102.“護る”戦いは未経験なんですぅ! part2

 正面からの一本。

 奴はまた、両者無傷で濁されると、そう思っている。手数が足りないから、一本一本に掛けられる時間が短く、だからそれくらいしか出来ないものだと。それすら出来なくなった時を狙って、一歩ずつ詰めていけばいいのだと。

 そうだな。

 俺が身を守るだけの戦いなら、そうなる。

 だけど、お前は今、


 自分が破壊される可能性を、全く考えられていない。


 側面からアーム部分を鷲掴む!握り砕く!ぐしゃりと曲がってそこから先が動かなくなる!

 その左を通ろうとしたアームを肘で打ち払い、右手は強度を更に上げて負傷前提で横からドリルにぶつけ弾く!

 どうせそっちの腕は、もう鈍器としてしか使えない。だったらこれでいい!

 

 左手が剣、右手が盾だ!


 右のグローブの甲部分が砕ける音も感触も骨で感じながら、捕らえられた腕の陰から撃たれた一発を左肘を付き出して左下に打ち逸らし、腕を曲げる動作によって掴んだ一本を更に引き寄せる!


                              本体が、

                         近くなる。

      腕を伸ばし、

        更に根本の近くを掴み、

   また引き摺り込む!


 足が届かない上半身側に、右腕と左肘で打ち落とし切れない程の飽和攻撃が来る!

 一度俺に左手を放して欲しいから、経戦を捨てて瞬間火力に振ったのか。

 うん、妥当な判断。

 俺がこの腕を、掴んでさえいなければ。


 捻り上げながら再びアームを手繰り寄せる!

 C型の縦軸が曲がることで全ての攻撃の軌道が変わり、ほとんどが俺の頭上を空振り、一発がヘッドセットの端を削る!

 

 お前の動作の決定権は、今は俺と共同所有だ。

 お前だけの都合で、自由に動けると思ったら、大間違い。


 アームが掴まれている事が致命的なディスアドバンテージに繋がると、ようやく気付けたC型が、それを引き戻そうとする「すぅぅぅううう…」動きに合わせてこっちも引っ張ってやり「ふううぅぅぅ…」更にもう一度、奴が攻勢に転じようとするのも構わず引っ張ってやる。

 左の前脚が何度か床を叩く。「おっとっとっと」、という声が聞こえそうな間抜けさ。同時に放出していたアーム攻撃は、当然の如く大部分が狙いを外している。


 「すぅぅぅううう…」引く「ふううぅぅぅ…」腕を伸ばして掴み「すぅぅぅううう…」引く「ふううぅぅぅ…」また放すと見せかけて脇で挟んで押さえてやる。


 C型が攻撃し、俺が弾き切り、それに対して追撃し、それを制する為に引き、引かれたから立て直そうとして、その隙に更に距離が縮まる。


 段々と、テンポが、変わって行く。

 「奴が動き、俺が返す」、

 から、

 「俺が引き、奴が対す」、

 へと。


 今や、この綱引きの主導権は、

 行動決定の8割強が、

 俺に握られている、

 そういう展開だった。

 

 下段攻撃が数発。払う為に足を出せば、踏ん張りが利かないその瞬間に腕を引くつもりだろう。俺は乗ってやる。足を浮かせ、魔力ジェットのタイミングを合わせて相手の後退に抗い、下側を襲う腕を全て踏み抜いて破壊し、最後の一歩をより遠くに入れ、より深い部分を掴んで更に引っ張り込む!


 至近に迫った小さな敵を、なんとか削り殺してやろうと、腕を何度も突き出すC型。

 右腕で弾き、肘で逸らし、時には足も使い、相手の姿勢も決めてやって、全てを無効化。


 もう遅い。

 もう遅いんだよ、カプリコーン

 

 お前、今、


 俺の射程圏内だ。

 

 いなされた一発を戻しながら次の攻撃に移ろうとしていたそいつの腕を、まず捻じり上げ、反対にひねるようにして引き下ろす!

 そのボディで床を鳴らすC型!

 目の前には俺、腕はまだ俺の手の中。

 奴は脚がその身を起こすまで、防御に回ってやり過ごそうとして、その身を閉じた。

 

 攻守交替。


 今はお前が、100%守りに入る番だ。


 更に引き寄せ、丸みを帯びた胴を蹴り踏む、踏みつける、踏み砕く!何度も何度も何度でも!

 脚が自分を持ち上げようとして、その度に俺に上から踏まれ、装甲を歪ませながら地に落ちるのを繰り返し、

 

 恐らくそこでようやくと、そいつは失策に気が付いた。

 

 立てない。

 もう、二度と、

 立たせてなど、やるものか。


 それを許すような優しさを、情けを俺に期待してるなら、甘いと言わざるを得ないだろう。

 

 ぐちゃぐちゃになった装甲の隙間に、魔力を使ってナイフを突き立て、即座に踏み刺す!

 入った。

 中枢部の場所は特定済み。

 切った。

 C型は脚をバタつかせるのもやめ、ようやく安全に「おい」


 って、安心したと思ってるんだろうけど。


「見えてんだよ、ボケナス」


 俺を通り越して佑人君を狙いに行ったF型に、ダンジョンケーブルが巻き付いた。

 

 お前らモンスターに、戦闘員と非戦闘員の区別が無い事を承知の上で、敢えて言うが、


「それはやっちゃ駄目だろうが」


 巻き取り機構!

 と、同時に俺自身も腰を回しながらケーブルを引き、

 上段後ろ回し蹴り!

 F型粉砕!


 そこで、ようやく静かになった。

 魔力を飛ばして確認するも、近くに敵の気配は無い。


「佑人君、怪我は!?」

「だ、だいじょうぶだよ!」

「ふううぅぅぅ………」


 俺以外の命まで含めて助かったとなると、安堵も一入ひとしおだ。

 こういう時ばっかり異常行動を起こしやがる。

 ふざけやがって。


「一旦、閉めようか。仲間ももう少しで…」

 

 扉に近付いた俺は、ついでに外の様子も確認し、

 遠目に、何か動いている。

 この階層では、モンスター以外の機械類は、全て止まっている。

 だったらあれは、モンスターか、く~ちゃん達か、どっちかだ。

 

 俺は眼球付近に魔力を回し、遠くが見えるように調整して、


「な……!?」


 臓器が浮くような、危機感と恐怖に見舞われた。


 モンスターだ。

 それも、この階層の至る所からやって来るような、大軍勢。

 警報が鳴らされて、集合しているのか?

 いいや、C型がここに入って来た時、奴は俺が居るって、しっかり分かってた。

 

 つまり、あいつら全部が——


(カンナ、これって…)

(((どうやら、私の物差しを、測ろうとする何者かが、居るようですね?)))

(ものさし?)

(((私がどの時点で、ススムくんに詠唱を許可するのか。姿すら見せず、おっかなびっくり、探っています)))

 

 やっぱり“火鬼ローズ”には仲間が居て、そこに彼の死が伝わった、そう判断するべきなのだろう。

 カンナ対策を立てる為に、情報を得ようと画策しているのだ。


 「礼儀のなってない方々です」、カンナはそう言うが、

 あの、

 態度に切迫感が無いって事は、

 もしかして、


(((はい。ススムくんだけで、切り抜けてください)))

 

 ええぇぇぇ……。

 

 どっかで見てるだろう、クソイリーガルに告ぐ!


 ぶっちゃけ俺も、カンナの基準なんて分かんないから、気にしない方が良いと思うよ?

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