投稿動画:「凄絶震撼映像ヤバすぎ!」舞台裏解説その二

『で、床下を掘ってもらってる間に近くの事務所風の建物に移動して、なな動に投稿されてる少女達の動画を見る場面を撮影したんだよね』


『ディスプレイに映ってる動画は後からのはめ込みだよー』


『カメラの画角を決めた後はあたし達を残してスタッフさん全員いなくなったよね。

 次の場面の撮影までかなり時間が空いてるから、何度でも仕切り直して良いからって言われて、結局五回くらい撮ったっけ』


『実は使われたのは四回目なんだって。翔太さんは何か知っておられますか?


『五回目になると三人共ちょっとだけ演技に慣れちゃって、それが不自然だって判断されたって聞いたよ?』


『なるほど。それが実録風映像を撮影する時の重要な点なのでしょうか』


『そうだね、あくまで実録であるかのように演技してもらわないとダメだからね』


『これは視聴者の皆さんが撮影に挑戦する時にも大事なところだよー』


『はい、次の撮影場面ですね。

 夕方になりまして、先に監督と助監督が三人の少女に話を聞く場面を撮りましたね』


『今映っているのが少女ABCを演じる六平むさか水無月みなづきちゃん、九野くの長月ながつきちゃん、石王丸いしおうまる極月きづきちゃんです』


『この三名は一度VividColorsヴィヴィッドカラーズから離れたものの、ゆめきかくにもイサオアールにも所属せず、個人勢としてVtunerを続けていた人達なんだって。

 親父殿が声を掛けたらVividColorsへ戻って来てくれたんだってさ』


『あったな、ゆめきかく』


『うっ、胸が痛む……』


『はーちゃん、あんまりイジメないのー。

 でも久しぶりに顔を合わせたから、何となくギクシャクしてたよねー』


『和気あいあいとされるとそれが演技に影響するからって、あえて撮影本番まで会わせなかったって親父殿が言ってたよ」


『そういうところから演出が始まってんのか』


『三人の少女に話を聞いて、門扉を開けて入って行って、玄関を叩いて声を掛けて、裏口を探して回り込んで、縁側のガラス戸を叩いて、着物姿の女性が出て来て、監督が話し掛けて、少女の姿を見て着物姿の女性が豹変する。

 ここまでひと場面長回し撮影だったんだよね。

 長かったなぁ、間違えたらどうしようって内心ビクビクしてたよ』


『ちょうどれーちゃんがセリフを間違えた場面だねー』


 ≪「この家であなたを見たという話を聞いて来たんですけど、ろくろ首はこちらの家に住んでるんですか?」≫


『最初からこの女性がろくろ首って分かってるような聞き方で草』


『この場面は二回で撮れたって聞いたよ。親父殿は驚いてたね。

 やっぱりVtunerとして普段から演技してるからかなって』


『Vtunerとしてってのは余計だわ』


『まぁまぁはーちゃん』


『睦月が一番困る話題だと思うんだが?』


『おほんっ!

 えっと、着物姿の女性が奇声を発した後、ここらへんまで首が伸びるから、ここを目掛けて金属バットを振るようにってはーちゃんが言われてたんだよね』


『そう。ただ振るだけじゃなくて、途中でろくろ首の頭に当たるから、そこで振り方を変えないといけないって言われてさ。

 途中までは肘と手首も使って振るようにして、頭にぶつかったであろう場所で腰のひねりだけで振るようにしたんだよ。

 何回も何回もバットを振らされて、次の日筋肉痛で大変だった』


『そして手に力が入らずに金属バットがすっぽ抜ける場面がこちら』


 ≪ガシャーン!

  「あー! どうしよう、ケガしてないですか!? 大丈夫ですか!?」≫


『いつもふてぶてしいはーちゃんが室内にいたスタッフさんを気遣うという貴重な映像ですね』


『これは流すべきではないのでは?』


『はははっ、ごめんね。こういう舞台裏も大事な記録なんだよね。

 あと、何度も撮り直したのは撮影班も特殊効果班も慣れてないから試行錯誤しながらだからだね。

 素人の視聴者さんが撮れるのと同程度の動画に仕上げる為に、映画制作に携わった事のある専門職の人にはお願いしてないんだよ』


『そういうところにも気を使ってたんですね』


『あくまで動画投稿してくれる人を増やす為の動画だからね。

 あまりに物語が良く出来てて、撮影技術の高い映像を見せても、自分も撮ろうってなりにくいと思うんだ』


『飛び散ったガラスを片付けて、割れてないガラス戸と位置を入れ替えて撮影再開したんだよねー』


『で、気絶したろくろ首が目を覚まして、慌てて家の中に逃げていく場面ですね。

 ここから室内を走っていって、床下の階段を見つけて、降りるまででひと場面ですね』


『次の撮影が少女達がスマートフォンで投稿動画を撮影する場面ですね。

 さっき六人でいた路地まで戻って、少女達三人だけでの撮影になります』


『スマホを使って撮影しているところを少し離れたところから舞台裏撮影班が撮影してるよ。

 こっちが同じ路地での撮影班で、こっちが近くの家の二階から見下ろす形の撮影班ね』


『本編よりもお金掛かってんじゃない?』


『そーだけど、あくまで撮影方法を視聴者さんに教えて、動画投稿が増えるように促す為の舞台裏映像だからねー』


『皆さんもお気軽に映像撮影に挑戦して下さいね!

 大事なのはまず撮る事です。動画を撮らないと投稿出来ません!』


『何を当たり前の事を……』


『この場面も一回で撮れたって聞いてるよ』


『スマートフォンをビデオ通話にして、そのビデオ通話を着信している端末で同時進行で動画を確認してるから、出来栄えを見ながらすぐに判断出来るんだよー』


『この時のガラス戸に顔をつける場面は、台に乗って顔だけが映るようにしてるんだよね』


『これがその場面を後ろから撮影してる舞台裏映像です』


『この女優さんはテレビドラマにも出演されてる有名な人なんだよ。

 顔を知られてる人の方が作られたお話だって分かるだろうからって親父殿がお願いしたら、快くお仕事を受けてくれたんだって』


『なお、現在VividColorsヴィヴィッドカラーズでは所属女優さんの募集はしておりません。

 ドラマや映画を制作する際は女優事務所にお声掛けさせてもらうと思いますので、その際はよろしくお願い致します』


玲夢れむはこう言ってるけど、そのうち女優事務所ごと買収するんじゃないの?』


『コラはーちゃん、次は事務所からの問い合わせが増えちゃうでしょー?』

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