76.もう一度、今度こそ

「こぉぉぉん!」


 く~ちゃんのリボンの内、魔具を持った4本が、Z型に挑みかかる。

 成程、確かに火の勢いが弱い。

 火の原因が魔素か魔力かまた別の物かは分からないが、俺達が自分色に変換した魔力なら、抵抗できる。更にく~ちゃんのリボンは耐呪魔法として優秀なので、そう簡単に燃え尽きたりしない。


「あの感じなら、思った以上に安心だ」

「……カミザ君、本当に大丈夫?」


 両手で一つの狐頭を作る、完全詠唱時の印を結んだまま、彼女は俺に不安そうな声をかける。


「いけるいける。と言うか、相手がこっちの狙いを理解したら、く~ちゃんの方が優先的に狙われるから、いつでも防御を固められるよう、気をつけといてくれ」


 もう彼女の魔法の優秀さに、最大限寄りかからせて頂くしかない。

 それと、彼女の魔力量にも。

 

「本当に危なくなったら、すぐにそう叫んで?」

「うん、分かってる。だからく~ちゃんも、それまでは引っ張らないで」

「………分かった。カミザ君を信じる」

 

 「信じる」、か。

 俺にはまだ、ちゃんとその意味が分かってないのかもしれない。

 だけど、


「俺も、く~ちゃんを『信じる』。あいつ倒してここを出たら、何か美味しいスイーツでも食べに行こう」

「うん……、いってらっしゃい…!」


 俺は用心深く位置へ。

 手を地に付け、右膝を立て、左足を更に後ろに。

 行くぞ。


 クラウチングスタート!


 この世の摂理みたいなツラで俺の体表で遠慮会釈無く盛る強火!

 だが、俺自身には燃え移らない!



 く~ちゃんが新たに生やしたリボンのうち、3本を巻き付けてくれている。

 そのうち一本は、俺の顔周りに空間を作り、ガスマスクと同じ機能を持たせる。

 そしてく~ちゃんは、完全詠唱状態を維持したまま。

 彼女の魔力が続く限り、9本全てのリボンを、修復し続けられる。

 

 く~ちゃんが守り、俺が殴る。


 ドが付くほどにシンプルな陣形だが、これでようやく、単なる浅級Z型との戦いになる!


 時間制限付きだけど!!


 

「こっちだあああ!」

 

 後ろ脚にキック一撃!

 地団駄のように踏みつけ攻撃を返してきたのでその下を潜るように行ったり来たり!


 次に襲い来るは複数の尾!

 ねずみ花火みたいにバチバチ朱色を散らしながら俺を突き刺そうと連続刺突!

 避ける、先に来る、だから弾く!

 拳を下から当て、魔力噴射も使って、

 逸らす、

 弾く、

 弾き飛ばす!


 そして俺が避けた先には後ろ脚!

 また一撃!

 Z型がサイドステップを踏んで俺から離れる、という動きを魔力で読んで俺もご一緒してやる!

 バックステップ!にも付いて行く!

 同じ脚に一撃!砕ける!バランスが崩れ左に傾く!

 尻尾尻尾尻尾尻尾尻尾尻尾尻尾!

 避ける避ける逸らす弾く弾く弾く砕く!

 正面からぶち砕いてやる!


 左後ろ脚の破砕面が変形、右脚も畳まれる事で左右同尺どうしゃくとすることで持ち直すZ型!

 俺の頭上からかんこつらしき部位が振り子やいばめいて降り来たる!


 更に前のめっている側から脊椎と思わしき物が伸び、そこに新たな上半身を逆様に作り上げ、右手に燃ゆる剣を持つ首無し剣士となる!

 剣の刃は指の骨のようなもので構成されており、ギザギザ形を作るだけでなく、刺した後に「返し」へと変形し、抜けなくするような凶悪な機構を持つ!


 背後からバネ仕掛けのような動きで斬り掛かる剣士!

 横から斬り裂かんとする振り子!


 俺は左のジャブで尻尾攻撃に対処しつつ魔力で持ってきたダンジョンケーブルを右手拳に巻き付けて、


 高速回転魔力刃!


 一歩前に出て振り子を避け、

 裏拳で剣を横殴りにする!


 チェーンソーが骨を削る音!

 ローカルの影響で容易に発火する為、魔力刃が通常以上に高熱を発し、結果として破断力が上がっている!

 鍔迫つばぜる俺の手を攻撃しようと剣の表面を這い来た他の部位共が、過熱と爆炎と魔力刃によって吹き飛ばされて「HiiiiiiiiiiT帰れえええええええ!!!」遂には俺が押し勝った!


 尻尾は尚も左拳で捌く!

 数発受ける程度ならリボンが何とかしてくれるからだ!


 そのリボンが一つ消えた。

 魔力切れが始まったか!

 

 Z型の動きが更に増える!

 俺を足下から追い出そうとしながら、長い胸椎きょうついの下、レールのようになった肋骨の列に、自らの一部たる歯を装填!

 歯茎に刺さる側を前にして、く~ちゃんへの狙撃を敢行!


 魔力で撃ち出し、焼炎しょうえんエネルギーを乗せて射殺を図る!


