161.それだけ言ったからには、分かってるんだよな? part1
「まず突風をイメージしてみろ」
これも、シャン先生に、じっくり教えて貰った記憶だ。
「突風、ですか?」
「なんか
「えーと、はい、想像できました」
「その風のすぐ右横に、今度は風車的な物を置け」
「風車、ですか?」
「スクリューと言ってもいいな。風でそいつが回ると、特定方向に新たな風を出す、みたいな機構だ」
「それを、風の右に……」
「どうなる?」
「風のせいで、時計回りで回ってます」
「そいつは時計回りだと、俺らから見て前方、言い換えれば奥側、最初の突風と垂直になる方向に風を出す」
「はい……分かります」
「じゃ、同じスクリューを、突風の全周に置け。ああ、ちゃんと羽が風を受け取れるようにな」
「他のスクリューからの風って、どうします?」
「そこは考えるな」
「えー…と……」
羽の先を突風に向けて、ぐるりと取り囲むスクリュー達。
「だとすると、同じように回転しますね」
「スクリューから見れば、全員同じ側に風を起こしている。が、置かれた角度がズレるから、起こす風の方向もズレる」
「はい、分かります」
「スクリュー共が発生させてる風は、一言で表すならどうなる?」
一つから風が出て、その先に別の一つがあって、それは少し内向きに置かれていて、また風を出してるから………
「最終的に、突風の周りを、ぐるっと一周します」
「同じモンを上下びっしりと置け」
「グルグル回る風が一杯ですね」
「そうだ。それじゃあ、中央の突風を電流に換えろ」
「え、電流?」
「周りの風が磁場、或いは磁界だ」
「……うえっ!?あっ!ホントだ?!」
右ネジの法則。
右の親指を立てて、それを電流ほ方向に見立てる。
そうして他の四本を握ると、それらが畳まれる方向が、磁界の向きとなる。
その磁界が、磁力に繋がる。
それと同じ図が出来上がった。
「磁界、それによる磁力と、電流。この二つは常にセットだ。どっちかがある時、もう片方も存在する」
「その説明だと、磁石にも電流が流れてる事になりませんか?」
「その通りだぜ?ばっちり流れてる」
ゑ?そうなの?
「というか、どんな物質でもそうだぜ?原子の中の電子が、原子核の周囲を回っているせいで、微弱な電流は絶えず発生している。磁力も当然ある。が、普通は互いに相殺し合って、表面的には何の力も発していない」
「磁石は、じゃあ、電子の動く方向が揃ってる、って事ですか?」
「理解力が高いな!流石だぜ」
いやあー、それほどでもぉ?
「電子の周回による電流、そしてそこから生まれる磁界、それが同じ方向に向けば、増幅し合って表面化する。鉄が磁石にくっ付くと、しばらく磁石と同じ性質を持つだろ?あれも、強い磁界の影響を受ける事で、鉄の中の原子共、その中の電子の移動方向がキッチリ揃えられ、磁場を持ってしまう為だ」
「な、なんと……」
なんで電流からいきなり磁力が出て来るんだ?って、ずっと疑問だったんだけど、これでようやく——
「あれ?でも先生、もう一つ聞きたいんですけど」
「おうよ、ジャンジャン来い」
「さっきの喩えで出て来たスクリューって、実際は何が回転してるんですか?」
サッ、と、
冬場の木枯らしが隙間から入って来たみたいな、冷たい空気が通過していった。
俺は首を縮めながら、周囲を見回す。
何か、目を逸らされるんだが。
トロワ先輩からは、憐れみの目を頂いた。
え?何?
俺なんかやった?やっちゃった?
