27.高校受験チャンネル(物理) part1

goゴー!」目の前のG型の足をすれ違い様に一刺し「wentウェント!」魔力によって傷口を拡大「goneゴーン!」隙を攻めたつもりになっているもう一体のG型の攻撃を魔力を飛ばすことで逸らし「takeテイク!」更に宙に固定したナイフを蹴り刺して膝を破壊。


tookトゥック!」よろめいたそいつの肩に乗ってG型を足場に跳び回るL型と同じ高度に「takenテイクン!」右側方向への移動を牽制する為の一本投擲の後に反対方向へ駆け飛び「leaveリーヴ!」二の足を踏むL型を気にせず走り抜け「leftレフト!」さっき投げて今G型に刺さっているナイフに繋がっているケーブルを引っ掛けて足を取り「もういっちょleftレフト!」体勢を崩したところに巻き取り機構で接近し密着。


fallフォール!」コアをスロットに挿入しながら首に一撃を入れ吹き飛ばし「fellフェル!」そのまま地面に着地することで重装兵を遠距離攻撃への盾とし「fallenフォールン!」原始的な鉄砲みたいな見た目の武器から重い一撃を放つMメイジ型が次の行動を決めるまでの間で「breakブレイク!」ケーブル付きナイフが抜けてやっと攻撃動作に入った正面のG型の懐に入って両足首を切り開く。


brokeブローク!」頭上から会心を確信して爪を振り上げ落下してきたムササビみたいな見た目のFフェルツ型の口へと足から出した魔力でナイフを一突いっとつbrokenブロークン!」回し跳び蹴りの勢いを殺さず左に転がって再びG型の陰に逃れつつ「beatビート!」真横からの薙ぎ払いを魔力と左手のナイフで弾き返し「beatビート!」三連刺突で喉に穴を開けるも死を確認できるまで待つ事もなく背中で起こした魔力爆発の衝撃によって「beatビート!」射線転換の為に鉄砲の構えを解いていたM型の許まで接近!


「おまけにbeeeeeeeeeeeeeatビ、ィィィィィィィィィィ!」

 左手で鉄砲を掴みながら再度の魔力破裂による空中方向転換を行い右膝を喉に入れて口を開かせ「hitヒットも全部同じィ!」コアをセットしたナイフを投げ入れ頭部貫通!

 

 後は取り立ててアピールするような見せ場も無く、残ったG型を処理して戦闘終了。


「よっしゃ5層の基本チームに勝利ぃ!」



『新ジャンル、バトル受験生』

『不規則過去分詞がシャウトみたいになってない?』

『新感覚が過ぎる』

『ススム、流石にそれは引く』

『その時間も暗記に回すのか…(困惑)』

『俺の知ってる高校受験と違う』

『今信じられないくらい笑ってる』

『呆れを越えて感心を通り越して恐怖』

『人って、ここまで壊れることができるものなんだな』

『やってる事ヤバ過ぎてコメントできなかった』



 うんうん、第5層攻略への第一歩が、やっと済んだということで、ちょっとした盛況を見せてるな。コメントが速い速い。まあここまで来るのに1ヶ月も掛かったから、そんな反応にもなるよね。


「皆さん、お祝いのコメントありがとうございます!ですが、もっと奥に行くと、M型やF型が増えてより面倒な編成になっていきます。気を引き締めていきたいです」


『うん、そうじゃなくてね?』

『たぶん盛り上がりポイントそこじゃないんだ』

『無意識?もしかして無意識?』

『くぅ~、この天然たまんねえええ』

『魔力をどう使ってるのか解説しろ、ススム』

『さらっとナイフをホーミング武器にするんじゃないよこのローマン……ローマン?』

『なんか空気を蹴ってるみたいに見えたんだけど』


「ああ、あれはディーパーの基本スキルで、魔力を凝縮してから解放することで、小規模爆発を起こすテクニックです。金属片とかが混ざってるわけではないので、手榴弾みたいな殺傷力は無いですけど、衝撃波としてさっきみたいな使い方ができるんです」


『基本スキル(ランク6とそれ未満のボーダー)』

『習得するのに結構かかる筈なんですがそれは』

『ま、まあ普通のディーパーは魔力を出そうとすると魔法として出て来ちゃうって言うし…』

『自分の魔力を純粋にエネルギーとしてしか使えない、ってのが逆に利点になってんのか』

『そっか、魔法に変質しないから、単なる魔力としての運用がしやすいんだ』


 話しながら、軽さ確保の為に物陰に置いていた、バックパックを回収する。ローカルは俺には適用されないが、身軽になるのは確かなので。


 魔力を使えるようになってから、結構応用も利くようになってきて、戦略の幅がかなり広がった。一般ディーパーと比べて、アドバンテージとなる面も、僅かながら存在する。固有の能力を持たない代わりに、ちょっと器用。それが今の自己評価。

 お蔭で、単なるクソザコからは抜け出せた。だからと言って特別強いわけではないんだが。


 あと掛け声が英単語になるのは、致し方無い事情がある。

 言うまでもなく、「何としてでも刷り込め」という、逃げ場ゼロの圧に屈した結果だ。

 カンナは偶にマジで英語しか話さなくなるので、自分の周りに日本語が存在しない、みたいなタイミングまであったりする。

 後遺症とか残らないよな?


