119.予想できた誤算 part3
「く~!ニークト様!やっぱりカッコイイッス!そのまま全部、一人でやっちゃうッス!」
「………」
調子に乗ったその発言に、「いやいや」と半笑いでツッコめない、その理由が訅和には有った。
彼女は以前、その気性からパーティーを組めない彼を、「惜しい」と思っていた。
その「もしも」が実現した、結果がこれだ。
今回の彼の立ち回りには、そのキャラクターからは予想し難い、
本来もっと速く動けるのに、二本足で悠長に駆けて見せ、これ見よがしの間抜けな絵面を演出した。敵が近くなる前から、簡易詠唱をしていたのも、彼がニークトであると、分かり易くする為だろう。
つまり彼は、自分が甘く見積もられている事を理解して、利用したのだ。
案の定、敵は実力差を見誤り、戦力を半端に分散させてしまった。
もし訅和が相手方の
散開したと見せかけて、すぐにまた固まり、相手がこちらの動きに気付き、再集合するまでに、6人全員で一人ずつリンチしていくのだ。
無茶で高難度の作戦だが、しかしそれに賭けるしかない程に、絶望的な差があった。
まあそれをやっても、六本木の魔法が、ネックになってしまうのだが。
「だいたい」、と彼女は呆れる。
どうしてあの、ニークト=悟迅・ルカイオス相手に、高々煙幕とランク4~5の3人程度で、勝てると思ってしまったのか。
彼の二つ名は“格下狩り”であり、それを聞けば、明胤生なら嘲笑する。
だがその実態までしっかり掘り下げた人間は、その中の何割だろう。
その二つ名は、負け惜しみも含まれている、という事を分かっている者は。
日魅在進との一件が無くとも、ニークトと詠訵三四は、以前から知り合いだった。
同じ部活で年齢も近く、誰にでも絡む彼の暴言に、舌を出しながらサラリと刺し返す彼女。そんな二人の、険悪だがお約束な関係性を見て、色々と心配になった訅和は、彼を監視していた時期があった。
その訅和ですら、あの模擬戦には愕然とした。
あの丸型貴族は、ランク5の生徒フルメンバーと、一人で戦う事を条件に指定された決闘で、見事勝利してしまったのだ。
あの時は、彼と戦った6人が弱体者であり、更に本調子でなく、「またも格下狩りだったのだ」、という事にされたが、そんな風聞は、正常性バイアス、又は認知的不協和でしかない。「学園に入って間もない奴が、私達を凌駕するわけがない」、といった。
彼はあの時、徹底的に連携させない事を意識して、戦局を始終支配していた。
その立ち回りを見て訅和は、彼がその見た目や言葉に出す程、大雑把でも、他人を軽く見ているわけでもない事を知った。
スラッシャー映画の殺人鬼が、頭脳プレーを見せた時のような、嫌な汗が出たのを覚えている。
「短絡思考だったから許されてたスペックの持ち主が、狡猾さまで得ちゃったら、こっちはどうしようもないだろー!?」、みたいな。
彼が彼女の親友と、どういう関わり方をするのか、杞憂にも近い訅和の怖れを他所に、彼らの関係は特に変化を見せず、
そこに、全くノーマークの外部から、強烈な彗星が着弾した。
ニークトに、勝った少年が。
「そうだ、そろそろあっちがどうなってるか、見てみようよ~」
「え~?ずっとニークト様見てちゃダメッスかあ~?」
口を尖らせる八守に構わず、所有者権限で端末を操作して、
——ああ、そーゆーコトねぃ。
さっきから、周囲が流石に騒がし過ぎる、その理由を知った。
「毎回やってくれるねぃ、カミっち」
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