社内独立制度
「絶対にグッズ展開すべきや! 子供らも大っきいお友達も、みぃんな欲しいて欲しいてたまらんはずなんや!!
ってか初回放送時にはグッズの製造は終わってて、放送日の次の日には店頭に並んでへんとおかしいやん!
『ひとでき』も『まもぶり』ももう放送始まってだいぶ経つのにまだグッズが用意出来てへんなんてアカンて!!」
伊吹としては、マチルダの言っている事はもっともであると思っているのだが、売り上げ至上主義的な目で見られたくないという想いが邪魔をしているのだ。
「魔法防衛隊
けど、僕が対象視聴者であると思ってる子供達の手の届かない値段にはしたくないんだよね」
「まぼぶり」こと、魔法防衛隊BrilliantYearsは、
配信者集団としてのVividColorsの面々が忙しく、毎週新しい回を投稿するのが難しい事から、VividColorsと戦って敗れ、改心したBrilliantYearsの六人が
「コスプレに関してはもうすでにパチモンが出回ってんねんで!? はよ何とかせんと!!
それに、『ひとでき』も魔法が使える黒猫が出てんにゃから
「それはダメ。『ひとでき』は全国の小学校の授業でも使われてるから、金の匂いはさせたくない」
「何やて!? うちの主演番組やのに金にならんのはイヤや!!」
マチルダが「ひとりでできるんだからねっ」と同じように、副社長室の床に仰向けに寝そべって駄々をこねる。
二人のやり取りを見守っていたイリヤとキャリーが笑っている。
「マチ、はしたないにゃ」
イリヤがはだけたマチルダのスカートを押さえて抱え、ソファーへ座らせる。ヴィヴィの声を担当しているのはイリヤである。
「マチちゃんの言ってる事は理解出来るけど、そのビジネスを一度始めてしまうと大変だと思うよ?
小売りや卸しは良いとしても、メーカーは次々に新商品を作らないといけなくなるし、その新商品の企画を考えるのはVividColorsだし、新商品を出す為に新しい番組を作らないとならないっていうルーティーンが始まっちゃうもの」
「おもちゃメーカー買収したらええやん! 次々に新しい番組作ったらええやん!!
戦隊モノに変身モノ、光の巨人に魔法少女アニメシリーズ。だいたいのあらすじを伝えたら治お兄様が企画や脚本を作ってくれるやろ!!」
収まりが付かないマチルダは、治という高度人工知能に投げてしまえば良いじゃないと言い切ってしまう。
「僕達が娯楽を提供するのはもちろん良いんだけど、僕達が与えた刺激を受けて、全く新しい何かが出てきてほしいってのが一番の僕の願いなんだよね。
だから、治が作ったものの出来映えがいくら良くても、それはVividColorsの作品の延長線上なんだよ。
そうじゃなくて、第三者の作品が育ってほしいんだ」
伊吹の第一目的は金儲けではない。
お金があればあるほど出来る事が増えるが、この世界の娯楽を育て、伊吹自身が見た事も聞いた事もない、新しい作品に触れたいという想いから世界発の男性
「そんなんいつになるか分からんやん……」
「そう、だから積極的にクリエイターを採用して、育成して、ある程度育ったら資金を援助して独立してもらえば良いんだよ。
魔法少女モノが好きなディレクターとか、戦隊モノが好きなカメラマンとか、『ヤバすぎ!』が好きな脚本家とかを育てて、バンバン独立させれば良いと思うんだ」
伊吹はバンバン独立さっさと独立と口にしているが、マチルダもイリヤもキャリーも、クリエイター達がわざわざ伊吹の元から離れていくとはとても思えないでいる。
「……社内独立制度を整えるべきやな」
「なるほど」
「それが良さそう」
マチルダ、イリヤ、キャリーが今VividColorsに必要な制度について考え始める。
「そうか、とりあえず低リスクな社内独立制度を使ってみるよう促して、可能であれば本格的に独立してもらえば良いのか」
伊吹はそう捉えたが、三人が危惧するように、完全独立を望む従業員がどれだけいるか未知数である。
「うちが考えてるグッズ展開についても、クリエイター達に振って育成しつつ市場の反応を見ながら進めていく感じでええ?」
「そういう事なら良いと思う。
ただし、グッズ至上主義でグッズを売る為に作品の方向性を変えたりするのはナシにしてくれよ?」
「原作をうちが書けばええんやろ?」
「……まぁ、それはそうだけど。
ただし、仕事に熱中し過ぎて倒れたりしないでくれよ?
ただでさえ十歳の身体にしては働き過ぎくらいなんだから」
「せやねんなぁ、はよ大人になりたいわぁ」
そう口にするマチルダをイリヤとキャリーが笑顔で見つめている。ただし、その目だけは笑っていない……。
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