133.もう誰も何も分からん!
『暫定Qキタ、何とかするからそっちヨロー』
『ニークト?ちょっとマズった。こいつ多分Kだわ。場所は——』
『Bポジ?こいつ向こうの通信手段っしょ?誰か——』
「ちぃ!光を見るのは切っ掛け、ただのスイッチかよ!この中だと聴いている物まで当てにならなくなる!」
無線から流れる音声、その真贋の選り分けを諦めたニークトは、燃える木の根を、それが映す敵影を切り分けながら、前も後ろも分からぬままに、それでも先を急いでいる。
「だが連中も、こちらが何処に居るか見えていない。そこに居ない筈の奴らを見せるだけだから、簡単に無視出来る!何処にどんなビジョンを出せばいいのか、それを分かってないぞ!」
接近し、一度そうと認識出来れば、敵を見失う事もないだろう。
それはこの混沌とした戦況の中でも、確かに見えた勝機だった。
「ねえ、いっそノリドをお飾りKに置くのアリじゃね?」
その悪巧みは、六本木のアイディアから始まった。
「あ?どういうこった?」
「時間が無いから冗談なら後にして頂戴?」
「今ジョーダン言うかっつーの。あのさ、向こうの朱雀大路ってのが、幻覚でしっちゃかめっちゃかにして来んなら、あーしらが考えた雑な連携なんて、結局崩れてイミナシっしょ?だったら、あーしらが連動するんじゃなくて、逆にあっちをバラすのを考えた方が、いいんじゃね?」
「……敵味方問わず、戦場から“連携”の概念そのものを、取り払おうと?」
「そ。聞いた感じ、朱雀大路辺りとノリドの能力混ぜれば、行けそうじゃん?」
「だが、それと
「ノリドで見せKして、交換権使って、誰がどれかわけワカメにするんだって。コイツあーしらと組むの初だから、どのポジションと入れ替わってんのか、分かんなくなるっしょ?
『K決めが適当とかヨユーっしょー』って一度ナメさせて、向こうに派手な分断用魔法使わせて、それで効果を増したノリドの魔法が、ノコノコボコりに来たヤツらに炸裂。んで、1対5、6くらいを仕掛けに来たマジクソパーティーが、相手がKかも分かんない状態で、個別に戦わんといけんくなるってコト」
面白いアイディアだ。
だが確度に問題がある。
「奴らが俺達のロール宣言から、それだけの意図を、『急な編成変更で混乱してます』アピールを、都合良く読み取ってくれるかあ?」
「意外過ぎて、逆に何か隠れた意図を勘繰ってくる可能性が高いわね」
「そこは上手い事誘導すればいいっしょ」
「どうやって?これ見よがしなのは逆効果だぞ?」
「は?いや、だってさ」
そこで彼女はさも当然のように、
「あいつら絶対、控室盗み聞きしてくるっしょ」
それを確定事項として提出した。
「……何?」
「ろくぴー…?どゆこと……?」
「いや、あんたらさあ、ここまで盤外から殴って来るキッタナイ大人が、それをやらないと思うワケ?賭けてもいーけど、盗聴はするし、何なら事前にマップをカンニングさせるくらいもやるっしょ?当たり前じゃね?逆にそれは無いって言えるの、何なん?」
顔を見合わせる一同。
言われてみれば、という顔だ。
発覚しないルール破りなら、とことんやって来るだろう。
「遠慮」も「フェアプレー」も、今の彼らの辞書に、載っているとは思えない。
「そのルール違反を逆手に取って、彼らに嘘の情報を流す、ということ?」
「あー、こっそり聞いてるって固定観念があれば、その内容を疑うって事はしないだろうね~。こっちの手の内を見る視線を、誘導に使うってわけだねぃ!」
「そうか…成程……」
ニークトの思考時間は、ほんの一瞬だった。
「よし、その策で行くぞ。どうせオレサマ達も、乗研の立ち位置に困っているのは確かだ。相手が朱雀大路を使って来るにしろ、来ないにしろ、出来るだけ集団戦をしない、させない、その方向性が最も勝利に近い」
「どうやっても、このメンバーで万全以上のパフォーマンスは、無理だからね~。ロール自体が形骸化しちゃえば、ノリっち先輩が誰と入れ替わったか、そのヒントすら消えちゃう事になるし」
「ノリ……?いや、今は良い。分かった。俺は出来るだけ、『Kポジを押し付けられて不愉快』って顔をしておく」
「それなら大丈夫よ?あなたは普段通りで居てくれれば」
「どういう意味だオイ」
「はーい男子ぃー、喧嘩しなーい」
「私は男子ではないわ。二度と間違えないで?」
その後すぐ、教室同士の顔合わせとなり、朱雀大路が出場メンバーに居る事を確認。
試合開始までの間で、罵り合いパフォーマンス——途中で明らかに本物の熱が入っていたが——をしながら、端末を使って動きの細部を詰めた。
結果的に、六本木の読みが、全て当たった事になるが………
「思った以上に、これは……」
トロワだけが堂々と姿を現し、他のメンバーは乗研の能力で隠れて、機を窺っていた。
しかし、敵の魔法が想定を遥かに超えて、速く、広く、強力で、厄介だった為、報連相の一切が、実質無力化している。
自慢の嗅覚すら、これでは頼りに出来ない。
「……いいや………」
五里霧中に恐れるのは、視覚が閉じているからだ。
まだ、その“鼻”に、使い道はある筈。
「クソ……せめてあそこに見えるビルが、本物だと確定出来れば……」
マップを完璧に把握している敵の動きは、逆に地形と意図を露出させる。
先程の、亢宿が撃った魔法弾と、木々の伸ばし方。
それによって、配置予想図は大体絞り込めた。
後は、現在位置さえ分かれば、朱雀大路を狙い撃ちにし、一方的な認識阻害を押し付けられる。
「恐らく、二つの魔法が合わさる事で、効果時間は著しく伸びている筈…!自然と解除されるのは、期待しない方が良い…!」
だからこそ、魔力の供給源自体を絶つしかない。
「どうやって、どうやって正しい認識を拾い上げる……!?」
迷いの森の、更なる深み。
炎と
恐れて呑まれる事だけはせず、
ニークトはその
また一つ強く踏みしめた。
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