85.だからあ!ハードルがさあ! part1
「そっかあ…」
「うん、だいたい、そんな感じの流れなんだけど…」
「つまりカミザ君は、その人に見えない所で調教されてたんだね!」
言い方ァ!!
確かにカンナは師匠だし、色々教えてくれてはいるが、言い方ァ!!!!!!
「勘付かれては仕方ありません。ススムくん、いつものように、私の事は『御主人様』と」「悪ノリすんな!」「返事は『はい』か『ワン』だけですよ?何度も教えましたよね?」「え!?カミザ君一度『ワン』って言ってみてくれない!?」「無限にややこしくなる!!」
それと、さっきから思ってたけど、
「カンナ、なんか今日、デカくない?」
「あれ、セクハラですか?」
「?……!!?!違う!そうじゃなくて!背だよ!身長!」
いつもは俺より10cm高いくらいだけど、今は1m80以上ある気がするんだけど。
「ああ、普段は、ススムくんに合わせて、縮んでますからね」
「そうなの!?」
1年と半年くらい過ごしてきたのに、ここに来て驚愕の新事実が発覚したんだけど!?
「初めてお逢いした時も、この大きさでしたよ?」
「逆さだったからスケール感が掴めてなかったわ」
「私なりの気遣いです。どうです?御主人様に感謝の『ワン』は?『ぶう』でも可です」
「気遣いは時に人を傷つけるからな?あと俺のキャラをペット系マゾヒストで確定させようとするのやめろ」
「え~?言わないの~?」
「言わないよ!?って言うかさっきから詠訵は何でそんなにノリノリなんだよ!?」
「私、そういうのに理解ある方だよ?」
「事実とは異なるって言ってんの!」
「流れが読めない方ですねぇ…?」
「一回くらい言ってくれても良いですよねー…?」
なんか二人で寄り合って、口元を手で隠しながらクスクスし始めた。あれえ?君らほぼほぼ初対面だよねえ?どうして俺と1対2になってるの?息ピッタリ過ぎない?ソウルメイトか何か?
「っていう、悪ふざけはここまでとして……」
あ、ありがとう詠訵。
このまま俺の脳が持つ限界まで、このノリが続くところかと思ったよ。
「えっと、カンナさんには、失礼な聞き方になるかもしれないんですけど」
「敬称も遠慮も、要りませんよ?私と貴女の仲じゃあ、ないですか」
どんな仲だ、どんな。
「じゃあ、カンナちゃんで。カミザ君。カンナちゃんの事を隠すっていうのが、どういう事か、っていうのは分かってるんだよね?」
「……ああ。ちゃんと、分かってる」
イリーガルを操る知性の存在を匂わせはした。これから国は、彼らに対してノーマーク、というわけではなくなる。
だが、「知能を持ったモンスターが、確実に存在する」、「彼らについてもダンジョンについても、あらゆる事を解く為の鍵になるだろう物が、ここに在る」、その二つの事実を、隠蔽する結果になった。
ローズの言う「戦争」の相手が、人間全てを指しているなら、これは人類の敵を、利する行為だ。
全てが明るみに出た時、俺の味方が、何処にも居なくなる、それ程の暴挙だ。
「その上で、俺は、カンナを隠した」
「……人とも知性型モンスターとも、敵対する事になるよ?なのに、どうして?」
「恩人のカンナが研究機関とかで、俺の目玉に閉じ込められて、何もできないまま、モンスターとして、試料の一つとして“使われる”のが、嫌だった……って言うと、報恩みたいに聞こえるけど、結局は単なる、エゴだと思う」
彼女と離れたくなかったのだ。
これからも俺を、強くしてくれる、という期待もある。
けれどそれ以上に、カンナは俺にとって、精神が帰る家なんだ。
なんだかんだ、俺が苦しんでいるだけでも、それを楽しんで、味方で居てくれる。
少なくとも、傍から離れないでくれる。
彼女から居なくなるなら、仕方ないと思う。
だけど、俺から彼女を裏切るなんて、売り渡すなんて、
それは俺にとって、自殺に等しい。
「詠訵、頼む…!」
「!?か、カミザ君!?」
俺は膝を着き、正座の状態になって、頭を下げる。
「事情を知った上で、俺に手を貸すなんて、もう出来ないと思う。だから、せめて、彼女の事は、誰にも言わないでいて欲しい。お願いします…!どうか…!」
情に訴えるような、卑怯な姿勢だ。
だけど、俺にはこれしか、
お願いすることしかできない。
利益を提示できるだけの狡猾さも、
彼女に危害を加える覚悟も、
俺は持っていない。
時間一杯までに、なんとか説得して、
もしダメなら、逃げられる所まで逃げるしか——
「う~ん、どうしよっかなー……?」
緊張による、錯覚だろうか。
いつもより甘さを増して聞こえる、詠訵の声が降って来る。
「私には、カミザ君とカンナちゃんに味方する、得が無いからなー…」
うっ、やはりそうなりますよね……!
