134.大物一本釣りだあ! part2
「今私は、敢えて一発、モロ喰らいしてお見せましたぁ。そのダメージは、見ての通り本来のそれから減じてー?そして、一瞬後に、不可解な衝撃がありましたねぃー?」
相手の左頬を打った事で、
彼女の左頬が——
「ま、まさか……!?」
「そそ!この範囲内では、互いへの、あと壁や天井への攻撃も、ですねぃ。それぜーんぶ、中の人間で分け合いっこ、等分されますぜ?ご注意を!」
「同じ屋根の下、苦楽を共にして、仲良くしようよ~?」、
口元だけで分かる、柔らかな笑み。
それがふわふわと告げる事実には、しかし血みどろの闘争の臭いが漂っている。
「けれど、籠められた魔力が、切れれば……!」
「もう~、折角家族なんですから、財産は共有に決まってるじゃないですか~」
「何をわけの分からない……!?!?ま、待って…!?え?本当に待ってぇえぇ……!?」
「はい大正解!この魔法の完全詠唱は、サブスク型!成立後でも、魔力を流し込めば維持できるタイプで、その為の魔力も、中に居る全員から徴収されますねぃ~。全員の魔力残量がゼロになるまで、ここは維持されますぜぃ?」
「魔力は、その性質は、あなたとワタシで異なる……!利用できる筈が…!」
「ところがぎっちょん!出来るんですよねー。何たって、洗礼を経て生まれた、救教会系列の魔法ですよ?ダンジョン由来の物なら、何だって受け入れる、って中でも、特に節操の見当たらない、“
そしてこの空間内では、内外の循環が成立している。
魔素が流れ込み、体内の魔力生成を助け、それが新たな動力として、この魔法を稼働させ続ける。
永久機関とは行かないが、短時間で消滅するものではない。
「ここから自力で出るには、ふたあつ!
私のポイントを、再生が追い着かないレベルでゼロにするか、即時に意識を奪う!
それがダメなら、壁が一時的にも立ってられないくらいの強さで、殴って破壊しきる!
どっちも、魔法によるダメージのフィードバックが間に合わない、ほぼ一撃で決める攻撃でなきゃあ、成功しても自分まで瀕死、若しくは脱落となります!
あ、あと、番外編で、完全詠唱クラスの高燃費魔法をガンガン使って、なんとか私も巻き込むレベルの、魔力切れを起こすのもアリですねぃ。ま、長めの詠唱なんて、させませんけどもー?」
「ワタシの魔力で維持されているなら、壁が冷気への耐性も、獲得するぅ……!」
「またまた正解!」
本来は、強力な攻撃を撃たれても持ち堪える為、仲間も自分も守れるシェルターを立ち上げる、という消極的用途の魔法。
それが彼女の手に掛かれば、確実に捕らえる事に特化した、優しさと支え合いの檻。
見た目とは裏腹に、一つの地獄の形である。
通信役兼、強力な戦闘ユニットである介冬を、キャッチし隔離出来たのは、確かに飛んだり跳ねたり嬉しがるのも、納得の幸運と言えた。
1対1の状況では、破りようがない、「ように見える……!」
「ほほぅ?『見える』、ですかあ?」
「不落の牢獄…の、ように見える……!」
「見えちゃいますかなあ?」
「あなたは敢えて、言及しなかった…!もう一つの、攻略法……!」
両手に冷気のガントレット。
ここで諦めず、考えを止めず、解決法を探すからこその、
教室選抜メンバー、
明胤でも数少ない、ランク7。
「あなたに解除させればいい……!逃亡か脱落を望むくらい、痛めつけて、震わせてあげるぅぅぅ……!」
「そこにお気づきとは、良い着眼点ですなぁ」
「余裕ぶって、いられるのも……」踏み込みながらの右手
今度は左手で防がれたが、関係ない!
その手首を拉げさせ、逆の手でもう一度——いや遅い!繰り出す頃には、破壊力の半分が彼女の左手首を打っている!いつもの要領での連撃が繋げられない!
「よっ」
そして、手を下から襲った衝撃で、少し浮いた左半身の下へ、訅和は淀み無く潜り込み、
「ほいっと」
無事な右手で相手の破砕部を容赦無く握って追撃を入れながら、
背負い投げ!
大理石の如き床に背中から叩きつけ!
取った腕を引き上げつつ喉に左足ストンピング!
オマケに左手指を外側へ曲げ折る!
「がぼっー!」
「あばっ!あばばっ!おほぅ!」
——この、子……!
躊躇が、無い…!
自分に返って来るのを承知で、極めて効果的に、痛みと苦しみを与えてくる!
特に、自分の身体を、相手に回避不能攻撃を加える為の、武器や道具としてしか見ていない!
今の交錯でも、左腕の何処で受ければ、次の攻撃がし易くなるか、それを見越した上での防御!
そして、
何より、
その格闘技術…!
「よくよく、オエッ、考えて、見てくださいよ~……」
傷が治され、呼吸も手繰り寄せ、気勢を振り絞って復帰しようとする介冬に向かって、訅和はゴーグルを一度外しながら、ニコニコと語って聞かせる。
「この中で、私が出来る事って、せいぜい殴る蹴る折る締める、くらいですよお?」
その表面の汚れをふき取るように、指で
「それに、私が我慢すれば、幾らでも必中ですよぉ…?」
また掛ける。
「そこを鍛えないわけ、ないじゃないですかぁ……」
介冬が立った。
訅和は、相手と同時に構える。
介冬は左足を一歩前に踏み、
訅和は鏡合わせのように、右手右足を前へ。
「身体強化だけなら、カミっちほどはムリだけど、トロちゃん先輩には負けないくらい、強かったり……」
挑発するように、手指をワキワキとクネつかせた訅和から、前へ。
両者の手が触れ合い、弾き合い、
もう一方の拳が狙った地点へ迫る!
介冬は訅和の左の
訅和は介冬の
訅和は一瞬意識を飛ばし——その後、自身の放った一撃が返って来た事による痛みで覚醒!
反対に介冬は激痛に悶えた隙に、一刻前の自分の手で平衡感覚への攻撃を畳みかけられる!
ハッ、と我を取り戻した時には目の前に訅和が居らず、背面、
——足下を掬うだけなら、自分へのダメージはほとんど無い…!
何とか受け身を成功させながらそれだけを理解し立ち上がろうとした軸足、その左膝の皿部分が踏み壊される!
「ぁぁああああっ!!」
「ぐあっ!」
訅和も片脚の力を失い、介冬の上へと背面から倒れ込み…否!落下スピードに乗せた肘を肋骨にぶつけて追撃した!
「ガごッ!」
「おごっ!」
双方共に逆側へ転がり、立ち上がる。
が、臨戦態勢に戻すまでの時間は、介冬の側に、僅かな遅れがあった。
「それじゃあ、えーと……?今のが第3ラウンド、だっけ…?」
「ハぁーッ…!ハぁーッ…!」
次は、どういう痛みが来る?
次は、どれだけ遅れる?
次は?
その次は?
何度倒れれば、これは終わる?
攻撃も防御も痛いだけ。
その中で、何をどうやれば、苦痛を抜け出せる?
これを何度となく繰り返して、
果たして最後まで、
相手と同じように、
立ち上がる事が出来るのか?
「まあいいや、第4ラウンド、行きますよぅ?」
「う、うわああああ!!」
これから受ける業苦も、
その蓄積の、先の長さも、
全部忘れようと、
彼女は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます