85.だからあ!ハードルがさあ! part2

「お二方とも?盛り上がっている所、恐れ入りますが」

「は、はい何でしょう!?」

「う、うん何かな!?」


 な、ナイスカンナ!ありがとう!完全に着地点を見失ってた!


「ススムくんの行動は、今の所、人類への利益相反行為には、なりませんよ?」


 ………………


「「ええええええ!?」」


「あれ、かしましいですね」

「いや、え、いやでも」

「ススムくん、逆に聞きますが、この私が、目玉一つになった所で、大人しく捕まっているとでも?」

「えっと……、でもほら、他の人間には移れない、って言ってたし……」

「単なる変異モンスターが、自爆出来たんですよ?私にその機能が、無いと思いますか?」

「え、あ、ああっ!」

「それとも、貴方の眼の中に居る私が消えて、それで“可惜夜ナイトライダー”が消失すると、私がそれをおそれ、自害を躊躇うと、そう思いますか?」

「いやあ、そのお……」

「私が私の全てを、心臓部を、貴方一人如きに、握らせているとでも?」

「そういうわけではなくて……」

如何どうして私が、自らの手で、斯様かような窮地に、立ってあげないと、いけないのでしょう?」

「あー……」

「自惚れが、強いですね?」


 はい、その通りです。

 俺の中に入ってるのは、単に物見ものみ遊山ゆさんです。

 国に「はいどうぞ」した所で、「さようなら」の一言でドロンです。

 カンナが俺に夢中、みたいな解釈をしないと、そんな勘違いしないです。

 顔が熱い………


「貴方が若し、私を売り渡そうなどと、詰まらない事を計画したら」


 「その時点で、ふっ」口元に持ってきた握り拳を、息を吹きかけながら開くカンナ、「おしまい、ですよ」。

 そりゃあ、そう。

 考えれば考える程、その通り。


「貴方が出来る、貴方にとっても人類にとっても最善は、私を楽しませ、その褒賞として、私から情報を引き出す」


 「即ち、今までと同じです」、彼女は「やれやれ」と、半ば当たり前の情報を開示する。


「私が貴方に飽きて、離れた時、幾らでも成果を持って行きなさい。それまでは、協定によって、互いの行動を縛る、それだけです。貴方が私を差し出していれば、人類にも多大な損失だったでしょうね?」


 カンナに飽きられたら、俺はもう立ち直れない気がするが、それはそれとして、


「ひょっとして、安心させてくれてるのか?」

「はい?」

「いや、俺がやった事を、『間違ってない』、『気に病むな』、って言ってくれてる気がし」「ススムくん?」「あでっ!?」

 

 ぶらりと足を振って飛ばされた上履きが額にヒットした。


「私は、事実を述べています。呉呉くれぐれも、思い上がりの、いように」

「はい……」


 調子乗りました。


「それから、ススムくんの嘘が、あまりに不得手ふえてであった為、何かしらの虚偽が有る事は、既に疑われています」

 追撃にも余念がない。

「なのに普通に解放された、って事は……今は、カンナちゃんが何処に、どうやって入ってるのか分からないから、尻尾を見せるまでは、手を出して来ない、ってこと?」

「その通り。優秀な生徒は好きですよ?ヨミチさん」

「カンナちゃんも『ミヨ』でいいよ!」

「なんと。それではその御言葉に、甘えさせて頂きましょう」


 勝手に仲を深めている。

 ミヨちゃんの間合いの詰め方がえぐい。

 その内俺とカンナより、この二人の方が仲良しになりそう。

 そして俺は、カンナが右眼に入ってる事を知られないよう、これまで以上に気を付けなければいけなくなった。

 バレたら、目玉を抉ろうとしてきたり、とか、あるか…?ありそう……。


「ススムくん、更に重ねてもう一つ」

「な、何でしょう?」


 もうヤメテ!



「思い知りましたか?己が、人が、どれだけ無力なのか、と」



 それは、

 あのillイリーガルの事を、言っているのだろう。


「あいつ、なんかダンジョンに拉致したりとか、火の海作って雷落としたりだとか、やりたい放題だったわけだけど……」

「あの程度、今更おどろく程の事でもありませんよ」

「「そんなわけないんですけど……?」」


 あれ結局なんなん?

 クソ強いZ型みたいに思えばいいわけ?モンスターって最終的にああなるの?Z型をほっとくと知能を持って勝手に外出するようになるんだとしたら、大問題だよ?

 と、色々言いたい事があるが、カンナはそれ以上詳しい事を教えてはくれないみたいで、

「彼らの事を教えるのは、もう少し後にするつもりでしたが、良い機会です」

 そのクセ実にご満悦、といった意地の悪さを見せ、




「命じます。私の助力無しで、単独で、彼らを討てるように、成りなさい」




 「私が最後に貴方に求めるのは、その域です」と、

 途方もない無茶振りをして来た。


「あ、あれを…?」

「単独で…?」


 詠訵と二人、めまいを起こしたように、唖然としてしまう。


「私はこれからも、基本的には助けません」

 だよねー……。

 待てよ?今回カンナが出て来たのは、俺と“火鬼ローズ”との間に、デカ過ぎる差があったから、だとしたら。

「……もしかしてだけど、俺が強くなってくと、その内あんなの相手でも、手助けしてくれなくなる、ってことに……」

「そういう事ですね」


 それは、理想が、超高層、過ぎやしませんか?


「楽しみにしてますよ?ススムくん」


 彼女の事を本当の意味で、

 満足させる事は出来るのだろうか?


 特指クラス、その滑り出しと合わせて、


 どこまでも、不安になる一歩目だった。

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