132.尋常に……とでも言うと思ったか! part2
午前10時45分。
定刻通りに、試合は開始された。
ロケーションは、無人の都市区画。
ギャンバーで最初に行われるのは、水面下でのロールの探り合いだ。
“ロール”とは戦場での約束事であり、現場でアドリブ的に組み直すと、それだけ足並みが乱れ、展開が遅れる。
更にP、Nは前に、B、Kは後ろに、Q、Rは中間に。しかもそれぞれのスタート位置が、範囲どころか点で決定される為、普通に各ロールの本来の役割を遂行した方が、スムーズに事を運べる。
平地であっても、陣形替えとは、時に混乱を呼ぶ。
ましてやぶっつけ本番でランダム生成される、複雑な地形に各員が配置される条件下。
初めて見る場所、直前まで分からない位置関係の中、「この編成で提出したけど、実際はそれぞれこのロールのつもりで動こう」、というような奇策に走ると、何が起こるか?
何も無くすんなり進める、かもしれない。
が、互いの具体的位置情報の共有だけで手間取り、その間に敵の準備と侵攻が進んでしまうかもしれない。
決して超長距離と言えないエリアの中では、いざ敵陣に攻め入らんとするタイミング、それが一秒早まるという事が、絶大なアドバンテージとなる。
だから、事前申請したロールと、その中の二つを、密かに入れ替えられる“交換権”とは、潜行経験の無い者が思う以上に、重要素となっている。
特に、試合終了条件である
その所在を見誤れば、大きな後退となってしまう。
その観点から言うと
開始直後、Pポジション、六本木が後衛へと下がりながら、その魔法で作られた小物、人形のように見えた何かを、近くに来ていたN、カミザススムに手渡す。
身軽で魔力探知を
その一方で
便利な能力持ちの六本木を、詠訵の能力で守りつつ、狩狼は単独で、短時間の間に目を付けていた狙撃ポイントへ。
無駄がない。
カミザススムの機動力と、六本木の高性能通信能力によって、開始から暫く、最前線を張るRとQの二人を、一切減速させないローテーションが完成されていた。
後衛による地形把握と場所取りも同時並行で行われ、それが通信を通して届けられるので、対称形となっている敵陣の情報までが、前衛にスピード感を持って共有される。
Bポジションが自由過ぎるように見えるのも、他の居場所から逆算して、位置を割り出されるという事が起こりにくく、スナイパー型の狩狼にとっては、逆に利点とさえ言える。
寄せ集められて、たった2ヶ月。
それだけの期間でこれを実現した事には、正直な所、多くの人間が舌を巻いていた。
だが、
走らせても良し、戦わせても良しと、便利な駒だったカミザススムが抜け、
高い防御力と、絶対的な回復・支援能力を持つ詠訵三四が抜け、
補填で入ったのは、防御回復特化の微妙な支援役と、硬さが取り柄のパワーファイター。
準備期間は、長くて数時間、短ければ30分だ。
同程度の完成度を持つシステムを、構築できるわけが無い。
理論だけなら整えられても、実戦でその通りに行く道理が無い。
特に、詠訵と同等以上の
それが、枢衍教室パーティーの読みだった。
それを裏付けるべく、彼らは念を押していた。
生成される地形・配置情報を、事前に取得。
更に敵パーティーの控室を盗聴し、彼らの焦りと苦し紛れを手中に収めた。
学園内の、教師陣も含めた一勢力を味方に付けた彼らにとって、その程度の“予習”は造作もない事。
勝たなければならない戦いに勝つ、それだけの話。
しかしロールの宣言時、彼らは思い切った手を打ってきた。
「Kポジション:乗研竜二」。
交換されるのが見え見えの揺さぶりだが、しかし衝撃度は高かった。
堂々たる姿勢で現れ、何食わぬ顔で仕掛けて来るほど、冷静さを取り戻したのか?
その懸念から、息を呑んで傾聴する、枢衍教室、内5人だったが、
裏に引っ込んだ後の、特指クラスの会話は、何とも残念な、聞き苦しい物だった。
罵り合いや見下し合いが横行し、鶴の一声を上げる立場の人間も決まっていない。
乗研がKポジションに居るのは、場当たり的判断からだった。
パーティーの中で唯一、メンバーとの連携訓練をしておらず、最も使いづらく、故に一番後ろ、守られているだけの位置に置く。
彼が防御面で優れている事も、その判断に拍車を掛ける。
中々決まらない編成を、少しでも固める為に、「まずお前はここ」、と暫定。
時間が無く、結果的にそのままで申請する事になり、お飾りの
だが、Kが指揮できないとなると、全体を動かす役割が不在となり、パーティーとしての機能不全を起こす。
ロール宣言の後、試合開始までの30分は、ただただ話し合いが空転していた。
結局彼らは、ロールの交換も出来なかった。
提出する為の即席の割り振り、そこに不満があったにも関わらず、直すべき箇所が多過ぎて、一回の交換ではどうしようもなかったのだ。
パーティー内での交換権の取り合い。その状態では、決着が付かず、時間は無慈悲に猶予の超過を告げる。
彼らはガタガタだ。
パーティーの体を為していない。
来賓への対応に多忙な者達や、馬鹿正直な星宿など、一部の人物を除いて作られた、パンチャ・シャン包囲網。それは確実に、彼らから呼吸の余地を奪い、元チャンピオンの息の根に、その手を届かせていた。
そうと分かれば、強力な個による戦局破壊だけを警戒し、一定の距離感での全員行動を選択するだけだ。
誰かが必ず別の誰かにカバーされている態勢を整え、敵陣からこちら側に突出してしまった一人、二人を囲んで叩く。序盤から終着まで、人数有利を作り続ける試合運び。それを簡単に、可能にしてくれる状況だった。
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