限定生配信:安藤旭が貴女だけに語り掛けています
清華は大学院生で、マスメディアが社会に与える影響についての研究をしている。
教授となぎなみ動画の将来の在り方について語ったり、学外では大司教としての役割を演じていたりと、割とストレスの多い生活を送っている。
「お元気そうで何よりです、と」
現在、副社長が生配信で雑談をしており、視聴者に対して元気な姿を見せている。
副社長 =
「あぁ、コメントをするだけでなく投げ銭がしたいわ……。
なぎなみ動画は無料会員であっても有料会員であっても、投げ銭機能を実装していない。
有料会員の月額費用がそれなりに高いのも理由の一つだが、投げ銭に頼る収益構造を忌避した為だ。
毎月必ず定額の収益が得られる事、そして広告収入と追加オプション費用で収益を得ているビジネスモデルである事を清華は理解しているが、それはそれとして投げ銭をする快感と配信者である伊吹からの反応を得る事が出来る刺激を求めているのである。
『投げ銭なんてしなくても、僕は清華さんの事をちゃんと見ているよ』
バシャン!!
突然スマートフォンの画面に自分の最推しである
「何なにどういう事!? ってスマホ!!」
清華のスマートフォンは防水対応の機種ではあるが、風呂場で使用する事をメーカーは推奨していない。
なおかつ、お湯に沈めるという想定をしていない為、不具合が生じる可能性が高まってしまう。
清華は急いで浴槽の底からスマートフォンを取り上げ、画面を確認する。しっかりと旭が映っている。
『くぁwせdrftgyふじこlp』
「きゃーーー!!」
画面は映っているが、スピーカーにお湯が詰まり、ちゃんとした音が出ない。清華は濡れた身体のまま風呂場を飛び出して、タオルで叩くようにスマートフォンについた水滴を拭き取る。
「ふーっ! ふーっ!」
スピーカー部分の水滴を息で吹き飛ばし、ようやく旭の声が聞こえるようになった。
『入浴中にバタバタさせちゃってごめんね、出直そうか?』
旭は自らの手で目を隠し、清華の裸を見ないようにしている。
「いいいいいいえ! 大丈夫ですわ!!」
何が大丈夫なのかは不明だが、清華本人が大丈夫と言ったので、大丈夫なのだろう。
『ホント? でも風邪引かれたら困るし、お湯に浸かりながら聞いてくれる?』
「はいっ!!」
清華は旭に言われるがまま、お湯に浸かり直した。
「えっと、副社長は今、生配信されている最中では……?」
浴槽の蓋をし、胸が見えないようにした清華が旭へと質問をする。先ほどまで副社長の生配信を見ていたのに、何故こうして旭が自分に語り掛けているのかが分からないのだ。
『親父殿は親父殿で、僕は僕だからね』
「は、はぁ……」
答えになっていないが、旭が言うのならばそうなのだろうと受け止める事にした清華。仮にも伊吹教の大司教と呼ばれる人間だ。こんな奇跡を体験しても、頭から否定したりしない。自分ならば、もしかしたら選ばれるのではという、ちょっとした厨二心を持ち合わせている。
『僕が今、世界中で清華さんだけに姿を現しているのには理由があるんだ。
実は、伊吹教の内部で他国の間者が潜り込んで、親父殿に害をなそうと機会を窺っているんだ』
「何ですって!?」
『しっ、声を大きい。僕はこの部屋に盗聴器が仕掛けられている可能性も考えている。
だから慎重に行動してほしいんだ。親父殿だけでなく、君の身に危険が及ぶかも知れないからね』
「……分かりました」
『すでにこちらの味方を伊吹教へ潜入させている。
……正直、僕達は伊吹教という名前は受け入れがたい。親父殿は神々の末裔ではあるが、神そのものではないからね』
「そうなのですね……」
『まぁ、今は呼び方はいいとして。
伊吹教には現在、複数の勢力が混在している。純粋に
大きく分けてこの三つの勢力だ』
「乗っ取り、ですか……」
また声を上げそうになった清華だが、旭が唇に人差し指を置いた事で、何とか抑える事が出来た。
『清華さんはどの勢力に入っている?』
「私は……」
清華は、たまたま見掛けた副社長のコスプレをした集団に話し掛け、仲間に加わった。最初は副社長やなぎなみ動画の一視聴者として、安藤子猫として、同好の志として活動に参加していただけだった。
それが、いつの間にか活動そのものに伊吹教という名前が付けられ、自らを大司教と呼ぶ人達に担がれ、先に参加していたはずの
元々は何の権限もない、一参加者であるはずの自分が、である。
「私は、知らず知らずのうちに誰かに担がれ、代表者として仕立て上げられていたんですね……」
『清華さんは元々、純粋に活動を楽しんでいたはずだ。が、今は伊吹教の大司教として代表者を務めている。
その資質はあったにせよ、自らが望んで今の地位にいる訳じゃないと僕は思っている。
そして、親父殿も自らを神として崇められる事を望んではいないんだ』
「何と、何と恥ずかしい事を……」
清華は今まで伊吹教内部で発してきた言動を思い出し、顔から火が出るのではないかという羞恥心に見舞われている。
『伊吹教はまだ行動を起こしていない。まだ間に合う。
皆の前に立ち、代表者たる振る舞いが出来る清華さんにだからこそ頼みたいお願いがあるんだ。
聞いてくれるかな?』
「……はい、私なんかで良ければ」
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