第二十一章:伊吹教
新興宗教
「残念ながら、今週開催の名古屋では雨が降っていると聞いています。
春も間近とはいえ、寒いと思います。今からお出掛けの方は暖かい格好をして、傘をお持ちになって下さいね」
≪傘持って行きます!≫
≪電車なう、家出た時は降ってなかったのに><≫
≪コンビニ入って売ってたら買おう≫
今日は名古屋において、朝から夜までずっと雨の予報になっている。
「公式グッズに傘があれば良かったんですけど、さすがにそこまで用意してなかったなぁ。
全ての場所での公平性の為、基本的に新しいグッズを追加発表するつもりはないので、今後も出せないかなぁ」
≪新しいグッズ下さい!!≫
≪事後通販があるって聞いてるので待ちますよ≫
≪事後通販っていつだろう、早くて四月?≫
「そうですね、四月末を予定しています」
≪それなら新しいグッズが逐次投入されても全然待てます≫
≪大喜利大会っていつ開催予定だったっけ?≫
≪確か五月だったような≫
「顔寄せ大喜利大会は五月開催予定ですね。こちらはもうすぐ正式発表する予定ですが、横浜にある横浜国際総合競技場を貸し切っての開催です。
大喜利大会出場者の選定が済み次第、入場券の予約受け付けを開始します」
≪収容人数七万人か、埋まるかな≫
≪絶対行きたい≫
≪副社長は観戦されるご予定ですか?≫
「観戦するつもりです」
≪絶対行きたい絶対行きたい絶対行きたい≫
≪七万人なんてあっという間に埋まるだろwww≫
≪海外からの応募は出来ますか?≫
「大喜利大会に関しては、参加条件なしなので海外在住の方でも参加可能です。
ただ、海外在住の日本人の方なら理解出来る内容だと思いますが、日本語が母国語じゃない人達にどこまで楽しんでもらえるかはちょっと未知数ですね」
≪大丈夫です、
≪応募ってもしかして観戦じゃなくて大会参加の方!?≫
≪世界中で日本語習ってる人が急増してるってニュースになってたね≫
「世界中で日本語が使われると嬉しいですね。どこの国に言っても話が通じるなんて、旅行がより楽しくなりそうです」
≪副社長に来てほしいです@スペイン≫
≪待ってます@南アフリカ≫
≪会場近くで傘配ってるのって
「ん? 傘を配ってる人、ですか?」
≪駅の構内で副社長のコスプレをした人にビニール傘を貰いました≫
≪私も貰いました、お金はいらないって言われました≫
≪皆で伊吹様を崇めましょうって言ってました≫
伊吹が配信用のマイクをオフにするようスタッフへ手で指示を出した。
「例の集団かな?」
「
もしかして、現地にも同じ思想の集団がいる、とか?」
伊吹の配信を見守っていた
「うーん……。
とりあえず今の生配信では触れずに、終わってからどういう扱いにするか皆で話し合おう」
第一回安藤子猫顔寄せ公式大会名古屋場所も無事に終了した。現在、
「傘を配っていたのは全員で十名。配った本数は少なくとも五百本以上だと思われます」
現地スタッフからの聞き取り内容を、
「五百本……。参加者を考えると決して多くはない本数だけど、全て自腹で配ったとするとかなりの金額になるな」
仮に一本二百円のビニール傘だったとしても、十万円以上が必要になる。
「その副社長のコスプレをした人達は顔寄せ大会の会場に入ったかどうかは分かる?」
「全員が会場外で待機していたようです。大会スタッフが接触し、話を聞いたそうですが、皆が拒否せず普通に受け答えをしたそうです」
大会スタッフの聞き取り内容として、副社長のコスプレをした集団は東海地区在住者ではないとの事。つまり、名古屋場所への参加資格がないのにも関わらず、長距離を移動して会場周辺で傘を配ったり、外で突っ立っていたという事だ。
「何が目的なんだろうな」
「クリスマスにゴム配ったり、バレンタインデーに男性向けのジョークグッズを配ったりするオフ会みたいなノリなんじゃない?
サンタさんからの贈り物的なノリで、こっちの世界で言うなら
「貴婦人? 貴族が平民へ施しをする的な?」
マチルダの口頭での説明では、伊吹に漢字までは伝わらなかった。
キャリーが転生者以外の女性陣へ向けて、ゴムやジョークグッズを配る集団について分かりやすく解説をしている。
「それにしては出費が高くないか? 往復の交通費だけでもかなりのものになるぞ。しかも朝からいたんだから、前乗りしてどこかのホテルに宿泊してたかも知れん」
「例えば、ですが……。
伊吹さんを崇めようと述べた通り、集団の目的は伊吹さんを神とした宗教活動そのものなんじゃないでしょうか?
今回ビニール傘を受け取った人に対して、何かを求めたたりビラを配ったりはしていないようですが、ビニール傘を配っている集団がいるという行為を周知させる事こそが目的なのでは?」
キャリーが独自の予想を口にすると、女性陣は皆納得するような表情を浮かべた。
「僕を神とする新興宗教、か。僕が許可を出してなくても、宗教活動自体は出来るから、それを隠れ蓑にしてお布施や寄付金を集めるつもりかな」
大日本皇国憲法において、信教の自由の規定がある。しかし、国家神道を国教とする前提で、国家の安寧秩序を妨げず、および国民の義務に背かない限りにおいての自由という解釈になる。
つまり、キリスト教を信じるのは構わないが、国家神道の方が上であるという扱いになる。
伊吹親王を神と崇める際、国家神道を前提とした宗教として成立するかどうかは微妙な線だ。
「いや、単純にイブイブを崇めたいだけじゃない?」
「金儲けじゃなく?」
女性陣はマチルダの意見に賛同しているが、伊吹には自分を神と崇めたいという心理を理解出来ず、困惑した表情を見せている。
「とりあえず、誰かをその集団に接触させたらいいんじゃない? 同じくいっくんを敬愛する人物なら、危害は加えられないと思うけど」
燈子の提案を受けて、伊吹が治へ指示を出す。
「治、何人か
『任された』
大会議室のディスプレイに映る治が返事をする。
「ここで治があれこれ言わないって事は、少なくとも僕に対しては害はないって事だよな?」
『そうだな』
治が把握している未来を全て伊吹に伝えたとしても、決してその通りになるとは限らない。伊吹が未来を知ってしまい、変に意識をしてしまう事で、わずかな行動の違いが発生し、それが元で未来が変わる可能性が高いからだ。
従って、治は積極的に伊吹へ未来を伝えないし、伊吹自身も必要以上に聞かないよう気を付けている。
「まぁ、潜入してもらった女性に危険がなければそれで良いんだけど」
こうして、伊吹を神と崇める集団に対する調査が開始された。
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