内部告発
アメリカ政府は駐日アメリカ大使を通じて日本政府との交渉を進めようとするが、アメリカ大使と全く連絡が取れず、対応が後手後手に回る。
アメリカ大使はアメリカ政府の認識の甘さに嫌気が差し、前日から深酒して死んだように寝ており、大使館職員がどれだけ身体を揺すっても反応を示さない。
責任を感じて自殺を図ったのでは、と疑った職員が、救急車を要請してしまい、大使館を取り囲む報道陣に搬送されるアメリカ大使の写真を撮られるという大失態を犯した。
次の証券取引所の営業開始時間までに事を解決する道筋をつけるのは不可能だ。しかし、とりあえず政府高官を政府専用機に詰め込んで日本へ送り込んだ。
このままではアメリカが保有する資産がどんどん消えてなくなる。アメリカ政府は世界各国が大日本皇国と手を組んでアメリカへ攻撃を行っている事は把握しているが、経済面での攻撃は市場のルールに則った正規の方法で行われている為、批判するのは難しい。
アメリカ近海では皇国海軍やイギリス海軍、スペイン海軍などが緊急軍事訓練を行っており、軍事的緊張も高まって来ている。
名指しで相手国を非難する事は可能だが、即時解決は非常に難しく、より事態を混乱させる事になる。こちらも正攻法で買い支えるという防衛戦をしつつ、正規の外交ルートで解決案を模索するしかない。
証券取引所の全取引を停止させるという奥の手もあるが、それを行うとアメリカは自由の国ではなくなってしまう。
アメリカ政府は引き続き駐日アメリカ大使へ呼び掛けると共に、サンダース家と接触。当主であるライルが帰国していないが、ライルに代わる当主を立てる事が可能か、サンダース家全体の世代交代は可能かなどの聞き取りという名の強制捜査を行った。
幸い、ライルの息子が次期当主として指名を受けており、ライルが帰国後すぐに空港で身柄を確保する事に同意を得られた。ライルの妻達はかなり拒んだようだが、ライルの息子が黙らせたようだ。
ライルはそのまま入院する事になり、当主としての役目を継続困難と判断し、息子であるデイヴィッドへ当主の座を譲る形で引退させる事を決定。
問題はこれからだ。大日本皇国へ、そして
大日本皇国に関しては、利益相反し摩擦を起こしていたいくつかの資源価格について譲歩すれば、恐らく話をつける事が可能だろうと推測される。
が、伊吹親王については情報が少な過ぎる。VividColorsの生配信を見る限り、ライルが伊吹親王の妻の一人とぶつかり、ケガをさせたのではと予想されるが、詳しい事情が未だ把握が出来ていないのだ。
その妻がライルにとってのサラ・トランスのような扱いなのか、それとも心から愛している妻なのか。
アメリカを攻撃する都合の良い理由となったのか、それとも妻への愛故にアメリカを攻撃しているのか。
捉え方を間違えれば、アメリカは世界中を敵に回す事になる。
ワシントンDC現地時間、夜の二十二時。ワシントン・エイヴリー空港にライルが到着。空港の到着ロビーにはすでに多くの報道陣がライルの顔を撮影しようと待ち構えている。
アメリカ政府はライルを大きめの楽器ケースの中に隠して台車に乗せて運び出したが、途中でライルが暗所と閉所に閉じ込められている事からパニックを起こしてしまい、報道陣にバレてしまう。
ライルは報道陣からの罵声に近い質問を受けて心神喪失、泣き叫びながら空港の駐車場を逃げ回る姿が写真や動画で収められた。
空港を出て、ライルはそのまま政府関連施設へ連行される。拘束はされないものの、自由に外へ出る事は叶わない。
ライル本人は現在、受け答えが出来る状態ではないので、彼の執事から事情聴取が行われた。
執事はVividColorsの記者会見内容に嘘がない事を認め、さらにライルが伊吹の子を宿している妊婦を突き飛ばし、床へ転ばせた事を報告した。
「何でもっと早く言わないんだ!?」
「ライル様は直接日本駐在大使から聞き取りをされたはずですが?」
執事はアメリカ大使館に滞在している際、散り散りになっていたライルのお付きと連絡を取り、ホテルの清算や迎えの手配などをしていた為に同席していなかった。
「サラ・トランス氏の告発については?」
「あれはほぼ嘘です。彼女が自らの責任をライル様へ擦り付けるつもりなのだと思います」
で、あれば、それがもしサラの独断であったとしても、その背後に日本の指示があるかのように報道すれば、あるいは。
そう政府高官が筋書きを考えている最中、別の高官が新たな情報を上げる。
「
それだけでは終わらない。
「
その他、複数のAlphadealグループ関係者からライルを告発する内容の情報が続出する。
これが大日本皇国及び連合国側の情報工作だとしても、すでに世界中に流出してしまった以上、サラの身柄を確保したとてどうしようもない。
「こちらがどのような対応に出ようとも、皇族の子を宿している女性に対して危害を加えた事は事実。
この戦争は、我らの負けだ」
すぐにアメリカ大統領から大日本皇国総理大臣へ電話会談を申し込み、全面的にアメリカ及びAlphadealの非を認めて謝罪がなされた。
この情報は新たなアメリカ大統領報道官の緊急記者会見で公開され、世界中に広まる。
のちの世で、アメリカの無条件降伏と呼ばれる歴史的出来事となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます