第三夫人と第四夫人
『
彼女達の目的は一体何なのか、突撃取材をして参りました。
ご覧下さい、どうぞ!』
伊吹が
他の女性達はそれぞれに仕事があるのでこの場にはいない。
『見て下さい、ざっと五十人ほどの集団でしょうか?
決して他の通行人や車などには迷惑が掛からないよう気を遣っているのが見て取れます。
しかし、遠くから見た印象としては、異様としか言い表せません』
「いつからいるんだろう。全然気付かなかったな」
暖かいお茶を飲みながら、伊吹が呟く。
「ここから外周まで数百メートル離れてるから気付くのは難しい」
「見て、全員がケッコン指輪してる」
橘香が指摘した通り、彼女達の指には最低一つはケッコン指輪がされている。ほとんどの女性が複数着けており、同じ色の指輪を重ねて着けていたり、ネックレスにひっかけていたりするのが確認出来る。
伊吹も美哉も橘香も、この集団は恐らくVividColorsに対して危害を加えるつもりはないのだろうと推測している。
『すみません、お話をお伺いしたいのですがよろしいでしょうか?』
『ええ、構いません』
報道番組の記者が、集団の先頭を歩く女性達に声を掛けたところ、取材許可が下りたようだ。
声を掛けられた女性を含めて三人が立ち止まるが、集団自体は止まることなく歩いて行ってしまった。
『皆さんは何の集まりなんかお聞きしたいのですが』
『私達は伊吹様の無病息災を祈願する為、こうして藍吹伊通り一丁目の外側を歩いています』
『殿下の健康祈願、ですか?』
『ええ、そうです』
「良い心掛け」
「なかなか見どころがある」
「……そうか?」
美哉も橘香もドット絵お面の集団を受け入れているが、伊吹は前世の記憶における新興宗教の暴走が頭を過ぎり、気味の悪さを感じている。
『私達が伊吹様の健康やお仕事の成功を祈りながらこうして外周を歩く事によって、少しでも伊吹様へとお力をお送りしたいと思っているのです』
「私達も明日から歩こうかな」
「良い考え」
「絶対に止めて!」
伊吹は美哉と橘香の腰に手を回し、自身の身体へと寄せる。
「僕こそ二人に対して力を送りたいと思ってるよ」
二人のお腹を撫でながら、伊吹がそれぞれの唇へとキスをする。
「私にじゃなく、この子に送ってあげてほしい」
「……そろそろ名前も考えないと」
美哉の子は女の子、そして橘香の子は男の子と確定している。順調に育っており、母子共に目立った不安もないと加藤医師から診断されている。
出産予定日は夏真っ盛りの頃なので、暑さでやられないよう無理のない範囲で食べたり身体を動かしたりして、体力をつけた方が良いと助言をもらっている。
「名前、名前なぁ……」
「男の子には伊を入れるとして、女の子はこれからもどんどん増えるだろうからよく考えておいた方が良いと思う」
「皇宮の意見も聞かないとダメなんじゃない?」
橘香の子が男の子で確定した為、二人は正式に伊吹の妻となった。男の子を身籠っている橘香が第三夫人、美哉が第四夫人である。
二人は出産後も侍女として伊吹のお世話をしたいと希望していたが、橘香の子が男の子である為にそうも言っていられなくなったのだ。
男性皇族を産む以上、橘香は伊吹と正式に婚姻を結び、皇族譜に名を連ねなければならない。
伊吹が橘香だけでなく美哉とも婚姻関係を結ぶ事を強く望んだ為、美哉と橘香が出産して落ち着いた後、儀式的な結婚の儀を執り行う事が正式に決定している。
現代においては、出産と結婚の順番がどうこういう習慣も薄れている為、特に問題はない。
むしろ、男の子を身籠った事で正式に妻として認められる、という逆転現象も起きているので、他の女性からは羨望の眼差しで見られる事の方が多いだろう。
『病魔に冒され、緩やかに終わりへと向かっていたこの世界を救うべく、現世へ御降臨なされた伊吹様は、そのお力を使い果たし、弱られています。
今こそ我ら女が伊吹様を祀り、拝み、祈願する事でそのお力を取り戻して頂き、さらなる世界の浄化を行って頂き、清浄なる世界へと作り変えて頂きたいと思っております』
「何言ってんだこいつ」
子供の名前を考えていた伊吹が、テレビの向こうで感情を昂らせて語っているドット絵のお面を着けた女性に対して言葉を失う。
「そうだったんだ……」
「なるほど……」
美哉と橘香が伊吹に向かって手を合わせ、拝んでみせる。
「いやノリ良過ぎだろ」
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