第2話 娘の唇
僕がその娘と付き合いたくなったのはがあまりにも美しくてどうしてもキスしたくなったからだ。今まで色々な女性を見たが、 あの娘ほどキスをしたいと思ったことはなかった。今までにあった どの娘よりも僕はあの娘にキスがしたかった。僕とその娘との出会いは初めからそんなふうだった。若く美しい娘の美しい唇 目当てだった。付き合ってあの唇を好きなようにしたかった。しかし どれだけキスをしても、どんな風にキスをしても満足できなかった。娘の体を思い通りにしても、どれだけ犯しても満足できなかった。俺は気がついた、キスやセックスには全く意味がないということに。娘はいつも僕のしたいようにさせてくれた。それは娘も望んでいたことだったのかもしれない。しかし いくら娘を抱いても、犯しても 僕たちは少しも近づけなかった。初めての時から娘との距離は少しも変わっていなかった。僕たちはもう限界だった、これ以上何をしても前に進むことができなかった。だから僕たちは別れた。娘と出会って3年後のことだった。高校を卒業して社会人になった娘は、年下の男と結婚して二人の子供を儲けた。娘が20代の終わりになった頃電話が鳴った。携帯ではなく家の固定電話の方だった。娘と別れて10年近くが経っていた。僕は久しぶりに聞いた声が娘のものだとはわからなかった。あんなに いつまでも耳に残っていた 声だったのに、僕は全くわからなくなっていた。娘に電話の向こうで 私、私よと何度も言われて僕はやっと思い出した。あの子だったんだと。そしてまた 何度か二人で会うようになった。初めのうちは娘の方が近くの駅まで来て落ち合った。何度か会ううちに 僕の方が娘を迎えに行くようになった。娘はいつも自分の子供を連れてきていた。お茶を飲ませたり 歯を磨いてやったりして娘は子供の面倒を見ていた。僕も昔こんな風にして母に歯を磨いてもらったことがあったのを思い出した。自分の子供とはいえ人の歯を磨くというのはなかなか骨が折れるなと、僕は娘が子供の歯を磨いているのを見ながらそう思った。毎食 ごとに これをするだけでも大変だなと思いながら見ていた。
「毎食 歯を磨くの?」
「そうだよ。」
「大変だな。」
「虫歯になったら かわいそうでしょ。」
「…。」
「子供の齒って虫歯になりやすいのよ。」
「そうなの?」
「そうなんだよ。だから毎食後すぐに磨かなきゃいけないの。」
「公園に来てものんびりすることはできないんだね。」
「そうだよ。お母さんはいつも何かしてなきゃならないの。」
「休まる時がないね。」
「そうだよ。」
「家事も子育ても大変なんだよ。」
娘は少し体の小さなその子の世話をしてやりながら話を続けた。
娘は会いに来た理由は、特に話さなかった。娘はだれが見てもかわいらしく実際よくもてた。娘は街角でも職場でもよく声を掛けられていた。若く愛らしい娘は街を歩くだけで恋の1や2つはついて回った。わざわざどこかへ出かけることは必要なかった。ただいつものように歩けばよかった。恋は、普通に暮らしていれば勝手に生まれていった。声かけナンパは日常だった。あとは変な男に関わらないように気を付けるだけだった。
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