160.遅延行為に全力投球してる… part1
〈アータ、どちら、なのかしら?〉
辺泥・リム・旭は、一応の儀礼的手順として、
答えが返らぬと分かる問いを放る。
〈邪魔が無ければ、勝てると見て?それとも、くんずほぐれつしてれば、あたしを止め続けられると思ったノ?〉
「……見た目に似合わず、お喋りなんだな?」
ニークト=悟迅・ルカイオスは、見え見えと分かりながら、余裕な
「オルカって奴はもっと、キンキン高音で鳴くだけで、ショービジネスの物言わぬ
剣を杖として立ち上がりながら、
ユラユラと地面が揺れるように錯覚する、貧弱な頭を左右に振って、平衡感覚を戻そうとする。
〈アータって、水族館でキレイに見えたからって、海でクラゲを手掴みしに行く人?〉
「クラゲは美味いぞ?食った事ないのか?良い央華料理を紹介してやろう」
〈……ダメね?まともに会話が成立しないワ。今の一撃が、相当
どうやら逆効果、自身の頭が回っていない現状を教えただけとなったニークトは、
舌打ちしながらいつでもシミターを振り抜ける体勢に戻った。
辺泥は両腕を上から回すようにして、握らず体の前に構える。
〈アータのそれは、弱っているように見せかけて、あたしを誘ってるだけ?それとも、マジ?〉
「…どう、思う……?」
ジリジリと、相手を正面に見据えながら、摺り足で横移動。
二人で一つの円を描きながら、口先によって牽制し合うも、
〈殴ってみれば分かるわね〉
口の一つがあっさりと戦端を開いた。
黒い
一歩下がろうとした先に土壁。
波打った地面が背後を塞いでしまったのだ。
シミターを回転させながら逆手に変えて突きを撃ち、接近する上位捕食者を止めようとするも、内側である峰の部分に下から腕を挿し入れて外へと円形に手を返していなす。
空手の外受けに近いテクニックによって、身体の向きを変える事すら失敗させられたニークトは、牙を生やした右膝での攻撃を試みたが、それが上がる前に辺泥の左膝が腹部を突き刺す。
二度、三度、四度………
受ける度に狼鎧が破れ飛び、鈍痛が肉の芯から膨れて行く。
それから逃れよう、衝撃を流そうと後退すれば、表面が波立つ壁に跳ね返され、逆に攻撃へ近付かされる。
何度目かを受けた際に、被弾箇所の防護を厚くし、左腕で背後を打ちながら、横っ飛びに逃れる。
当然追撃。
杭のようなストンピングを樽めいてゴロゴロと避け転がり、それを止める為に発動した
体全体を左方へ90°捻ることで刃を下に、擦れ違いながら斬りつけようとするも、低く屈んだ辺泥は剣の腹を横殴りにして攻撃を不成立に、どころか左手を地に着き、両脚を曲げながら上げて、細い水流をジェット代わりにしてバックキック。ニークトは体育倉庫らしき小屋の壁に叩きつけられ、るだけでは足りずに突き破ってその中に転がり込む。
点数表示板が追い打ちの如く、幾つも彼の上に倒れ、生き埋めのようになってしまった。
〈
壁の穴から這い出し、同じ姿勢に戻るニークトを見て、辺泥は声音の熱を下げる。
〈やっぱり、アータは“格下狩り”ネ。朱雀大路ややっくんをイタイ目に合わせる事は出来ても、トロワや棗、あたし、
「格下相手は…、お互い様だろう……?」
辺泥の言いに、怒りを感じているのかいないのか、ニークトは痺れかけの舌を回して、相手の指摘を返す。
「明胤学園、在校生…、唯一の、ランク8……、辺泥、リム、旭……」
「お前、生徒会総長の座に、一度も挑まなかっただろ…?」、
学園内最強の呼び声高い彼なら、小生意気な少女からの、王座奪還が可能なのでは?
そう期待されていたにも拘わらず。
〈あたしにメリットが無いでしょ~?お山の大将になる為に、自分の強みを全部出して、情報を大安売りなんて、おバカな男子辺りにやらせとけば良いのヨ~〉
「なら、どうして今日、こうしてその、頭に脂肪を乗っけた、
WDAに認められた彼が、今更校内大会で張り切った所で、得られる物はほとんど無い。精々が、担当教員からの覚えが良くなるだけだ。
〈それよ〉
彼が参戦したのは、
〈八志先生に、汚点を残しては、コトだもの〉
担当教師、高等部主任、八志兼の為だ。
〈あなた達が、イケナイのヨ?漏魔症なんて、センシティブなもの、担ぎ出しちゃうんだから〉
「彼個人には、恨みもマイナス感情も、無いんだけどね?」、
ただ、この大会に出ている事、それだけで波乱の種となる。
「お前も、奴が、ここに居るに値しない、と……?」
〈逆ヨぅ。彼が噂通り、とんでもなく弱っちいなら、誰も問題にしなかったワ。だけど、昨日、よりにもよって御三家に、勝っちゃったでしょう?それも、圧勝〉
世間的には、彼は弱者だ。
けれど、その“弱者”に、敗北する可能性が出て来た。
何も知らない者から見れば、「漏魔症に負けた」という経歴は、それだけで潜行者としての信用度を、大きく損なう暗黒史になる。
ではその黒星は、誰が背負うのか?
最も重く責められるのは誰か?
負けた本人か?
そんな相手にも負けるような指揮をした
違う。
漏魔症に敗北するような、不甲斐ない育成をした、担当教員だ。
〈一戦目の相手、
じゃあ、なんであんな事になったのカシラ?明白よネ?
担当教員の失態は、その生徒の能力への不信に繋がる。明胤学園出身という、本来最上級のブランドに、影を差す要因になっちゃう。上昇志向が強かったり、自分の生徒に自信がある、生徒想いの先生程、カミザススムという男は危険なのヨ。どんな手を使ってでも、排除したい程に、ネ〉
結果的に、枢衍は目的の一部を達した。
漏魔症の居ない特別指導クラス相手なら、敗北したとしても幾分か言い訳が利く。
パンチャ・シャンの手によって、優秀な生徒も集められているからだ。
逆に言えば、「漏魔症相手」というハンデは、他の条件がどれだけ不利でも覆しようが無い程、大きな物であるという事。少なくとも、世間的には。
〈お宅の先生、どうやら政治には不向きネ?彼をあんなに華々しく勝たせちゃ、いけなかったのヨ。あれのせいで、カミザススムは地雷になった。校内大会なんて楽しい習熟度確認イベントを、立場を失う恐れのあるデスゲームに変えちゃった。
公害レベルで迷惑な物持ち込んで、あたしが出て来ざるを得なくしたのは、アータ達の方なの。分かってる?〉
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