143.これにて決着! part2

 五星獣の元となった、世界を五つの元素で説明する、いにしえの理論。


 曰く、

 “木”は“火”を、“火”は“土”を、“土”は“金”を、“金”は“水”を生み出し、そしてまた“水”が“木”をといったように、物質は“相生そうじょう”と呼ばれる関係性の中を、グルグルと循環している。

 それらが互いに起こす反応によって、この世の全ての現象は説明できる、と。

 「五星獣」とは、それらの元素に神獣と方角を対応させた、古代央華オウファの宗教、或いは哲学の事だ。

 

 枢衍教室では、この「五大元素思想」と「五星獣」という物語を、元の能力に上乗せする事によって、パーティーメンバー間で生み出される、能力の合わせ技を重視した、集団連携主義の教育方針を取っている。


 そこでは、基本的には魔法能力を見た上で、どれか一つ、適性が高い元素を与えられるのだが、時に例外的な扱いをされる生徒も居る。


 寛容さや巨視的な主観を持つか、

 それとも元からその思想を持っていたか、


 「五大元素思想」そのものを、魔法能力とする人物。

 乃ち、この世の全てを五つに選り分け、或いはその内二つの反応と捉え、それを操る魔法を会得した者。

 

 “彼”にとっては、

 “木”とは“火”を生み出す物だ。



〈特にそれが、魔力で作られているのなら、尚の事〉



 認識の共有と同時に、火勢が六本木を襲う!

 

「ぬぅううううう!」


 ニークトは棗の角を横に流してその軌道を脇に逃しながらパーティーメンバーを庇いに行く!


〈うん、見せたな。そっちがKキングか〉


 ニークトが剣を回しながら横に薙ぎ、赤色の絨毯を掻き消さんとする!

「樹木を代償にしているなら!それが尽きれば火も止まる!」

〈そして、火が灰を、土を生む〉

 棗の神獣が司るのは、“土”の元素。

〈火の海の中、わえは平気で動ける、どころか強化される。だが——〉



——お前達は、

——果たしてどうかな?

 


 亢宿が居る限り、“彼”を通して、棗は無敵となる。

 それに、万が一、何かが起こって棗を倒せたとしても、

 亢宿が残っていれば、幾らでも広範囲攻撃が出来る。

 奴らはKキングを探すが、容易には見つからないだろう。

 彼は最初から最後まで、魔法の範囲外に置かれていたのだから。


 両勢力共に6人同士と、奴らは考えていただろうが、

 棗や朱雀大路の能力で、容易に合流出来る枢衍側は、一時的人数有利を何度も作れる。

 必ずしも、全員を投入しなければならない、わけではなかったのだ。


 五星獣を除く、最後に残った一人は、遠隔攻撃要員であり、絶対安全圏で潜伏する保険。

 朱雀大路の魔法を一瞬たりとも解かせなかったのは、こちらが区切った領域から敵を逃さず、彼に届かせない為でもあった。


〈お前達の勝ち筋は、亢宿を倒す事だった。彼とK(キング)が居る限り、わえ等は戦場を、広範且つ自在にコントロール出来る!〉


 消耗した彼らを、植物と焼却でいいように動かし、回復能力持ちと会わせず削り切る。

 持久戦となっても、圧倒的、支配的優位は変わらない!


〈直に万もここに来る。“土”が生む“金”の能力者が。一方、お前達の援軍は、この火によって到着が遅れる〉

 

 敢然と燃焼に立ち向かうニークトに、棗は敵が届かぬ中距離を保ちながら、角による攻撃を何度も入れて、その鎧を徐々に削っていく!


〈決着だ、ニークト。数段重ねの策を用意していた、わえ等が手数で勝利した〉


 用意された伏せ札の枚数で、勝っていた。

 それだけの話だったのだ。


「………魔力」

〈何?〉


 横へ一撃。

 それを防いだ事で火を被らざるを得なくなり、毛皮が無惨に剥ぎ取られていくニークト。

 その口が、何事かを。


「魔力の色、だ」

〈……?〉

 

 一言二言、それで気を引いて延命をして、その悪足掻きが何になる?