「お、俺に出来る事なら、何でも……」
「『何でも』?ふーん、それなら、一つだけ、出したい条件が、あるんだけど……」
「な、何なりと……」
何が出るかと、戦々恐々とする俺に、屈んで口を近付けた彼女が、
「私の事、『ミヨ』って呼んで?」
「………はい?」
「私は、『ススム君』って呼ぶから」
俺は顔を上げて、膝に肘を付き、両手で顔を挟んだ、彼女の顔を仰ぎ窺う。
「えっと……?」
「それが条件」
本気だ。
何処か楽しげな表情だが、眼差しだけは本気の熱さ。
だけど、
「そ、そんな事、で…?」
「『そんな事』、かなあ?だってススム君、待ってるだけだったら、いつまで経っても私の事、名前で呼んでくれないでしょ?」
「い、いや、そんな、じゃ、じゃあ、呼ぶよ?」
「うん!どうぞどうぞ!」
「え、えっと、み、み、み…ミミミ…ミミミミミ……」
「蝉ですか貴方は」
「う、うるさい!」
「さ、ススム君!どうぞ!」
「み、ミ………ミヨ…サン…」
ナニコレ。
「『さん』も『様』もナーシ!」
「前から思ってたけど、俺が呼び捨てでそっちが君付けなのなんで?」
「どうしたの、ス、ス、ム?」
「すいません君付けでお願いします」
俺が間違ってました。
そんな呼び方され続けたら、肺も心臓も幾つあっても足りません。
「えっと、その、ミ、ミヨ…チャンは、本当に、カンナの事、黙っていてくれるのか?」
「もう!そういうことじゃなくて!」
「ま゛っ!?」彼女は唐突に俺の手を取って、
「私は、ススム君の仲間で、友達、でしょ?もっと頼って?」
俺を真っ直ぐ射抜きながら、そう言った。
「で、でも、それじゃあ、ミヨチャン、まで、裏切り者に…」
「……ススム君、憶えてる?ゴールデンウィーク前、コラボ配信の後、私、ススム君に怒っちゃって」
「え、ああ、うん…」
忘れるわけもない、苦い体験だ。
「あの時、トゥスコムに潜ってる時からずっと思ってたんだけど、ススム君は、私の事を、どこかで信用してないんだよね」
「えっと、」
そんな事は無い、とも言えない。
確かに俺の中での彼女は、「敵対しない人」であって、「味方」ではなかったのだろう。
「私、それで焦っちゃって、少しでも絆を深めようと、ススム君の装備を買いに行くのを口実にして、デートの真似事とかして振り回しちゃって」
「デっ……!?」
おいカンナ、こっち見んな。
「ほらやっぱりデートだったじゃないですか」っていう視線を、ヒシヒシと感じるんだよ。減点しといて良いから、ほっとけ。
「でも、私の中でも、何が不安なのか、何がしたいのか、整理が全然ついてなかったから、空回っちゃって………」
照れ臭そうに、頬を掻く彼女。
「だから、その、私が言いたいのはね?」
「お、おう」
「私の事も、もっと信じて、ってこと!」
「ススム君の味方は、カンナちゃんだけじゃないんだよ?」、
そう言って安心させるように、
両手で俺の右手を包み込む。
「俺の、味方………」
「うん、だから、ススム君の事、手伝わせて?」
「本当に、良いのか?」
「うん」
「居場所が、今まで頑張って得てきた名声とか、ファンとか、全部、無くなっちゃうかもしれないのに?」
「うん!」
伝わってくる体温が、俺に訴える。
一緒に居よう。
共に歩もう、と。
いつしか俺は、泣いていた。
涙を、堪える事が出来なかった。
雫が、彼女の手の甲を打つ。
「ごめん……ありがとう………」
「うん……!」
俺は、詠訵を、ミヨちゃんを、頼っていいんだろうか。
いや、ここまで言われて、踏み込むのを怖がるのは、違う。
信じる。
相手を、自分の一部と認めて、
それが切り離されたとしても、痛みを受け入れる。
そうなってもいいって、そう言える相手。
勇気を出せ、日魅在進。
お前は今度こそ、友達を作るんだ。
「………グスッ……」
「………」
あー………
ところで、これ、どうやって、切り上げよう?
段々、気まずくなって来たんだけど………
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