第二章

 家にいるときだけは、僕がほっとするときだった。

 ベッドに転がって、ひたすらスマホゲームをいじくる。もうすこししたら新規の戦闘キャンペーンがはじまるけれど、今はただキャラの育成のためにローテーションで戦闘に出しているところだ。

 僕はスマホをタップしながら、ごろごろしつつ、言われたことを考える。


 ──……だったら、本当にあなたは死んでくれるの? あなたが生きていたら、わたしの好きな人が死んじゃうの


 その言葉の重さが、僕の胸の中でどんどん重量を増していく。

 身勝手だ。お前の好きな人なんて僕は知らない。そう突き放してしまえればよかったのに、何故かその険しい顔が、僕の中で妙に印象に残ってしまっていた。


「……今時古いんだよ。殺し愛なんてさ」


 殺し合う殺伐としたものが好きっていう趣向があるのは知っているけれど、僕はもっと平和的な愛が欲しい。いや、そんなものは二次元に限る。治安の安全な日本でそんなものは求めていない。

 そう思って、スマホの画面に流れた戦闘画面にタップをした。画面が一瞬真っ暗になったところで、なにかが画面に映った。

 この部屋にはいないはずの、能面みたいに無表情な女子の顔だ。僕はガバッと起き上がろうとしたけれど、それは強い力でベッドに組み敷かれた。

 おかしいだろ。女子に上からのしかかられて、喜ぶところなのに。今は恐怖しか浮かばない。ベッドの上で、向こうは制服姿で、豊満な胸が迫ってくるのに。


「……お願い、死んで」


 その声は、ロボットに声を与えたように見えた。彼女の胸元から取り出されたナイフが、僕の首元に迫る。


****


「う…………あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」


 自分の叫び声で、目が覚めた。

 僕は思わず手元を見ると、スマホの画面にはアラームだけ点いていて、ゲームの画面は映っていない。……なんだよ。また、殺される夢を見たのかよ。

 背中が冷たいのは、なにも寝汗のせいじゃない。

 海鳴いわく、僕が生きていると、あいつの好きな奴が死んでしまうらしいけれど。そんなことは僕は知らない。何度も何度も繰り返し見た夢は、ただ同じ夢を見ているんじゃなくって、海鳴が繰り返した分だけ、僕も殺されているらしい。


「……冗談じゃない」


 自然と口から毒が出た。

 そんな他人の惚れた腫れたの巻き添え食らって殺されるなんて、僕の命はそんなに安いのか。冗談じゃない。そんなお前の身勝手に僕を巻き込むなよ。

 ムカムカするものがせり上がってくる。夢で見た、教室で見た、あの無表情な海鳴の顔が瞼の裏にパッと浮かんだ。……そういえば。僕は池谷としゃべっている海鳴のことを思う。

 あんな顔をしている海鳴は、僕は夢でだって一度も見たことがない。

 ……なんでそれにムカつくんだよ。暴力女に笑顔を向けられても、その顔で僕を殺すんだから、同じだろうが。僕はムカつく胸を撫でてから、パジャマを脱ぐことにした。

 寝汗と冷や汗で、パジャマがぐっしょりと濡れてしまっていた。

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