103.どうにかなるらしいから、どうにかしてやる part1

 ベルトを外して、タスキのように佑人君の肩に掛ける。

 ホリブルのZ型のコアをセット。

 よし、ちゃんと起動してるな。


「佑人君、ごめんね?少しここで、お留守番していられる?」

「……おにいちゃんも、いっちゃうの?」


 俺が一人で逃げるのではないかと、不安がっている。

 一度置き去られたから、そう思ってしまうのも無理はない。


「置いて行かない。ただ、外でやる事があって、それが終わるまで待ってて欲しいんだ」

 頭を撫でて、出来るだけ落ち着かせる。

 佑人君は、それでも震えているものの、首を縦に振ってくれた。

「お兄さんのバッグを持って、頭を守りながら、角っこで小さくなってて?静かにね?」

「…うん」

「お兄さんは外に居るけど、もし中にお兄さん以外の何かが入って来たら、大声で知らせてくれる?すぐに助けに行くから」

「……うん、わかった」

「良い子だね。よし、じゃ、行ってくるね」


 最後にポンポンと頭を軽く押して、勇気づける。

 それから立ち上がり、外に出て、扉手を掛け、

「おにいちゃん!」

「うん?どうしたの?」



「はやく、かえってきてね」

「…うん、もちろん」


 そう言って、閉じる。

 


「さ、あ、て、」


 振り向いた先、200mくらいの所に、先頭集団。

 

「ま、普通のモンスターだって考えたら、軽いもんだな」


 本心とは裏腹の言葉を、わざわざ口に出して、気合を叩き直す。


 ここから先に通してはいけない。

 上から下まで、一匹たりとも。


 右腕の筋肉、骨、血流に、魔力の補助を入れる。

 握って、開いて、また握って。

「万全じゃないし、なんかズキズキ言うけど、動かせはするな。ナイフも握れる」

 ポーチの中には、モンスターコアが幾つか入っている。

 最悪それを使えば、威力の底上げにはなるだろう。


「あ、一応言っときますけど」


 カメラの向こうの視聴者に、

 その中の一人として見ているであろう、推定イリーガルに、



「万事問題ナシ。現場からは以上です」


 言ってやる。

 どんなに頑張っても、カンナの神通力じんつうりきは、見れないぞ?

ざまあミソ。



 さて、ふざけた戦局への怒りを、遠回しにぶつけてやったところで、


 ガラガラバリバリ鳴り響かせながら、

 軍団が今、100mラインを越え、

 通路が狭くなる地点に差し掛かり、

 

 レールと、そしてV型の上から、M型共が発砲してきた。


 片膝立ちとなって流動防御!

 正面から、被弾面積を少なくしてだと、効果はより覿面。

 跳弾したことで、運良く守りを突破できた数発が、ガードを構える俺の腕を叩くも、その時には既にヘナチョコダメージ。小学生が全力で投げた方が、まだ痛そうだ。

 弾道が曲がった分は、背後の扉にバカバカ当たるが、表面が少し削れるだけだ。

 分厚くて助かる。

 そのまま佑人君を守ってくれ。

 

 埒が明かないと分かったか、ジリジリと距離を詰める銃列。

 上からF型も大量に来た。

 俺は自分の目の前で止まったボルトを魔力で抓み、その周りに筒状の魔力塊を作り、底の部分を破裂させる。

 ボルト射出!なのだが、途中で見失った、今のどっちに飛んだんだ?

 仕方ない、数撃って当てよう。

 まだ形を崩していない部品類を拾い上げ、次々と撃ち出す!

 やっぱり真っ直ぐ飛んではくれないが、何発か当たったようで、F型やM型がよろめくのが見えた。

 だけど威力が足りない。倒れてくれる気配がない。

 もっと何か………


「急募!ここから十分な威力の遠距離攻撃を出す方法!」


 ススナー!何かないかー!?

