新技術開発会議
伊吹はドット絵のお面を着けた副社長の姿だ。
「大きな会場で歌ったり喋ったりすると、観客が聞く用のスピーカーから自分の声や楽器の音が大音量で聞こえてくるんだ。
そうすると、自分の声や楽器の音のせいで、自分が今喋ってる声が聞えなくなって、喋ったり歌ったり出来なくなるんだよ」
伊吹が技術者達へ、前世の記憶を元に開発してほしいものを説明している。
その中には、VCスタジオ責任者の
「自分の声がしっかりと聞こえるように、そしてライブ中の進行や歌い出しの合図、リズムを取る為のメトロノームみたいな音が聞こえるように、耳を蓋するような感じで着けるイヤフォンが必要になるんだ」
伊吹が説明しているのはインイヤーモニターという電子機器で、伊吹のいた前世世界のアーティスト達にイヤモニという略称で呼ばれていた。
大きなライブ会場で動き回る歌手や楽器演奏者、そして音楽に関係ない司会者なども装着している事が多い。
小さな会場であれば自分の声が聞えにくくても、自分用のスピーカーがあれば問題ないのだが、大きな会場で爆音で音楽を流したり、ステージの端から端へ、別のステージへと動き回るようなライブだと、ワイヤレスで音を確認するイヤモニの装着が必須となる。
「それ専用の端末は存在しませんが、お話をお聞きしている限り、技術的には問題ないと思われます」
ワイヤレス通信の技術や、イヤモニへ音を集約する為のシステム構築など、開発には幅広い知識が必要になると思われた為、
先ほど伊吹へ見解を示したのは、VCうたかたラボ設立に大きく関わった企業であるララファの開発責任者である。
「私が見た舞台裏映像で、イヤモニを作る時には紙粘土か石膏か何かで耳の型を取っていました。
その型を元にイヤモニのイヤフォン部分を作れば、ぴったりと嵌って音漏れしにくいイヤフォンが作れるんだと思います」
「「「副社長の耳型!!?」」」
開発室にいる女性達が動揺を示す。鼻息を荒くする者や貧乏ゆすりを始める者、周りの人間とコソコソと会話を始める者まで出る始末。
「価値は計り知れない、誰が責任を持って保管するの?」
「誰も盗めないよう銀行の金庫で保管すべきだ」
「耳型の原型は博物館行きになるのかな」
「たかが耳型でしょう? 持って帰ってprprしても許されるはずよ」
「貴女みたいな人がわんさかいるから価値が計り知れないって言ってんのよ」
「耳型のレプリカを販売しよう」
「むしろその耳型のレプリカから音が出るスピーカーにして販売しよう」
「バカね、耳型を使ってシリコンで実物の柔らかさを再現した複製耳を販売するのよ」
「複製耳の中に小型モーターを入れましょう」
「中にヒーターを仕込んでさらに完全耐水性にしなきゃ」
普段は
このまま放っておくとキリがない事を知っている多恵子と美羽が机を叩いて立ち上がった。
「お兄様、どうやらこの部屋にはケダモノしかいないようですわ」
「そのようです。さぁお兄様、帰りましょう」
「「「申し訳ございませんでした!!!」」」
冷たい飲み物を配り、一同が落ち着いたところで再び伊吹が必要とする技術についての話を始める。
「骨伝導で音が聞こえるようになるイヤフォンもほしい。耳を塞がずに音が聞こえるから、人からの指示を受けつつ取引相手と商談をしたり、生配信したりするのにあると非常に便利だ」
伊吹の話を受けて、一人の女性が手を挙げて発言を求めた。
「骨伝導の基礎技術について心当たりがあります。先方にVividColorsが興味を示しているとお話しても?」
「もちろん。必要であれば出資もしましょう。骨伝導イヤフォンについては貴女にお任せします」
手を挙げた女性が伊吹へ頷いてみせたので話題は次へと移る。
「眼鏡とヘッドフォンを一体型にした端末も開発したい。眼鏡とは言いましたが、要はヘルメットのようなものを被って、目の前に液晶画面があるんですよ。
で、そこに映る映像とヘッドフォンから聞こえてくる音声が連動していれば良い。
まずはそこまでを目指して開発をしたいと考えています」
「そこまでは、と仰いますと、その先があるという事でしょうか?」
女性達がそれぞれ頭の中で想像する。ヘルメットの中に映像と音声が流れる端末。その何が良いのか、いまいち理解が出来ていない。
「いずれはジャイロセンサーを組み込み、装着者の首の動きに合わせて映像も音の聞こえた方も変わるようにしたいんですよ。
首を動かせば目線の先の風景が変わるし、それに合わせて音の聞こえてくる方向や聞こえ方も変わるのが普通ですよね?
それを使えば、海外の視聴者もライブ会場にいるような臨場感で月明かりの使者のライブに参加出来るようになるんです」
開発室にいる女性達がどよめく。そんな技術があれば世界が変わるだろうと想像が追い付いたのだ。
「海外だけじゃない。どんなに広い会場でも人数の上限は決まっています。
が、このVRゴーグルを開発すれば無制限で受け入れ可能です。何十万、何百万の観客にライブを楽しんでもらえるようになるでしょう」
「お兄様、桁が足りないと思います」
「サーバの処理が追い付かなくなる事を考えると無制限というのは難しいかと」
途中途中で多恵子と美羽が待ったを掛けつつ、こうして開発会議は続けられたのだった。
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