第十八章:顔寄せ大会
成長と進捗の確認
世界規模の停電から一夜明け、
生配信開始前からしていた分を含めると、書いたサインは五千以上。具体的な数字は把握していないが、全て伊吹本人が書いている。
停電後、特に大きな異常は見られなかったのだが、原因も未だ不明のままである。
停電が原因で起きた事故や亡くなった人などについては特に報道されていない。
昼過ぎ、ふと目が覚めたので、伊吹は
「やぁ、お邪魔するよ」
「邪魔じゃない」
「嬉しい」
美哉と橘香のお腹はそれぞれ大きく目立ち、顔つきもふっくらとして見える。伊吹は負担を掛けないよう気を付けながら、それぞれをそっと抱き締める。
美哉と橘香の周りには宮坂警備保障の人間、そして皇宮警察の警察官、皇宮から派遣された侍女達、それとは別に
「お、今日はコーヒー?」
伊吹もすっかり見守られる生活に慣れてしまい、気にせずに妻達との会話を楽しむ。
「そう、たんぽぽコーヒー」
「カフェインが入ってないの」
侍女の一人が伊吹に飲み物を聞いてきたので、同じ物を頼んだ。
「いっくんが起きるまで付き合ってもらってたのよ」
燈子と紫乃もたんぽぽコーヒーを飲んでいると聞き、伊吹は運ばれてきたカップに何の躊躇いもなく口を付け、そして眉間に皺を寄せる。
「コーヒーに麦茶を入れた感じ?」
橘香が侍女に伊吹へコーヒーを出すようにお願いするが、伊吹は美哉と橘香に遠慮し、侍女に持って来なくて良いと笑う。
美哉と橘香が好きなコーヒーを我慢しているのに、目の前で飲むのは憚られるからだ。
「それで、燈子は僕に何の用だった?」
「あぁ、実は……」
「失礼致します、両殿下。
橘香様と美哉様の前ではお仕事のお話はご遠慮願います」
皇宮から派遣されている侍女の一人が深々と頭を下げながら、伊吹達へ苦言を呈する。
「あぁ、そうだね。忠言ありがとうね」
「いえ、とんでもございません」
侍女は頭を下げたまま、後ろへと下がる。
伊吹はそこまでしなくても良いのになぁ、と思いながらも、自分も気を付けねばと思い直す。
「燈子、もうちょっとゆっくりしたら、場所を変えようか」
「そうだね」
紫乃も伊吹へと頷いてみせる。
そんなやり取りをしていると、橘香が小さく呻いた。
「どうした? 大丈夫か?」
「……大丈夫、動いてるみたい」
伊吹が立ち上がり、橘香の隣へ膝をつき、ゆっくりと橘香のお腹へと耳を当たる。
「うーん、分からん」
「ずっと動いてる。お父さんと一緒にいるのが分かってるみたい」
「そっか、ずっと動いてるのか。ヤンチャ坊主だなー」
耳をつけたまま、お腹の子へと語り掛ける伊吹。
「あっ、こっちも動いてる」
伊吹は立ち上がり、今度は美哉の隣へと膝をついて、同じようにお腹に耳を当てる。
「あ、動いたのが分かった! こっちもお転婆だな」
「殿下、あまり大きな声を出されては……」
伊吹は侍女に謝りつつ、美哉のお腹に耳を当てたまま橘香のお腹へと手を伸ばし、語り掛ける。
「ゆっくりでいいぞー。大きくなれよー」
兄と妹か、それとも姉と弟か。まだ見ぬ子供達に語り掛ける伊吹の頭を、美哉と橘香の手が優しく撫でていた。
それだけを見ると微笑ましい光景なのだが、今にも伊吹へ掴み掛りそうになっている皇宮から来た侍女と、それを必死で止める三ノ宮家の侍女がおり、燈子は自分の時も大変なのだろうなぁとひっそりと覚悟を決めていた。
伊吹と燈子と紫乃は、場所を変えて副社長室のソファーに座っている。かねてより宮坂信販と共同で開発していたスマートリングの完成品が届いたので、伊吹への報告だ。
「いっくんと私が話し合ってデザインした指輪、全部で五種類。これはいっくん用だよ」
燈子が伊吹へ一つずつ指差して説明する。それぞれ
副社長として生配信する際に、伊吹は普段から着けている結婚指輪を外さないので、生配信で着用するのは慈音モデルのスマートリングのみになる。
「発表はいつが良いって?」
「いつでも良いとの事です。生配信で発表し、事前通販で現地渡しと、現地近くの特設販売会場を設営して販売と、事後通販を予定しています」
紫乃がタブレット端末で、宮坂信販との打ち合わせで決定した内容を見せる。
「ならもう今夜あたりに発表してしまおうか。早い方が良いだろうし」
「誰が発表する?」
慈音として発表すると、自分のモデルは良いとしても四兄弟の分を紹介するのはしっくりこない。
副社長として発表するのが一番無難ではあるが、普段から着けている結婚指輪とは別に、スマートリングを新たに嵌めるのはちょっと面白味に欠ける。
「んー、じゃあ機密情報を入手したって事にして、敵対勢力が勝手に発表したという形を取ろうか。
それで良いか宮坂信販に確認して、了承出たらそれで行こう」
「じゃあ、彼女達の口からならあの名称を出しても良い?」
「それは……」
「いっくんの口からじゃないから、非公式という形に出来るでしょう?」
「……分かった、そうしようか」
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