 俺がお題を投げかけると、コメント欄が飛ぶ鳥を落とす勢いで加速、止まらなくなってしまった。

 ああもうマトモに読めねえ!

 流石に15万近く見てるとこうなるか…15万!?いつからそんな事に!?

 以下、動体視力強化を用いてのピックアップ。

 

『問題だらけじゃねえか!』


『敵の攻撃の勢いそのままに反転とか無理?』


『勢いを殺さずって言うと、こう、ぐるっと曲がるトンネルとかレールとか作って・・・』


『無茶振りが過ぎる』


 列が迫ってくる。

 あと50mも無い。

 F型は更に近い。

 上から背後に回ろうとしたり、扉を開けて中に入ろうとしたりされたら、俺は奴らを破壊しなくてはならない。

 しかし、ここから動くには、流動防御を解除する必要がある。

 勿論さっきみたいに手足の外側に魔力流動を作る事は出来るが、完璧じゃないのは実証済み。

 ダメージの蓄積は免れず、ジリ貧。

 そこでV型までもが到達しようものなら、曳き潰されるか、常に防御を解いて戦うかの二択。

 そうなる前に、足取りを鈍らせるだけでもいいから、牽制打を撃ちたい。

 近付けばられる、そう思わせる一手を考えなければ。


『たぶんボルトを真っ直ぐ飛ばすのは諦めた方が良い』


『じゃあ何を撃てって言うんだよ』


『ナットを縦にして撃ち出せばマシかな?』


『全然尖ってないから威力が微妙になる』


『挟むような形の砲台を作れば精度は確保できる。精度は』


『魔力爆発程度の威力じゃなあ・・・』



「挟むように…それだ!」


 ナットがぴったり填まるような、縦長の銃口を生成。この時、ある程度の長さごとに、パーツを分けておく。

 底を起爆、ナットが最初のパーツを通過するかしないかあたりで、その部分も破裂させ、それを繰り返して段階的に加速させる!

 

「行け!使い捨てレールガン的な何か!」


 ドン、ド、ドドドドドドド!


 目論見成功!

 ほとんど直進した弾丸はF型一体の胴を陥没させる!


「よし次ぃ!」


 加速弾発射!

 別のF型のプロペラが吹っ飛んで落ちたそいつが弾幕でメタボコにされる!

 次の一発!

 M型の胴部をぶち抜き遂にやり返してやる事に成功!

 次もM型へ!

 砲塔が壊れただけだ、L型が上から掴み、奥に持って行きながら修繕している。

 このダンジョンのL型は、修復が遅めな事で有名だ。だから今は、ああやって戦線離脱させるだけでも良い。

 更にF型を落とす!

 次はM型を壊す!

 M型をもう一体!

 次のM型は中破!L型が回収!

 M型もう一丁!

 どんどんM型!

 忘れた頃にF型!


 V型が進行を止め、F型による、M型の補充を待つ。

 奴らは後列にG型を積載しているから、俺の近くで放出する予定だろう。

 だけど、弾幕が薄過ぎると、俺が自由になる余地が増え、間合いに入り次第、G型もV型も破壊される事になる。

 M型が撃ち続けていないと、接近がリスクになってしまうのだ。

 安定と確実を求めるようになっているのか、M型の弾幕が整うまで待とうとしている。

 それは、俺にとってはチャンスだ。

 

 精度が若干下がる事を承知で、魔力レールガンの生産を速める。

 奴らの戦力の増強スピードと、俺のレールガンによる撃破スピード、

 どっちが上か——


「ん?あれ?」


 おかしい。

 ナットが無い。

 撃たれてくるのが、全部ネジとかボルトとか、そういう系統になった。

 銃口を密閉し均一なバランスを持つような、弾丸にうってつけなパーツが無い!


「おまっ!?何撃つとか決めれんのかよ!?」


 思ったより臨機応変できる奴らだ!