 俺は、しかしその成果を確認したりしない。

 彼女は自分を守るリボン2本と、

 魔具を持たせた基本の4尾、

 計6本で防御している。

 魔力が底を突き始めた今は、その本数も減っているかも。

 ならば逆に、印を構えている必要が無くなってるから、避ける事だって出来る。


 彼女はランク7。凄腕のディーパーだ。

 自分の身を、自分で守れる。

 それが出来なければ?

 死ぬだけだ。

 俺も、彼女も、両方。


 だから今は、「信じる」、それしかない。


 下顎が蛇のように左右に割れた頭骨から、Z型は何度も歯牙しがを、エナメル質で覆われた人体で最も硬い部位を撃ち出して、

 だが、俺は生きている。

 骨を補充する暇を、与えない。

 リボンは残り、攻撃は続き、奴の脚が、短くなっていく。


 業を煮やしたZ型は、どうするか?

 俺は近接型で、大きく距離を取れば、猛攻から逃れられる。

 例えば、天井に張りついたりすれば、仕切り直せるだろう。


 だから、

 大ジャンプの為に、

 一際深く両後ろ脚を踏み込んで、


 で、

 俺が、

 至近戦なら超細密魔力探知が出来るヤツが、

 それを、「逃がすわけねえだろおおおおお!」


 尻尾も剣も尾も避けるか流すかした俺はその一環としての横移動と見せかけて斜め跳躍!Z型の後ろ脚で三角跳び!反対の脚から骨伝いによじ登って上を取り、頭部に向かって走る!

 

 それを知ったそいつは俺の蹴りによろめいた後もジャンプをそのまま実行!俺を振り落とすか、天井と挟み潰す狙いだ!俺は足を踏み外して落ちそうになり、肋骨を雲梯うんてい代わりに掴んで移動し反対側から登り、その時には高度上限がすぐそこまで迫っていて——!


——今だ!


「くぅぅぅうううちゃあああああん!!」


「こ、ぉぉぉおおおおおおおおんんん!!!」


 俺に巻かれていたリボンが引き寄せられ、Z型に絡み付き、


 く~ちゃんの能力によって、

 宙から地へと真っ逆さま!


 奴は腕を伸ばして、しかしあと一寸、届かなかったらしい。

 何も掴む事が出来ないまま急速落下の後に激突墜落粉砕骨折!!

 

 腰骨こしぼねより下がバラバラの粉々!

 

 チャンス到来!

 く~ちゃんの魔具持ちリボン2本が下半身に近い方から攻撃していくのに合わせ、俺は再度頭部へと走る!

 百足の脚の如き動きで逃げ出そうとする肋骨を踏み折りながら前進!

 こんな壊れ方をして、生きようとするZ型は、

 弱点部位は、どこに行く?


 そうだ、頭だな。


 そこが一番、被弾箇所から遠いのだから。

 

「缶、蹴り、しよう、ぜえええ!」

 

 床からパーツを得て何かしらを作ろうとしているが、俺が到着する方が早い!


 巨大な背骨の先端に付いている、このモンスター唯一の頭骨目掛けて、


「お前が、」

 

 左足が踏み込み、

 右足を後ろに引き上げて、

 前へと、


「缶だけどなあああああ!!」


 振り抜く!


 レンガ造りでも崩れたような音!

       跳ね転がる巨大な炎上ボール!

                  それを正面から、


                           「こん、こおおおん!」


                  く~ちゃんが蹴り返す!

 

「もういっちょおおお!」


 追いかけていた俺からの右拳!

 破裂!

 細かく砕け散る!

 

 集中しろ…!

 張り巡らせろ…!

 直火に焼かれる感覚を、直に受けてでも、逃すな…!

 熱い…!

 痛い…!

 あついあついあついあつい

 皮膚が焼きごてでゴシゴシ擦られるような、

 延々とメリメリ掻き毟られるような、

 どれだ……!?

 この炎熱の中に、

 俺と同じく、

 生きようとしてる奴が——


「みぃぃっ」左斜め後方に飛んだ一塊いっかい!恐らく歯と同じようにエナメルコーティングされている!「つけたあああ!!」背骨に戻ろうとしていたそれを後ろ反時計回し蹴り!横から命中する踵!そのまま右足軸に回転してく~ちゃん側に蹴り戻す!

 

「とどめええええ!」

                               「りょうう!」

          彼女は魔具の一つをその手で直に持ち、魔力盾を発動させて、

                             「かあああい!!」

                   ローカルに燃やされながらぶん殴った!


 ガラスが割れるような、気持ちのいい音はしなかった。

 ただ、岩か何かに亀裂が走った、そんな空気の振動があり、


 弱点部位が内から光って「!!カミザ君伏せ」






 

 そこで映像もネットワーク接続も途絶えた。

 カメラはともかくとして、彼らからの信号が全く検知できなくなったとすると、ガバカメの方も破壊されたと、そう見ていい。

 生存は、絶望的と目された。



「よし、いぞローズ、それでいい」


 玉座の上の彼女は、それを見て満足気に頷いた。

 

「頭の足りん小僧の命運、しかと尽きたわ」

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