ホノルル会談
デイヴィッドが
全てはデイヴィッドの父であるライル・サンダースの責任であるという日本に書き換えられた事実を吞んだ上での謝罪であり、全面降伏に近い内容である。
また、アメリカ合衆国はサラ・トランスの引き渡し要求を撤回している。
戦争状態ではあったが、公式上は物理的な戦争に発展していないので、降伏文書調印などの外交儀式は行われない。
なお、深酒をして病院に搬送されていたアメリカ大使はすでに解任されており、同じく日本に駐在しているアメリカ外務省アジア・太平洋局長がアメリカ大使を兼任する事が決定している。
日米首脳会談はハワイで行われる事となった。
アメリカに組み入れられた直後、世界的に男性が激減した為、ハワイの統治にまで手が回らずにアメリカが手放してしまったという経緯がある。
ハワイを統治していた一族が日本を頼り、ハワイ県として日本へ併合された。
一応アメリカとのゆかりもあるという事で、ハワイの県庁所在地であるホノルルが選ばれたのだ。
「日差しがすごいな、肌が焦げそうだ」
「ホントだねぇ」
今回伊吹に着いて来ているのは、藍子の他に
今回の伊吹の訪問の目的は、サンダース家の新当主であるデイヴィッドとの会談だ。
政府間の事前交渉の結果、伊吹はサンダース家から
後は実際に顔を合わせて、サンダース家当主から正式に謝罪を申し出て、伊吹が謝罪を受け入れる、という形式的なやり取りがされるのみ。
「景色はすごく良いんだけどなぁ。海で泳ぎたいけど日焼けが恐いな」
「一時間に一回は日焼け止めを塗り直さないといけないからね。
伊吹は藍子の提案に首を振る。一丁目から二丁目へ移動するのに八時間も九時間も掛かるのは不便だ。年に一回も来ないだろう。
「別荘はあっても良いかも知れないけどね」
「ご主人様、別荘ならば皇室御用邸がございます」
伊吹達の宿泊先が、その御用邸である。
「堅苦し過ぎるんだよなぁ」
思い付いてから実際に来るまでに、色々な役職の人の手を介して予定を立てて、二ヶ月から三ヶ月ほど掛かる別荘など使いにくい。伊吹としてはもっと気軽に来れる別荘の方が嬉しいだろう。
会談時間となり、伊吹は皇国ホテルの最上階、金剛の間へ向かった。すでにデイヴィッドが待機しており、伊吹の入室に合わせて立ち上がり、深く頭を下げる。取材を許された報道陣がシャッターを切る。
伊吹もデイヴィッドも事前に示し合わせ、ハワイにおける正装であるアロハシャツ姿だ。
デイビッドから伊吹に対し、今回のライルの行いやAlphadealと
二人が対面したソファーへ座り、カメラマンがその姿を写真に収め、ここからは報道陣は締め出しとなる。
報道陣が全て退出した後、デイヴィッドは伊吹に対して土下座をした。
「このたびは、わたしのちちが、でんかのたいせつなおくさまにきがいをくわえてしまい、たいへんもうしわけございませんでした!!」
拙い日本語での精一杯の謝意を示すデイヴィッドに、伊吹は感心した。伊吹が何に対して怒っているのかしっかり考えた上での謝罪だったからだ。
伊吹はソファーから立ち上がり、デイヴィッドの肩に手を置いて謝罪を受け入れると話すと、デイヴィッドは心底ホッとしたような表情を浮かべた。
謝罪を受け入れる事と、賠償内容とは別の話だ。デイヴィッドがソファーへ座り直し、改めて賠償内容について双方で確認をする。
サンダース家の保有するAlphadeal株のうち、五十三パーセントを伊吹が譲渡を受ける。当初、デイヴィッドは
伊吹が今後、どのようにAlphadeal株を売買しようが、突っ込まれにくいからというのが理由となる。
それとは別に、VividColorsへサンダース家から五百億円分のアメリカドルが賠償金として支払われる。これは、藍子が記者会見で話していたVividColorsが年末年始で得られたであろう収益予想額に、謝罪の意を上乗せしたものである。
「これはあくまでこちらの希望として話すのだが、VividColorsは
謝罪と賠償の話し合いを終えて歓談へと移った際に、伊吹がデイヴィッドへそう切り出した。
デイヴィッドは可能性の一つとして想定していた為、驚く事はなかった。
「GoolGoalの検索エンジンをお渡しする事については、サンダース家の当主とはいえ私の一存では決めかねます。臨時株主総会を開いて各株主の意向を確かめる必要があると思われます」
日本政府が用意した通訳がデイヴィッドの話した内容を通訳する。
「なら問題ないな。恐らく過半数の了解を得る事だろう。
GoolGoalの検索アルゴリズムをアマテラスへ移管し、アマテラスの検索エンジンを参照してGoolGoalが検索サービスを続ければ良い。
デイヴィッドはもちろん、臨時総会で私の議案に賛成してくれるね?」
通訳の言葉を確認した上で、デイヴィッドは伊吹の目を見ながら頷いた。
「それともう一つ欲しいものがある」
伊吹が事前に協議されていない新たな要求を出した事で、初めてデイヴィッドの顔に緊張が走る。
「そんなに身構える事はない。
欲しいのは、貴方の声だ」
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