「カミザ」
「は、はい?」
「その話を始めると、最低でも今週分の午後授業時間の全てが吹き飛ぶが」「やめときます」
「それがいい。ま、飽くまで分かり易くしたモデルってだけだ」
軽々しく踏み込んじゃいけない聖域的雰囲気を察した俺は、即時撤退を決めた。
触らぬ神に何とやらだ。
………こえーよ。一体何が回ってんだよ。
兎に角、ここで重要な学びは、「電流は必ず磁力と伴う」、という事だ。
それがあったから、
俺が今見ている光景も、説明する事は出来る。
「キャッハハハハハ!!段々と疲れて来たんじゃないの~?」
ライトイエローの線がフレームを、蜘蛛の巣を作る。
触れれば硬直させられ、刺されば即死も有り得、
敵はその上を高速で滑る。
アイススケートでもしてるみたいに。
「気を付けなよぉー!アンタみたいのがアタシみたいな、カッワイー!女の子に触ったら、ソッコーケームショ行きだからぁー!ハメツだねハメツぅー!」
「社会的!死で!済んだら!幸運な!方だろ!コレ!」
彼女はライトイエローの導線を、満遍なく全身に巻いて、そこに電流を流し続けている。
あれは、コイル的な使い方をしてるのか?
空中の導線に流れた電流にも、彼女を覆うそれにも、磁場が発生しているだろう。
電流の向きによって、磁場の向きも変わる。
磁力の引き合い、或いは反発、それらを利用する事で、急加速と急停止を器用に行っているんだ。
リニアモーターカーと似た原理だが、より緻密。
目では追い切れず、先読み以外の何者も付いていけない緩急、
現れ、消えて、飛び、遠巻きに回り込んでいるようで距離を直線的に詰め、
また跳び、頭上で逆様になって見下ろし、横に立ち、
ジャブのように拳を伸ばし、潜り、飛び蹴り、
そしてまた消える。
電光石火。
その言葉の意味を、電熱と
耐電能力も高い明胤模擬戦仕様ボディースーツだが、綻びも破れ目も増えて、大きくなっている。魔力の膜による防御も気休めの域を出ない。
その裂け目に彼女からの直接攻撃を喰らったり、
或いは、
「!ぐ、あばッ!!」
今のは、危なかった!
導線同士が
宙から宙への放電!
対空簡易落雷!
大気圧すら制御下とする彼女にとって、俺を殴りながら片手間でそれを起こせるというわけだ!
「というわけ」じゃないよ!?
攻撃速度も密度もヤベーのに、一撃ヒットがほぼ脱落と同義なの理不尽だろ!理不尽オブザイヤーノミネート!個人的にカンナと争えるレベルだと折り紙付けとく!
(((減点しておきます)))
「じゃ、追加しまーす!」
カンナの謎の採点に抗議するより前に、エカトさんがもっとシャレにならん発言をした気がしたけど、幻聴だったりしないかな!?
「これはぁ——」
彼女は背負っていた四半円の刃を遂に抜き放って、
ダメだあ!!幻聴じゃなかったあ!こっから更に加速するつもりだあ!!
「——避けれるかなぁぁぁ~!?」
投げた!
半径が使い手の身長の半分はある四半円を、豪速で投擲してきた!
しかもなんか加速してる!
刃の部分は金属使ってない筈なんだけど…違う!ライトイエローが刃先をコーティングしてる!
更に俺の周囲の導線が絶縁破壊の前兆を示す!
こっからここに雷が通るとすると…俺はこの位置を動けない!そして彼女が投げた、あれって斧か何かか?それは逃げ場の無い俺を正確に両断する!
「外れ、」
横殴りにする炸裂魔力を発射!
「ろおおおおおおおおお!!」
それを3、4、5、6、7、8、9……!
俺を守るシールドの上、紙一重で
同時に思える程少ない時間差で隣の空間を
凌いだ?まだだ!足裏から全力の魔力ジェットを噴射して左横の少女から蹴り離れる!
僅かに足を鈍らせる
視力と聴力の回復を待ちつつも迫っていた水浸しの地表に魔力をぶつけ跳び上がりつつ、
魔力探知を出来るだけ広範に行う!
彼女が次に移動する先は——
雷が通るのは——
半円はどういう航路で戻って——
——半円?
形が?
という俺の疑問にすぐに答えてくれたのか、
更に展開されて完全な円形になった。
ウッソー!?
それってそういう武器だったの!?
単純に刃長が長くなったせいでより避けづらくなったし、
円形だから回転で加速させる事も容易となり使い勝手アップ。
即死パンチを放ちに来る本体とは別に、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます