164.はーい、授業の時間だよー!
「ま、また…!?」
パラスケヴィ・エカトは、人生で初めて魔法が発現した時以来、
「ど、どっちから…!?」
魔力爆発反応を示す電流。
それが数発、連続的に。
奴が入って来た合図だ。
防御し、違う、倒さなければ。
格の違いを見せてやらなければ。
世の中には、どうしようもない事がある。
勝てない相手には一生勝てない。
勝てない。
勝てない。
——勝てない?
「違う!アイツが!アタシに!勝てないんだ!」
雷線を、ライトイエローを自身の周囲に張り巡らせる!
より厚い防御を!
「来たァ!」
疾風迅雷!
どういう原理か分からないが電流線を断って進む敵!
だが透過するわけでなく、斬り分けて彼女に近付かなければならない!
だったら、近くに来てさえくれば、「どっちの方から殴りに来るのか」、それが分かる!
後方、斜め上からだ!
ツインテールをコイルが覆う事で生じていた二つの突起、それが
狭い範囲を削り取るだけなら、前から一直線に来るその攻撃を削り切る事なんて——
ガツリ。「ギャン!?」
振り向きかけていた、後頭部右側方に、ゲンコツを落とされる。
すり抜けた!?あの速度で撃ち出される、それも頭から放ったトリッキーな秘密兵器を!?初見で!?
避けたり退いたりは可能でも減速せずに躱しながら潜り抜けるなんて——
——待って?待ってよ。
敵は、大して動いていない。
その距離からでは、短足野郎の近接攻撃は届かない。
だけど、そいつが右手の人差し指をこちらに向けて、その先にあった彼女の頭が何かをぶつけられ——
——魔力爆発?
今のが?
魔法じゃなくて、
肉体的攻撃でなくて、
単なる純粋魔力の爆風だって言うのか?
そしてその爆風で、
ツインテールの根本から伸びた電路も、さっき痛みを感じた部分の鎧も、道を別たれ電流が通らなくなっていて、
敵は今度こそ彼女に近付き、割れ目に爪先蹴りを叩き入れ、反動で跳んでまた消える。
「ァギャギャギャァァアアアアァア!!」
頭痛がする。
風を引いた時に、ベッドの中で誰かの帰りを待っていた、あの心細さと倦怠。鼻の奥を過ぎる冷たさ。
それが全身上から下まで、走馬灯のように
やめろ。
違う。
負けない。
寒くなんか、
震えてなんかない。
一人で戦える!
「やっぱり、誤差が、それもたくさんズレてる!身体能力も、魔力のエネルギーも、ぜんぜん変わっちゃってる!」
直す、のだ!
覚え直せ!
一つの電流に伴って、何が起こるのか、それを一から洗い直すのだ!
そして、
「もっと……!もっと強く……!」
切れない道を作れ!
相手が使う爆風が、電流を滞らせている!
それを突き抜けるくらいの強い電気を帯びるのだ!
「ハアアアアアア!!」
ビカビカビカリ、
闇夜のネオンよりも目に残る、
実体を持つかのような光量!
魔力探知のせいで、目や耳を潰すのは効果が薄い。
さっきから何度も試して、判明している事実。
平衡感覚を破壊してやっても、補ってくるのだからふざけている。
だからこれは、目晦ましではない。
ただ彼女の精神に呼応して、電位のプラスマイナスが、大きく偏ったという
「きぃたぁなァァァ!?」
見えた!
見えて来た!
相手の身体能力を、ヤケクソなレベルで高く見積もれば、トリッキーな動きにも準備可能!
そして!
「無敵バリアァァァァ!アタシには効かないもんねぇぇぇぇ!!」
胸に一発!
だが電流は途切れない!
放電継続!
「勝った!」
拳を引き損ねた敵は、捨て
確かに痛い!
確かにポイントが半分以下に!
でも、
けれども、
「アタシはまだ余裕だもぉおぉぉん!」
殴った際の電流、その影響で筋肉が一時的に不随意収縮した事で逃げ遅れたそいつに、プロトからの蹴り上げのプレゼント!