 

「根を伝って、お前等のKキングの、魔法が届けられた。そこには、固有の色が付く」

 

 当たり前の事だ。

 ランク6以上のディーパーなら、誰だって魔力の色を見分けられる。


「それが、魔力の動きを、発生源を、見せてくれるぞ?」

〈…何を言い出すかと思えば〉


 そこに到達させないように、今はKキングと亢宿の連携で、誰も逃がさない閉鎖空間クローズドサークルを再構築している、と言うのに。


「だが、朱雀大路が倒れてから、お前の側のKキングが攻撃配置に就き、魔法を発動するまでの間。その間に、範囲外へと抜けた者が居れば?」


 ニークトの肩口が抉られ、剣の動きが鈍くなる。

 

〈愚かな夢にまみれた、有り得ない仮定だ。それまでまともに探索も出来なかった者達が、短時間で範囲内にわえ等6人全員がおらず、わえではなく外の者がKポジションとまで見抜き、そこから外れて、お前達の合図も無視して、居るか居ないかも知れない誰かを、探しに出るなどと〉


 起きなければならない偶然が、多過ぎる。

 愈々いよいよもって神頼みの域だ。

 それを望む時点で、真っ当に勝てない事を、既に敗けた事を認めたのと同じ。


〈残念だな。お前はもう少し、知性的かと思っていたが〉


 棗の剣筋が、遂にニークト本体の左膝を切りつけるに至った。


「オレサマも残念だ。これ程簡単な事を、理解出来ないとはな」


 彼の肩を六本木が下から組んで支え、まだ倒れない。

 倒れていないだけだが。


〈うん、もう動けまい。好きな負け方を——〉



 背後。

 振動。

 巨大な振幅。



〈——………?〉


 振り返る。

 景色には何も異常が無い。

 では、今のは〈!?〉

 否!

 よく見ればビルの一本が縮んでいっている!

 否々!

 低階層から順にだるま落としのように破壊されている!

 どうやって!?

 どういう能力ならそんな事が「まさか!」


 それに思い至ったのは亢宿!


「“萌竜ロング”!」


 そちらに根を伸ばして探り、


「隊長!彼女です!トロワさんが!」


 恐ろしい物を見た。


 ジュリー・ド・トロワが、

 特指クラスのアタッカーが、


 完全詠唱によって生み出された、長く自由な剣によって、



 コンクリートの砦を、

 下からこまれにしていた。



 そして、

 そのビルこそが、


〈“黄燐獲麟仁倫クウィ・ホァン——〉「させると思うかあああ!」


 枢衍の秘蔵っ子の元へ飛ぼうとした棗へ、

 ボディースーツを直接燃やされながらニークトが中断させに来る!

 動かぬ左脚を、眷属の狼を回収し作った、魔法の鎧で補って!

 

〈うん、お前はそうする〉


 だから、Kキングへの守りが甘くなる。

 

〈勝った〉


 ニークトの肩越し。

 六本木へと山吹色の一本角を伸ばす。

 ビーム兵器めいたそれに貫かれた彼女は、当然脱落。

 試合は終わり、

 終わり、

 終わ〈らない?〉


 そこから角を振り下ろしニークトを切り伏せようともまだ続く!

 どちらも不正解!

 では、


〈トロワか…!〉


 彼女は再び完全詠唱に入ろうとして、


 その瞳に映った建造物が、

 上から下まで小さく分かたれて、

 ガラガラと崩れ落ちて行った。

 

「隠れている部屋が分からないからと言って」


 溜息と共に亢宿が呟く。


「ビルごと斬り刻むとはなあ………」


 ブザーが鳴り、彼らに告げる。

 

 試合終了。

 勝者、特別指導クラス。

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