88.何があったのか説明致します

 ちょっと時系列が前後するが、これは俺の学園復帰二日目、その放課後の話である。


「みなさんいらっしゃいませー、お久しぶりです。日魅在進です!」

 


『きたあああああああああ』

『うおおおおおお!!』

『woooooooooooo』

『🤗🤗🤗🤗🤗🤗🤗🤗🤗🤗🤗🤗🤗🤗』

『いらっしゃいませええええええええ!』

『ほんとにいきてたあああああああ!』

『キター!』

『ストーカーシね』

『letsgoooooo!!!』

『おめでとうございます!』

『く~ちゃんを助けてくれてありがとおおおお!』

『とうとう登録してしまったぞ、ススム』

『hi!!gigachad!!』

『初見です!最高でした!』

『待ってたぜえ!』

『cheeeersssssss!!』

『U R GREAT, SUSUMU』

『お前じゃなくても助けれたぞタイミング良かっただけ勘違いすんな😅』

『👏👏👏👏👏👏👏👏👏👏👏👏👏👏』

『王 の 帰 還』

『ayyyyyyyyy!!!Ninja!!!!!』

『hiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii』

『初見です!ローマンの身の上でも諦めない姿勢に感動しました!』

『いらっしゃいませ!』

『初見です』

『greeting!!』

『いらっしゃいませ』

『ご生還おめでとうございます!』

『チャンネル登録者200万人突破おめでとう!』

『調子乗んなよザコ』

『惚れたぞススム』

『元気ー?』



 同時接続者数が、跳ねている。

 ただでさえ5万人くらいが、今か今かと待機していたが、配信開始と同時に倍近くに増え、そろそろ15万人が見えて来た。


 今回の事件は、界隈の外にまで広がっている。

 最弱が2度もイリーガルと出遭い、生き残った。

 しかも、二度目は勝った。

 人気配信者の命を、救う形で。

 刺激的な話題だし、なんなら真面目な学会とかでさえ、取り上げているらしい。

 加えて、く~ちゃんの高性能カメラで撮影された、燃えながら戦う俺達の図。これがもう、見た目の“映え”が申し分無さ過ぎた。


 あの配信の最大同接はおよそ110万人と、有名人の緊急記者会見レベル。投げ銭も多く、1500万は余裕で超えていたらしい。くれぷすきゅ~るチャンネルにあるアーカイブは既に1000万再生を突破し、まだまだ伸びるように見えた。

 今でも連日、どっかのTVチャンネルで映像が流れていて、切り抜きや意見発信の動画が、TooTubeに限らずあちこちで量産されている。

 学園側からの公式発表は済んだにも関わらず、報道陣は敷地ギリギリまで詰めかけ、教室でも声さえ掛けられないものの、質量を錯覚する程の注目を浴びた。


 娯楽としての衝撃、学問としての新展開、そして、人類にとっての珍事。あらゆる側面で、世間を、いやもう世界を騒がせている。

 

 

 だから、事件後初めて、俺が配信するということで、こうして幅広い層が詰めかけるのも、当然なわけで。


 気にしなーい気にしなーい。

 人数のリアルなスケール感を想像するなー?何も話せなくなるぞー?


 ………ほんと、2年前からは考えられない規模になってしまった。

 何割がアンチなのかだけでも教えて欲しい。気が休まらん。


「この度は誠に、ご迷惑とご心配をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした。本来SNS上での生存報告も、この配信も、もっと早い段階で行えれば良かったのですが、諸般の事情があり、このように遅れに遅れてしまった事、重ねて申し訳ありません」


 えーと、あと謝っておくべきは、あれとこれと………



『ええんやで』

『謝る点あるか?』

『ススム、かっこよかったぞ』

『生きてりゃセーフよ』

『偉業を成し遂げた男がまず謝らなきゃいけないの、この国おかしいよ』

『ありがとう!本当にありがとう!』

『遅れたのは国からの事情聴取とかのせいか、ならしゃーなし』

『く~ちゃんと比べて抑留期間が長かったのはなんで?』

『一生推すぞ、ススム』

『シねば良かったのに』

『ローマンがイリーガル倒して謝ってるとかいう意味分からんシチュエーション』

『逆にありがとうございます!あなたは推しの命の恩人です!』

『何で色コメが投げれねえんだこの配信!おかしいだろ!!!!!』

『粘着ストーカー行為を謝罪しろ😡』

『お前ならく~ちゃんを任せられる』

『何らかの形でお礼をさせてほしいまである』

『追っかけタイミングろーさんwwwwwww🥵 🥵 🥵 🥵』

『まさか自分が生きてる間に、イリーガル討伐映像を生で拝めるとは思ってなかった』



 く~ちゃんのリスナーさんからの、感謝メッセージもチラホラ見える。

 「彼女の命を救ってくれてありがとう」、そう喜んでくれている。


 だが俺には、それを受け取る資格が無い。

 く~ちゃんが狙われたのは、まず俺が原因なのだから。

 しかも俺は、結果的に人類にとってもプラスだったとは言え、私利私欲でカンナを匿う決断もしている。

 更にあろうことか、その背信行為の片棒を、く~ちゃんに担がせたのだ。

 

 そして、カンナについて語れないから、彼らにそれを謝る事もできない。

 ニークト先輩との決闘と言い、俺は自分の利益の為に、隠さなきゃいけない情報が多過ぎて、相手と正直に向き合えなくなっている。我ながら最低だが、じゃあ方針を変えるかと問われれば、首を横に振るしかない。


