限定生配信:町村浪漫の大喜利合宿二日目修了式
『この大喜利という芸事は、私が並行世界から仕入れて来たものですが、私が暮らしていた並行世界では非常に人気のある演芸でした。
お題に対して一言で返して笑いを取る。写真を見て一言呟いて笑いを取る。
ただそれだけの非常に簡単に見える芸ですが、それがどれだけ難しい事であるか、二日間合宿に参加された二百名の皆さんは理解されていると思います』
大喜利合宿の二日目の行程が終了し、実写の副社長が参加者へ向けて挨拶をしている。
画面の右隣にはアバター姿の
『私はこの世界においても、お笑いの文化を根付かせたいという想いから、大喜利という演芸を取り入れ、生配信で視聴者の皆さんに馴染んでもらい、大会を開いて普及させようと考えた訳ですが……』
『すませんすません、副社長。ええ話してはるんは分かるんですけど、ちょーっと堅苦しいわ。
頭
≪副社長に何て事言うんですか!?≫
≪私達は全く問題ありません!!≫
≪固くて太いの大好き!!!≫
「固くて太い……?」
頭が働いていない伊智花は、大喜利参加者達のコメントを理解出来ていないようだ。
『そうですね、ではもっと砕けた感じで話させてもらいますね。
まぁ皆頑張ったんじゃね? いい感じだったと思うよ、うん』
『いや砕け過ぎやわっ!』
浪漫が右手の甲を副社長の胸元へと叩き入れた。
≪アバター姿の浪漫師匠が実写の副社長を殴った……???≫
≪服揺れてたな、すごい技術だな≫
≪いや気になるとこそこかよwww≫
「これってもしかして……」
合宿中に、浪漫がボケとツッコミの話を参加者へ向けて軽く説明していた。
大喜利の場合、回答者は基本的にはボケで、司会者もしくは視聴者がツッコミになる。
今、副社長と浪漫は画面上でボケとツッコミの役割をして、二人でお笑いをしているのだと伊智花は気付いた。
『とは言えねぇ、大喜利大会の出場者は百名って決まっております』
『そやね、二百人ってなると人数多過ぎて対応し切れへんしね』
『皆頑張っていたのを私も見ていたのでね、なかなか決められないなぁと頭を悩ませてるんですけど』
『そんなん言うたかて決めなどうしょうもないですよ』
『ですのでね、ちょっと今から皆さんに、殺し合いをしてもらおうと思います』
『いや怖過ぎるやろ! 二日間の意味何やったんや!!
最初から上位百名が大会出場やて言うてたやろがい!!』
『言ってたか、じゃあ仕方ないねぇ』
『何でちょっと残念そうやねん! 殺し合いなんて怖い事言わんといてや』
『なんて言ってますけど、実はすでに結果は出ております!
どうです皆さん、気になりますかぁー?』
『気になりますよねそりゃ。さぁはよ教えてんか!』
『気になる結果は……、ダラダラダラダラダラダラダラ……』
『すごい、口でドラムの音表現してる』
『……ダラダラダラダラダラダラ、ダン!
お前とお前とお前とお前とお前ぇーーー!!』
『いや分かるかー!
カメラ越しに指差して、あっ私選ばれたんだヤッターてなるかぁ!!』
≪ヤッタ選ばれた!≫
≪副社長に指差された!!≫
≪お前って呼ばれたじゃんこれもう結婚じゃん≫
『いやなるんかい!
こんな客の前で漫才なんてやってられへん、もうええわ』
『『どうも、ありがとうございましたぁー』』
副社長と浪漫が画面に向かって礼をした。
「……面白かった。漫才って言ったよね?」
伊智花は副社長と浪漫が漫才という大喜利とはまた違ったお笑いをしていた事に気付いた。
画面を食い入るように見つめ、二人の言葉を待っている。
『はい、今見てもらったんは漫才という演芸です。
大喜利とは違って、二人で一つの演芸をやる形となります。まぁ三人やそれ以上の場合もあるんですけど、今は二人やと思って下さい』
浪漫が漫才について話し出し、伊智花を含む参加者はじっと浪漫の話に耳を傾けている。
『何で大喜利合宿の最後に漫才を見せたんか、それには理由があります。
大喜利だけがお笑いやないという事。この合宿参加者千人から、大会に出場出来るんはたったの百人だけ。
そして、大会ではその百人の中からさらに二十名を選び、
伊智花が浪漫の発言を受けて、息を呑む。大会に出場すれば、もしかしたら配信者としてVividColorsに所属出来るかも知れないと思っていたので、この発表は願ってもない事だ。
『上位十名の集団と、下位十名の集団に分かれてもらうので、目に見えてハッキリと優劣が付きます。これは非常にしんどいと思います
どうしんどいかというのはまたの機会にお話しするとして、一番言いたいのはお笑いは大喜利だけやないという事。
これを皆さんに知っといてほしかった。漫才もある、コントもある、演劇もあれば一発ギャクもある。
ここで選ばれなかったとしても、そして大喜利が得意ではなかったとしても、お笑いの才能がないという事やない。
別の形態のお笑いを目指すという事も出来るんやと、知っておいて下さい』
「漫才、コント、演劇、一発ギャク……」
伊智花が浪漫の言葉を受けて、まだ見た事のないお笑いへ思いを馳せそうになるが、我に返って首を振る。
「違う違う、私はお笑いがしたいんじゃなくって副社長と一緒に働きたいだけ!」
伊智花は副社長の元で働きたいという理由から大喜利を始めただけであり、お笑いに魂を売り飛ばすつもりはないのだ。
『では、大喜利大会への出場者の発表に移ります。
百人の名前を全員呼びたいところですが、かなり時間が掛かってしまうのでもっと手っ取り早い方法を取ります。
今見てもらってるこの配信画面に、見てる人の合否をドンと表示します。大喜利大会出場決定か、もしくは敗退か。そのどちらかです。
周りの迷惑にならないよう叫ばず、興奮して倒れないようにどこかへ座って下さい。
さぁ深呼吸して、奥歯を噛みしめて。
良いですか?』
伊智花が首を回し、深呼吸をし、奥歯を噛みしめる。
『それでは副社長、お願いします』
『結っ果発っ表ぉ~~~!!』
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