「今の戦闘で、何か気になった点とかありますか?勝てたとは言え、ちょっと時間掛かり過ぎな気がするんですよね…」


『被弾したら終わりだからなあ』

『回復使えるビショップが居ないと無茶できないんよな』

『そっちはどうしようもないから諦めるべきだと思う』

『やっぱ武器が貧弱じゃない?』

『急所刺しても一撃で仕留めきれなかったりするからな』

『魔力で攻め手は増えたけど威力不足は解消されてないから…』


「ああ、そうですよね、そこに話戻りますよね…」


 結局のところ、「決定力不足」は依然として課題なのだ。

 「殺す力」は積んできた、だけれど、「壊す力」を培えていない。

 今はまだ対人の延長くらいの敵だが、これ以上しぶとい相手や、無機物メインなモンスターが混ざってきたら、途端にグダグダ戦闘になるだろう。相手の攻撃を避けながら、今一つ足りてない攻撃をチクチクする。絵面的に最悪だし、何より一つのミスで死ぬ俺が、必要攻撃回数を減らせないなんて、それはもう直球の自殺になってしまう。


 危険は少ない程、短い程良い。

 そこを対策出来ない奴は、苦労どころか崖っぷちを強いられる。


「複雑な魔法陣が入ってる武器を買えば…、でも使い捨てでも一つ10万とかの世界ですし、長期間の使用に堪えられるようなものだと、それこそ桁が外れるんですよね…」


『中級のG型のコアが一つで、高くて千円とかだっけ』

『時給換算で見るとクソおいしいんだけどね…』

『ススムの場合、他のディーパー以上に装備を新調しないといけないから…』

『戦い方的にデカめの破損が避けられないのがなあ』

『しかもコアは高威力攻撃の弾として消費するから、その分は持っとかなきゃいけないし』

『管理会社に払う分もあるよ!』

『計算が面倒になってきた!』

『クリスティアみたいに銃社会ならな』

『うちの政府はそこ強く出れないから…』

『刃物系の規制はかなり緩和されたんだけどね』

『でも対モンスター用の銃弾の値段ってバカ高いんじゃなかったっけ』

『熊撃ち用とかだったら通常弾でも結構イケるらしい』



 余談だけど、浅級G型のコアが、状態が良くて一個500円くらい。仮にも命が懸かっているのに安い、とそう見えるが、ガソリンが1リットルで百円ちょいと考えると、一体でガソリン3~4ℓ分の価値を見出されている、ということ。

 一体あたり300円平均として、一時間で5体倒せば、それだけで時給1500円。そう言うと今度は割のいい仕事にも聞こえる。まあそっから管理会社に3割くらい取られ、装備品の整備とか買い足しといった経費が掛かるんだけど。

 エネルギー効率も勿論だが、加工して素材化したり、軍事利用できたりと、コアの活用法は広く、それが価格に直結している。最も質の低い物でさえ、取り引きできる商品扱いされるあたり、現代社会におけるモンスターコア、その価値の高さが窺える。


 丹本はこれでも、ダンジョンの質・量共に恵まれており、世界でも十指の永級ダンジョン保持国でもある。エネルギー自給率はTOP10入り常連で、100%維持をうたっているが、ダンジョンから採れるモンスターコアが無ければ、一割にも届かない、とはよく言われる。

 ダンジョン関係を除けば、資源には寧ろ見放されている国だ。国を挙げてダンジョン攻略に傾注するのも、無理からぬ話、というワケ。


 だから、モンスターコア価格が大幅に下落する、なんてこと、この国では起こりそうにない。全国民にディーパーという存在を称揚した上で、現在の価格状況なのだ。流通量がここから更に跳ね上がるというのも、「誰でも簡単且つ安全に、中級のM型以上を狩れ尽くせます」、とかそういう革命が無い限り、まずないだろう。


 

「……そこは追々考えましょう。このままのんびりしてたら、さっき追い越した一団とまた出くわすかもしれません。そうなると面倒なので、少し先に進みます」


『りょ』

『気を付けろよ~』

『さっきの感じだと無傷での突破が難しくなってくる頃合いだからな』

『無茶だけはしないようにね』

『元々無茶定期』


「ありがとうございます…。皆さんのお気遣いが沁みますねえ~。フゥー……。森林浴してるみたいです……」


『感性が独特で草』

『感謝の仕方がキモいぞ、ススム』

『ってか今までどんだけアレな扱いを受けてたんだよ』

『そらローマンだから、そこは察しろ』


 今日も俺を見捨てないでくれているリスナーのみんな。彼らが当たり前のように付き合ってくれている事に心打たれつつ、だからこそ失望させないようにと気合を入れ直す。


 よし、このまま第6層までぶち抜いてやる。

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