 カンナを手放す勇気が持てない俺は、親離れできない幼児みたいなもので、つまりどこまで行っても、自己中なガキのまま。


 真相を知られたら、世界の敵、になるのかもしれないなあ…。



 あと英語等外国語コメントに関しては、単純に短時間で判読不能なんで、脳が勝手に弾いてしまうのだった。それもシンプルに申し訳ない。



「——と、そういった経緯もあり、件の配信の収益は、TooTubeの割り当て3割を引いてから、残りの半分を頂く運びとなりました。全体の3割5分ですね」


 これも固辞する予定だったのだが、ミヨちゃんに押し切られた形だった。

 実情はともかく、世間的に見れば彼女は俺に、間違いなく命を救われているから、その設定を通した方が良いだろう、との事。

 まあ、彼女が世間に「恩知らず」と見られるのも、それはそれで大問題なので、大人しく受け取る事にした。


「これで一通りの経緯説明は終わりです。何か他に、ご不明な点があれば……」



 ミヨちゃんは、暫く潜行自体を休止している。

 彼女の親御さんは、本当はダンジョンに潜って欲しくないらしい。

 明胤に入学させたのだって、彼女の魔法や体質を見た国からの要請があり、その上で将来ディーパー以外の職に就くのにも、抜群に有利だと言われたからだと言う。

 魔法は伸ばしつつ、ダンジョン関係の実技に関しては、片手間、なんなら不参加を望むほど。

 潜行系配信者になる時も、当然猛反対。

 それでも彼女が自分の強さを見せ、「一人で中級に潜っても死なない」という事を実力で分からせたので、一度は妥協してくれた。


 が、今回の事で娘への心配が再燃。「ダンジョンには二度と潜らせない」、とまで言っていると聞いた。

 親としては、理解できる判断だとは思う。

 幾ら国策とは言え、身内の命が脅かされるのを、容認できるものでもないだろう。


 彼女は今、潜行の許可を再度得ようと、両親を説得中なのである。



「そんな感じ、ですか、ねぇ~……?」


 配信開始から2時間。

 そろそろ、今回の事件についての質問が尽きて来た。

 後は日頃の配信上で消化できるようなものが大部分で、切り上げ時のように思える。


「それでは、この辺りで謝罪、及び経緯説明の配信は終了させて頂きます。と、まあ枠は一度区切るのですが、散々待たせて、これで終わり、というのも申し訳なく……。かと言って、僕が皆さんに差し出せる物と言ったら、一つしか無いわけでして」


 と、言うわけで、ささやかながら、エンタメの時間をご用意しました。


「この後新しい枠で、“梳削墓トゥスコーム・カタコーム”Z型討伐講座をさせて頂きます。現在9層で、Z型が未討伐なのも、さっき覗いて確認済みなので、準備は万端です。よろしければ是非寄って行ってください。固定コメントに次枠のURL貼っておきます」


『ファーwwwwwwww』

『こいつ止まらねえな!』

『精力的に過ぎるぞ、ススム』

『え、これからZ型倒すんですか?』

『ススム、門限は大丈夫か?』

『お前はダンジョンがトラウマになったりしないのか、ススム』

『炎上からの売名行為ですか?』

『へこたれないねー、がんばれススム君!』

『初見バイバイにならない?大丈夫?』

『早速新規を振り落とす狂人ムーブ』

『これこれ、この潜行ジャンキーこそがカミザススムよ』

『ススム君は何で怖くないんだろう・・・』

『炎上商法ですか、失望しました』

『ススム、お前の潜行講座、参考になるのとならないのとの差が激し過ぎるんだが』

『拝見させていただく、カミザススム』

『頼む、「分かる」回であれ…!』


「それでは、また数分後くらいに!さようなら~!またのお越しを~!………よし、切れてる……な!」


 さて、無いとは思うけど、この間に別の誰かに、Z型を討伐されてたら大変だ。

 さっさと10層に入って、次の配信始めよー、と。







 その後、1時間近くかけて行った解説配信は、そこそこ好評だった。


 内容自体は、非常にシンプルで、


・浅級とは言えZ型が如何に危険か

・開始1分くらいで終わらせる方法

・極端な遠距離や近距離より、中距離で戦った方が良い理由

・それぞれの間合いで、どんな攻撃が来るか

・どの攻撃に対してカウンターを狙えば良いのか

・筋肉の動きを考慮しなくていい分、動態魔力探知で大いに有利を取れる事

・天井に逃げられたらどうするか

・どういった装備を持って行けば有用か

・どういった種類の魔法や攻撃方法が欲しくなるか

・どういった編成で挑めば安全か


 この辺りに対する自分の見解を、実演込みで語ってから「万事解決です」、という定型パターンをやってただけである。

 こいつを倒すのは簡単です、なんて言えないし、本当にそうだったとしても、無謀な人間を増やす事になり得るので、言うつもりは無い。が、慣れたディーパーなら、誰でも勝ち目自体は有る、そういう相手だ。

 勿論浅級のZ型くらいだったら、戦っている映像が、あるにはある。けれど、強力な魔法無しである事前提で、詳しく解説している人は、そこまで見当たらなかったので、挑戦者の生存率向上の為にも、やってみた。


 協力:再生しては破壊されるを繰り返してくれたゼロ型スケルトン君。


 変異Z型とは、どういう判断を根拠に、どのような戦いを繰り広げたのか。その再現も手伝ってくれたので、とても優秀な助手だった。君のモンスターコアは、ありがたく換金させて頂く。死後もエネルギーとして人々の暮らしを支えてくれる、見上げたおとこぶりである。

 

 ちなみに、アーカイブの感想コメントのトップには、こうあった。


『言ってる事は分かるし大変参考になるが、カミザススムという人間の底については何も分からないし、分からせるつもりもないと分かる配信』

『ローマンに恐怖し、Z型を愛でる配信』


 ………そこまで言う?

 

 俺は化け物か何かかよ。

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