101.今来んなよ!空気読めよ!
ラポルトを通って、6層へ。
よし、室内にモンスターはいないな。扉もぶち破られてない。
佑人君も入って来る。当面の安全が確保できた。
階層の継ぎ目が部屋になってるタイプのダンジョンは、こうやって人心地付きやすいから、ありがたく感じる。
後続組は今、5層の途中らしい。
いつもはマナー違反な「伝書鳩」達も、こういう時には役に立つ。
「佑人君、ここでしばらく、お兄さんの仲間を待つね?その間、シーッ、って出来るかな?」
「うん…!頑張る…!」
やる気充分ながら、声量は抑えめの返事が返ってくる。
素直で聞き分けの良い子だ。親御さん方の教育が、しっかり行き届いているのを感じる。
俺は扉に張り付き、向こう側の様子を探る。敵が近づけば、すぐにでも分かるように。
く~ちゃん達は、帰りの事も考えて、モンスターの撃破にも重きを置きながら、こっちに向かっている。距離自体も結構離れているし、合流まであと10~20分は掛かるだろうか?それまでこの扉を守れさえすれば、防御を得意としたランク7が、二人も戦力に加わる。
特にく~ちゃんは、負傷者や後衛のフォローをしながらの集団戦も、数多く潜り抜けてきた、言わば今一番欲しい人材だ。彼女が来れば、俺とニークト先輩が前衛として動けるし、かなりやり易くなる。
佑人君、今は耐えてくれ。もう少しの辛抱だ。
生還の未来がすぐそこまで——
ん?なんか居るな。
これは…C型かな?
息を殺す。
立ち去ってくれと祈りながら、佑人君に向かって「静かに」のジェスチャーを送ると、両手で口を塞いでいた。
だんだん稼働音まで聞こえて来る。さっきより近付いているんだ。
おーい、こっちはラポルトだぞー?何も無いぞー?
徘徊エリアには入ってないだろ?
引き返せー?とっととどっか行けー?
だが願い空しく、C型は前進を止めない。
俺達が隠れる部屋まで、レールを辿って近付いてくる。
俺から出て行って、外で叩けば、佑人君を巻き込まずに済むか?
しかしさっきみたいに、C型に集中し過ぎて、F型あたりに素通りされる、という危険がある。出来れば佑人君からは、常に目を離さないようにしたい。
頭を冷やして、よく考えろ。V型が居ない時にこの部屋に入るには、一度その走路の上から降りないといけない。ローカルの恩恵を手放して、である。俺達を発見してるわけでもないのに、モンスターが、そんな事するか?
やるにしてもV型が来てからだし、この部屋に入る為にわざわざ呼ぶとも、考えにくい。
軌道が続く所までは、来るかもしれない。だけど、そこから先、この中まで来る、という話はまた別だ。仮定にも考慮にも値しない、と言うべきか?まあ、自信を持って、無いと言っていい。
良いんだ。
言え。
考え過ぎたって言え。
いつもいつも、ちょっと悪い方に転がりがちだからって、
あまりに悲観的過ぎたって、
相手の特性を無視した憶測をしてしまったって、
そう言え。
C型らしき気配は、急ぐでもなく、二の足を踏むでもなく、
床にその脚を下ろし、
様子を見るでもなく、
直で向かって来た。
(ハァー!いつも通りだな!外れて欲しい予測ばっかり当たるのはなんでだ!)
(((悪い予感ばかり的中する場合、「
(知らんわ!)
俺は佑人君を部屋の隅に移動させ、それを背にして立つ。
最後まで、一縷の望みに拝み倒しながら。
が、結局は想像通りになった。
ドリルアームを扉の間に突き入れ、押し開けるC型。
部屋の中をぐるりと一覧するでもなく、俺達が居る方へ流れるように方向修正をしたそいつを見て、確信を深めてしまう。
こいつ、俺達がここに居るって、知ってやがった…!
