃうのかなあ!

 この前まで基本的に、視線で「死ね」って言ってたクラスメイト達も、この偉業を前にすれば一転、歓呼と拍手で迎えてくれる事だろう!

 友達100人も夢ではないかもなあ!


「ここから夢の青春学園生活が始まるんだ!」


 女の子とかにモテたりしないかな!


(((確かに、完璧な推理です。文句の付け所がありません。今日から、大変な立場となるでしょう。頑張ってくださいね)))

「ああ!俺!頑張る!」







「で?教室の様子はどうだったんだ?」

「なぜ……、俺の計算は完璧だった筈……」

「魂が抜けているな……」


 放課後、新跡開拓部室。

 俺は小さくなっていた。

(((元々、小さいでしょう?)))

 カンナに言い返す為に、心を動かす気力も無い。


「登校したら、なんか怯えられてさあ……」

「そうか」

「どうも、『小学生を思いっきりぶん殴ったヤベー奴』、っていう評判で埋め尽くされてるみたいで」

「何ら相違ないな」

「確かに言葉にするとそうなんだけど、本当は格上相手なんだし、明胤学園最強と互角だよ?もっとこう、憧憬とかくれないものかなあ……?」

「場面を切り取れば、目を覆うような光景になるからな」

「前よりも、危険物扱いが、悪化したみたいで……」

「何を起こすか分からない反応物質の扱いなど、そうなって当然と言えるな」

「……なんか、当たり強くない?」

 

 殊文君、もしかしてだけど、


「なんか、怒ってる?」

「何を言っているんだ、日魅在先輩」

「そ、そうだよね。怒ってるわけじゃないよね」

「ドクターストップを破る患者に目くじら立てぬ医者が居ると?」


 ブチギレてらっしゃる!


「ご、ごめんって。あの時はああするしか方法が見つからなかったんだって!」

「そうかそうか。それで自らの命を投げ捨てるのか。そこまで軽い物なら、僕も気にするまい。ガンガン行こう。これから実験で毎回挑戦するぞ。目指すは六芒星魔法陣成立だ」

「ご容赦を!お慈悲を下さい!」


 あれ成功しても、ちょっと気を抜くだけで抑えられなくなるんだよ?

 これ以上画数が多い図形なんて無理だって!


「心配するな。円周や画数を増やしていくごとに、より複雑な命令を吹き込む事が可能となる。乃ち、画数が多い方が、制御し易い」

「成立したらね!?そこに持ってくまでが難しいって話をしてんの!」


 三角形、つまり周回に三度の方向転換が必要な図形でも、魔力の動きがハチャメチャになるのだ。

 この上四角形どころか、五芒星ペンタグラムだとか六芒星ヘキサグラムだとか言い出した日には、頭が沸騰するわ!

 っていうか人体内だと、流石にそれは出来ないでしょ!


(((出来ますよ?)))


 絶望した。


(あの……、もしかして、なんですけど、)

(((その内に、ススムくんにも、実行可能になって頂きます)))


「ど、どうした、日魅在先輩?急に黙って項垂れたりして」

「いや、世界の広さというか、現実の厳しさというか、そういった物を知っただけです………」

「そ、そうか……」


 後輩を困らせてしまった。

 申し訳ない。

 

