BrilliantYears

 イサオアールの社長が藍子あいこへ挨拶をしたいとVividColorsヴィヴィッドカラーズへ連絡を入れてきた。

 何事だと思った秘書の一人が詳しく確認すると、どうやらイサオアールはYourTunesユアチューンズでの活動では収益が上がらないので、会社を畳むつもりだと言う。

 それに伴い、所属Vtunerブイチューナー六名が契約解除になってしまうので、可能であれば引き取ってもらえないか、という相談がしたいという話だった。

 秘書が藍子と伊吹いぶきへ報告し、イサオアールの社長が来社する際に六名を連れて来るよう伝え、全員と面会する事となった。



「ただでさえハム子のやらかしがあり、うちのチャンネルの登録者が減っていたところにYourTunesのサービスが不安定になり、視聴者がどんどん減っていって、もうどうしようもないんですよ。

 なぎなみ動画に登録しようにも、VividColorsさんには色々とご迷惑をお掛けしましたから、どんな顔で活動を続ければよいのかという状態でして……」


 きょくノ塔、応接室。イサオアールの社長、板野いたのは六名の所属Vtunerと共に、藍子へと深々と頭を下げた。


「いえ、すでに私達は伊地藤いちふじ玲夢れむを受け入れている以上、他の人を許さないなどと言うつもりはないんです。ただ、お互いそれを言い出すきっかけを失っただけで。

 ですので、板野社長からご連絡を頂いた時は胸のつっかえが取れたような気がして、ホッとしたんですよ」


 だからお掛けになって下さい、と話す藍子を見て、板野社長が涙を流す。


「私がハム子とそのマネージャーを管理し切れなかったせいで、藍子様には誠にご迷惑をお掛けしまして、本当に申し訳なく思っております」


 揉めていた相手がとんでもない存在になってしまい、板野社長としてもどうしてよいのか分からずに余計に身動きが取れなくなってしまっていた。

 が、会社を畳むと決めた以上、最後の挨拶はしっかりしておくべきと思い、この場に臨んだのだ。


「社長はまだお若いですよね? 今後はどうされるおつもりですか?」


「いやいや、若いなどとんでもない。私は四十を越えたおばさんです。まぁ、子供を得る機会がなかったので、一人でも何とかやっていけると思っています。

 ですが、この子達は違います。この六人はVtunerとしてまだまだやっていきたいと思っていますし、やっていけるだけの才能があると思うんです」


「ええ、私がスカウトした子達ですから、私もそう思います」


 今日板野社長が連れて来たのは、二階にかい如月きさらぎ三村みむら弥生やよい五条ごじょう皐月さつき七海ななみ文月ふみつき十文字じゅうもんじ神無月かんなづき郡士ぐんじ霜月しもつきの六人だ。

 皆は藍子を裏切った謝罪の気持ちを伝える為にと、スーツ姿でお行儀良くソファーに座っている。


「藍子様さえ良ければ、もう一度VividColors所属Vtunerとして活動の面倒を見てやってはもらえませんでしょうか!?」


 そう言って、また板野社長が立ち上がって頭を下げる。そして、六人の女性達もまた、藍子へ向かって頭を下げる。


「話は聞かせてもらった」


 応接室の扉が開かれ、ドット絵のお面を付けた男性、伊吹が部屋へと入って来る。


「ふ、副社長!?」


 板野社長は伊吹の姿を見るやいなや、床へと手をついて土下座をした。板野社長に倣ってか、六人の女性達も同じく床に手を付く。


「こうなるだろうからって別室で待ってもらってたのに」


「うちに所属するってなるなら顔は絶対に合わせるから問題ないでしょ。

 さて、板野社長と皆さん。顔を上げてソファーへお掛け下さい」


 そう言って、伊吹が藍子の隣へと座る。

 戸惑いつつも、板野社長らは言われた通りにソファーへと座り直す。


「まずは本人達から直接意思確認したい。

 皆さんは六人全員、Vtunerとしての活動を続けていきたいですか?」


 六人の女性達は、伊吹の問い掛けに対してすぐに頷いてみせた。


「良いでしょう。

 ただ、辞めずに残った睦月むつき葉月はづき、全裸になりながら謝罪してみせた玲夢れむ、そして一足先に復帰した水無月みなづき長月ながつき極月きづき

 この六名と全く同じ扱いというのは難しい」


「もちろん、仰る通りだと思います。

 みんなも、そんな図々しい事は考えてなかったね?」


 板野社長の問い掛けに対して、六人は大きく頷いてみせる。


「よろしい。

 実は、VividColors所属のVtuner団体とは別の団体が欲しいなと思っていたんですよ」


「別の団体、ですか」


 板野社長の問い掛けに、伊吹が頷く。


「なぎなみ動画内にこれから様々なゲームを発表していく予定です。例えるならば、ゆるりクラフト生活のようなものです」


「存じております。あのゲームはVtunerと非常に相性が良いと思っておりました」


「お分かり頂けますか!

 そうなんです、あのゲームは配信者と非常に相性が良い。

 ただ、うちの所属Vtuner同士で仲良しこよししてても、いつか飽きられてしまうと、そう思いませんか?」


 板野社長が腕組みして考える。


「確かに、いつまでも続けるのは難しいかもしれません。

 なるほど、だからVividColors以外のVtunerがほしい、と。競わせる訳ですね?」


 伊吹が声を上げて笑う。


「板野社長は勘が良いですね。さすがイサオアールの社長をしておられるだけの事はある」


「いやいや、私なんぞ、ハム子に振り回されていただけに過ぎません」


「いや、そんな事はないはずだ」


 伊吹が板野社長を真っ直ぐに見つめ、問い掛ける。


「どうですか、板野社長。イサオアールの株を丸ごと私へ売ってくれませんか?

 社長は貴女が続けて下さい。そして、所属Vtunerの六人をそのまま支えてあげてほしい。

 彼女達の為にわざわざこうして挨拶に来れるほどの貴女ならば、きっとお互い上手く活動出来ると私は思いました」


 突然の買収提案に、板野社長がたじろぐ。


「し、しかし……」


「VividColorsに対抗して、BrilliantYearsブリリアントイヤーズとして六人が集結した事にしましょう。事あるごとにVividColors所属VtunerとBrilliantYears所属Vtunerがいざこざを起こす。

 会社が別である方が世間は興味を示します。しかし、よくよく考えればなぎなみ動画内の同じ生配信で顔を合わせている以上、裏では繋がっているのは明白。


 いわば茶番です。ですが、だからこそ視聴者は安心して見ていられる」


「なるほど……」


「返事は今すぐでなくても問題ありません」


 そう伊吹が伝えたところ、六人の女性達が板野社長に掴み掛り、口々にこの話を受けて下さいと訴えた。

 あまりの勢いに板野社長の首がぐわんぐわんと揺れる。


「わかっ、分かったから! お願いしまっ、ちょっと破れるから!

 お願いしっ、痛い痛い痛いっ!」


 こうしてVividColorsは傘下にイサオアールを迎え入れ、元二期生の二階如月、三村弥生、五条皐月、七海文月、十文字神無月、郡士霜月の六名がなぎなみ動画で活動をする事となった。



★★★ ★★★ ★★★



ここまでお読み頂きありがとうございます。

明日より一日一回朝七時頃のみの投稿に変更します。


応援のハートもコメントもレビューも全て拝見しております。

とても嬉しく、励みになっております。

感謝。


今後とも、よろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る