145.おい part1
「あなた達、私がいないと駄目ね!最後まで私頼み!けれどいいのよ?頼ってしまう気持ちはよく分かるわ」
「フン!美味しい所を持って行っただけだろうが!MVPはこのオレサマだ!だがお前達も、オレサマの配下としてよくやったぞ!誉めてやる!」
「う、うっせー!そんな上から目線で言われても、なんも、う、嬉しくないし!大半あーしの手柄だし!」
「テメエら元気だな?小坊かよ?」
「コモゴモはー…、何してたんー……?」
「いーオンナと一つ屋根の下、病める時も健やかなる時も、支え合い慈しみ合い寄り添い合ってですねぃ……」
「イミフー……」
「と言うかお前、さっきは突っ込まなかったが、『ステゴロは得意じゃない』とかいう話はどうした!?」
「あれぇ?そんな事言いましたっけぇ?記憶に御座いませんねぃ」
「あんな使い方しやがるとはな。食えねえ女だぜ……」
地下模擬戦闘用アリーナの近くに併設された、大会議場。
試合前にもそうしたように、両教室の顔合わせの場が設けられる。
通常、試合後に行われるのは、担当教師と、後は精々代表生徒同士による、挨拶くらいである。
しかしここには、今来れる特別指導クラス生徒、その全員が集まっていた。
当然、相手方の教師に対し、
「さて、大人しく要求に従ってくれると、早く終わって助かるのだけれど」
「そんな素直な良い子ちゃんなら、まず指定区域外での魔法使用を、許さねえだろうがよ」
「ノーって言われたら、シャン先生が来るまで話を長引かせる方向でぃ~」
「把握ー……」
そこでドアをノックする音。
6人は立ち上がり、入って来た3人を出迎える。
瘦せ型で初老の男性、音楽室に飾ってある肖像にも似る担当教師、枢衍
ヘアバンドで前髪を上げ、背まで伸びる後ろ髪を一つに纏め、黒の中に黄色のメッシュ、はっきりと前を向く目と鼻梁を持つ女子生徒、棗五黄。
そして、不機嫌そうな目つきに、サーモンピンクで尖った頭頂部を持つ男子生徒、朱雀大路三七三。
幸いな事に、朱雀大路の召喚には、応じてくれたようだ。
だからといって、特指側の要求の一切が、通る保証になりはしない。
この場には、中立的な審判役が、何故か来ていないのだから。
「私も忙しい。手短に済ませるぞ」
席について開口一番、敗北した側の枢衍は、しかし命令して当然といった顔だった。
「パンチャ・シャン担当教員が不在ならば致し方ない。所詮儀礼的な会だ。我々からは特に言うべき事は無い。朱雀大路への質問が終わった後に、所定の文言を読み上げろ。それで手続きは以上となる」
「は?なんでそのまんまフツーに帰れると思ってるワケ?だる。ありえな」
「そちらの教室は、随分躾がなっていないようだ。シャン担当教員に、指導を徹底するよう言って聞かせなければならんな」
「ヤッバー!あんた何知らん顔してんの?あー、アレ?『知らぬ存ぜぬ』ってヤツ?オジサンって何で都合の悪いコトに限って忘れるん?早めのボケ?」
「いい加減に——」
「六本木、少し黙れ」
口論を止めたのは、ニークトだ。
「今はオレサマに言わせろ」
「………りょ……」
「ろくぴー…、すなおー…」
「ち、ちげーし。話が通じなさ過ぎて、メンドってなっただけだしー?」
一度六本木に下がらせ、彼は教員相手に朗々と告げる。
「申し訳ありません。我々も気が気でないのです。こちらのメンバーの一人、日魅在進が、“原因不明”の急病で、意識不明になっていまして」
「ほう?それは心配だ。大事にな。医者には?」
「シャン先生付き添いの下、手配しております。ですので不備は無いかと」
「ご心配痛み入ります」、ニークトは枢衍の惚け顔にも、激昂する事なく話を進め、
「しかしながら」、だが視線を一段と研いで、
「あまりに不自然な状態である為、何者かの魔法によって人為的に引き起こされた、その可能性がると考えています」
その二つの矛をさりげなく右へ、努めて興味が無いように見せている、中等部生徒の方へと差し向ける。
「なんと、それは穏やかではないな。潜行者として、許し難い犯罪行為だ」
「事の重大さを、理解して頂けますか?」
「勿論だとも。事実であったなら、決して見逃してはならない」
「ええ、全くもってその通りです」
「だが、」
「その証明は?」、
お決まりの台詞。
「『重大さ』が過ぎている。ただ『そうかもしれない』、と言うだけで、触れて周って良い話ではない。疑惑の段階で、無関係な誰かしらを理不尽に追い詰める、それだけの効力を持つ問題だ。不用意に口にすれば、君達の立場も危うくなる」
正論である。
残念だが今の所、日魅在進の身に起こった異常について、人の意思の介在を、誰かに仄めかす事すら危険。
「私もそう思います。
口を噤むのがベスト——
「けれど座して待つ以外にも、出来る事があります」
——などと日和った事を、言うつもりは毛頭無いが。
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