——————————————————————————————————————
「………?」
「うん?何してるのかって?」
サマーベッドの上で横になり、テーブル上のタブレットを見る水着姿の女の問いに、コクコクと頷いて答える者。
カンカン照りの下、ビルの屋上というロケーションにそぐわない、厚手で
鳥の嘴のような物が付いた、白いマスクを被っている。
「威力偵察。分かる?」
「………」
今度は首を横に振る。
「つまりね、龍の逆鱗をまさぐってる」
まだピンと来ていないのか、鳥のマスクが横に斜める。
「そうだね……、例えば、1から9までの自然数を、ランダムに何百桁も並べたとしよっか。数字一個につき、シンキングタイムは一秒です。どう?」
「………」
自分の両手を見下ろし、指を一体ずつ折っていく鳥マスク。
頭の中で、ひたすら数字を並べている事だろう。
「面白い事にね?どんな人でも、そこにはその人なりの、パターンが生まれるんだ。湧き上がる思いつきそのままに行動していても、本物のランダム性なんて無くて、どこかで自分のペースを、リピートしてるだけなんだよ」
その例に
「“
目撃される恐れは、奴のダンジョンが閉じられた時点で、ほとんどゼロ。ただ少年を助けたいだけなら、悩む間もなくそうしている。
ローズを調子に乗らせるという、戯れだった線も捨てきれないが、
「何か、判断基準が、線引きが、あった可能性が高いんだよ。“彼女”の中で、生かすか見捨てるかの二択があって、ローズの奴はうっかり、地雷を踏んだ。或いは、ルールを踏み越えた」
それが、「龍の逆鱗」。
少年に貸した力だけで戦わせるケースと、本人直々に出張って来るケース。
そこには、“彼女”なりの、境界線がある筈。
「わたしらが、“彼女”と交渉するにしろ、抹殺するにしろ、それを知る事は、絶対に重要なんだ」
特に、戦闘となる場合、“彼女”そのものとやり合えば、形勢は明らかに不利になる。“あいつら”が吸収に成功してしまえば、勝ち目は一厘も残らない。
「でも、“彼女”が生に執着しているか、実はそこから微妙なんだ。だから、彼女のルールに則った上で、
抵触すれば、滅ぼされる。
だが、それさえ避ければ、付き合い方も確立できる。
「だからこれは、そうだね、耐久実験、とも言うのかな?あ、チキンレースかも」
手勢を使い、少年に干渉し、
何処までが、許されるのか?
取扱説明書を、一から手探りで作るのだ。
「これでローマン君が、あっさりぽっくり逝ってくれるなら、それが一番楽ちん。情報を得れて、交渉が成功するなら最高。そうじゃなくても、攻略のヒントは手に入れたい。ま、どう転んでも、ヤリ得だよ」
「………?」
鳥マスクには、話を総合しても、分からない事がある。
攻撃してしまったら、戦争を吹っ掛けるのと同じ。
「交渉」なんて、成り立たないのでは?
このまま“あいつら”と、敵対させて放っておけば、全員殺してくれるのでは?
「チッチッチ」立てた人差し指を左右に振る。「“彼女”に対する認識が甘いよ」得意げに、けれど何処かで投げやりに、
「“彼女”がわたしらとあいつらを、区別してくれるなんて、思わない方が良いよ?イリーガルは、軒並みどうでもいいか、纏めて駆逐対象になったか、どっちかなんだ」
「だから、あいつらに先んじて、交渉するのが大事なんだ」、
その説明で、やっと完全理解する。
だから、ここで少年があっさり死ぬのが、一番「楽」なパターンなのだ。
放っておけば、敵味方諸共、虚無の先へと落とされるから。
彼女は死にたくなかったし、
自分を家族に迎えてくれた、彼らに対しての恩もあった。
だから、彼女は願った。
矢張り声にはほとんど出さず、しかし傍らの美女の眼からも、はっきり見える殺意と共に、
——死ね、カミザススム。
画面の向こうへ、
一心に念じた。
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