「と、兎も角、実験台にされたくなかったら、もう二度と、あんな真似は——」

「あ、でも、それなんだけど」


 俺は、体内魔法陣の生成・使用訓練だけは、欠かさずやろうと思っている。


「………話を聞いてなかったのか?危険な上に、完全なコントロールは出来ていないんだぞ?」

「だから、コントロールする練習をしておきたいんだ」

「使わない、という意思は?」

「何も無い時は、それでいいんだけど」


 が、俺はディーパーで、カンナに憑かれている身の上である。

 命の瀬戸際まで追い詰められる事だって、ままあるのだ。

 その時に、一度成功した“体内魔法陣生成”は、最後まで選択肢に入って来る。

 それ一択となって、でも上手くいかなくて自滅して、という無駄死にを防ぐ為には、技術の完成度・熟練度を上げるしかない。


「訓練ゼロでも、これから先、何かあったら使うと思う。だったら、出来るだけ使い方をマスターしておきたいんだ」

「………一度使えてしまった以上、歯止めのロジックは弱くなっている、か」


 「仕方ない」、とでも言うように、溜息と共に強張りを解き、


「日魅在先輩の身体の損傷は、詠訵先輩を必ず同伴させる事でカバーする。が、何か大きな、考えていた以上の事故や損害が発生した場合、今度こそ選択肢を放棄して貰う」

「うん、そんな感じでお願いします」


 話はまとまった。


「いやあ、優秀な後輩が居ると、色々助かるよ。ありがとね」

「そう思ってるなら、もう少し自重という物をだな……いや、何も言うまい。それでは——」


「その話!アタシも参加するから!」


 ッターン!

 スライドドアが開き、俺より少しだけ背が低い少女が、そこに堂々立っていた。


「プロトさん!」

「今日は来たのか総長」

「なに?部員が部室に来ちゃ悪いわけぇ?」

「いや、そういう事ではないのだがな」


 え?「部員」?


「プロトさんって、新開部だったの!?」

「アタシの方がセンパイでぇ~す!」


 この部活、所属人員がぶっ飛び過ぎじゃない?


「プロトさん、さっきまでずっと、扉の前で気まずそうにしててね?」

「あ、ミヨちゃん」

「あ!ちょっとお!」

「どうやって入ろうか、タイミングを計ってたんだよね?」

「言うなよザコ女!」


 劇的な登場は、辛抱強いスタンバイあっての物らしかった。


「おほん!カミザススム!アンタ体の中で魔法陣作るって?」

「うん、色々とやってみようかなって」

「だったら、アタシも混ぜてよね!アタシの魔法で五芒星とか描くと、どうなるかやってみたいから!」

「私も興味あるんだよね。私の魔法と似てる、エイティット先生の能力だと、魔法陣で追加の効果を得てるらしいから、どうやったらそういうのを発現させられるのかとか、試してみたいんだ」


 魔法が魔法陣を伴うかどうかは、「センスの問題」とされる。


 ただ魔法生成物で図形をなぞるだけでは、ちょっとした効力増加くらい。新たな能力獲得まで行く事は、レアケース。

 それなのに、生成物の形状は厳密な精度が要求され、その為の追加情報エネルギーは莫大になる。

 

 「魔法効果」とは、そういった細かい形成や運用が、無意識レベルで最適化される状態の事。逆に、「効果」となって現れてくれなければ、割に合わないのだ。


 俺の場合は魔学的経路という、既に形が出来ていて、加えて魔力伝導体最上位のような物を使って、しかし魔法を元にしてるわけではないので、純粋魔力の働き各種を、飛躍的に向上させる、という結果で終わった。


 元々色んな機能を持つ魔法の中に、魔法陣を組み込んで、新能力ゲットという事を意図的に起こす方法が見つければ、それだけで歴史に名を残すだろう。

 

 彼らが言ってるのは、体当たりでその謎に挑戦してみよう、という事なのである。

 深化を追う新跡開拓部、その活動内容にピッタリ当て嵌まっている。


「そうだな。夏季休暇明けにはがある。丁度いいテーマかもしれないな」

「アレ?ってなんの事?」

「ススムくん?さっきまでの午後授業、特別にLHRロングホームルームだったでしょ?何やってたか覚えてない?」

「ウッ、頭が…!」

「ホントに記憶を封印してるのは予想外だよ……」


 えっと、さっきまで俺は、クラスの話し合いに参加……出来てなかったけど、それを聞いてて……


「明胤祭?」


 そうだ、出し物の話をしてた。


「学園祭の部活展示のネタにする、ってことぉ!?」

「その通り。煮詰まっていた所だが、ある種良い時機だったな」


 イベントで見せる物にしては、レベル高過ぎない?


 大丈夫?お客様付いて来れる?

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