「ビリビリになって死んじゃえええ!」
「おお、ほんとうだ」
——なんで、
「あんまりいたくない」
——なんでコイツは、
「高校受験
「なんでまだ喋れるのよおお!?」
慌てふためいた追撃は魔力爆裂で防がれ、そのまま敵は魔法の範囲外へ!
「な、なんで?なんでなんでなんで?イミわかんない!イミ!わかんないって言ってんじゃん!イミわかんない!」
「電圧だ」
声。
彼女の迷宮の外から、張り上げられた音。
射程外を高速で移動しながら、語り掛けている。
「は?電圧?」
「気圧が低い中でも放電を起こそうとしたら、より大きな電位差が、電圧が必要になる」
「う、うるさいんですけどぉ?い、言い方がどうあれ、アタシにはそれが出来るからぁ!」
「だけど、お前が出せる電力には、限界がある」
「あ?電、りょく……?」
「単位時間当たりの、電流エネルギー量。
「やっぱ、そこは未履修なんだ。だとしても、電気系能力なんだから、知っとかないと、いけないんじゃない?」、
優しげな言い方、腹の立つトーン。
宿題をしない
「そ、れが、なんだって……!」
それに煽られて、彼女はその続きへ耳を開く。
「(電力)
だが、彼女は今、電圧をどこまで上げた?
「人の体内を傷つけるのは、電流だ。500
「……あ、しまっ」
プロトは、敵がどうしてこんな“授業”に興じているのか、それを悟った。
しかし、耳を塞ぐには遅すぎた。
彼女は理解してしまったからだ。
「お前は今、何万
実に、50000
家庭用掃除機の消費電力平均の、約50倍。
業務用電子レンジの最高出力と比較しても、16倍以上。
それを、1秒以上継続させる。
プロトの認識に、「そんなの無理なんじゃないか」、という不安が一滴垂らされ、
ワインに落ちた泥水のように、魔法の効力を犯していく。
彼女の理解不足によって起こった、魔法の減退現象。
電力の公式は、明胤では中学1年生で習う単元、という言い訳を、戦場は聞いてくれない。
「知らない!そんなの知らない!テストに出てない!私は知らない!」
頭に染み込んだ認識は、頭を振っても飛んで行かない。
仮に、電力と電圧について、先に学んでいれば、強固な心の準備を持てた。
5万という途方もない数値も、例えば、「水力発電1基の最大出力から見れば、だいたい200分の1、0.5%でしかない」、というポジティブな見方が出来てさえいれば、「それくらいなら出せる」と意気込めたかもしれない。
魔法に必要な精神力、意思の力を、
今の講義が初耳だったせいで、
削られたのだ。
全ては無敵と
自分自身への疑心暗鬼、という迷宮を。
「だ、だけど、」
その攻略を、
「だけど!おさわりしたら!アンタは電流を受ける!」
彼女は見切って、投げ出した。
「まだポイントは、200点くらい残ってるけどな?お前が電圧を強くしてくれたから、もう割とゴリ押し圏内だ」
「それでもア、アタシが有利なのは変わらない!」
円刃を背中に持って来て、共に球体範囲内をあちこちランダムに移動しまくる!
「目が慣れてないだけ!追い着いて来れば、アタシの方がアンタより速いのは変わらない!」
スピード勝負にて、優劣を決めようと言うのだ!
「アンタはアタシに追い着けない!」
突入の気配!
——見てやる!
一つ所に留まらなければ!
——目視してやる!
敵から彼女に辿り着けない!
近付くのは彼女の方からだ!
「アタシは雷だ!カミサマが
そうとも!
分かる!
魔力の爆風を使ってバウンドしている!
点と点を直線で結んで、
バイパスを繋ぎ、
幾つかの線は切れない高電圧路で邪魔をして、
誘導出来る!
「そこに来るよねえええ!!」
彼女は遂にカミザススム討伐のルートを描き上げて、
その場に、一つの遠鳴きがあった。
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