 試しに丸い銃口で、ボルトを一発、レールガン方式で撃ち出してみるが、ダメだ、狙った方に飛ばないし、威力も明らかに見劣りしてる!

 ってかさあ!逆にさあ!

 なんでお前らが撃つと、ボルトってそんなに真っ直ぐ飛ぶんだよ!

 なんか回転が掛かって、壁に刺さったりしてるけど、どうやってんだよ!?

 そういう魔法だって?そーですね!!

 

 有効な反撃が出来なくなった俺を尻目に、V型の上にM型の列が再構築されてしまう。

 前進速度も戻った。

「ぐ、こ、れは………」

 防戦一方。

 距離による威力減衰がより軽くなったことで、弾丸一発一発の威力が上がり跳弾も強くなる。

 更に自動機械であり、恐怖が無いかのように連携するギア達は、俺の防御が前方に集中し始めたからか、同士撃ちフレンドリーファイアの危険に構わず、プロペラ部で頭から切断してやろうとF型をけしかけて、


 それを俺のケーブルが捕らえた。


「良かった。お前が先に来てくれて」


 脱しようとしたF型は、プロペラの回転数を跳ね上げ、

 俺は前進しながら魔力操作と魔力炸裂を使って、フレイルめいてぶん回す!

 薙ぎ払う!正面のM型5、6体を一掃!

 右のレールに乗るM型に飛び掛かりながら反対のレールに上から下へとF型を叩きつける!

 一体を持ち上げて盾にして飛び道具を遮りつつ扉に近付いていたF型を同族を使ってはたき落としてやる!

 

 ケーブルの先のF型の形が崩れて来た。

 限界が近い、

 ので止まりつつあったプロペラの縁に魔力回転刃を生成し第三列辺りに整列していたG型共を裂き散らす!

 何も載ってないV型は底面からジョッキのような物を伸ばして高さを確保し、俺を壁とに向かってプレスしようとしてくるが、そんなトロい攻撃では当たるわけがない!前に跳んで回避!攻撃に使っていたF型がバラバラになった!

 俺は次のF型を——電流ケーブルが4本!横っ飛びにかわす!

 

 C型だ。

 2体居る。

 そしてレールに乗って、M型のおかわりが10体以上。

 F型はM型を近くに輸送するだけで、攻撃に加わらなくなった。


 武器を一つずつ、没収されている気分だ。


 そしてM型が、俺の横を通る。

 佑人君の方へ行くのかと追おうとして、そうではないと一目で気付く。

 全機が俺に口を向けながら、V型の上に移ったからだ。

 更にV型の背中のレールの内、俺に一番近い列が、下部パーツごと持ち上がり、倒され、壁になる。

 G型を乗せるのを諦め、代わりに防御を厚くしたか。

 一々判断が的確である。嫌がらせに余念が無い、無駄に良く出来た思考回路だ。


 俺の流動防御は、どこか一方向に魔力の流れを逃がすやり方だ。そしてそこには構造的に、どうしても突破されやすい、穴とでも言うべき箇所が生まれてしまう。例えば前から後ろへの流れを作っても、真後ろからなら容易に通されてしまうのだ。

 更に言えば、全身を守る型の流動防御は、俺の攻撃も阻害するから、飽くまで堅守の姿勢としてしか使えない。

 

 こういう、360°囲まれた上で、とにかくその場に留まって戦わなくてはいけない、というシチュエーションには、不向きと言わざるを得ない。

 ならばここからは、魔力噴射を併用する簡易防御と、押し上げた肉体強度だけで、やるしかない。

 

 無傷ではいられない、ってこと。


「削り合うか?」


 C型がボディを高々と持ち上げ、天井のレールを掴み、アームを降らせる態勢を整える。

 あー、そうなるのね?それなら味方に撃たれづらいね?


「削り合うんだな?」


 M型の配備が終わる。

 双方共に、最後の一呼吸の為の、一瞬間の空白。

 

「削り切ってやる!俺がな!」

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